つれづれ語り(投票と民主主義)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年11月10日付に掲載された第122回は、「投票と民主主義」です。若い世代が投票に行かない理由として挙げる「わからない」と「変わらない」にどう対応していくべきか、「投票にいくこと」の先にあるものについて書きました。

投票と民主主義

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先の総選挙における新潟6区の投票率は67.79%で、全国に289ある選挙区の中でもっとも高かった。新潟は県全体でも全国で2番目に高い投票率を記録している。

とはいえ、その新潟6区でも、およそ3人に1人が投票に行っていないという計算になる。特に、若い世代の投票率が低いことは、将来に向けた大きな懸案事項だ。若い世代が投票に行かない理由として挙げる2大要因は、誰(どの党)に投票したらよいか「わからない」ということと、自分が投票に行っても行かなくても「変わらない」ということだ。

「わからない」

誰(どの党)に投票したらよいか「わからない」という人向けに、いくつかの質問に答えるだけで自分の考えと政党が掲げる政策との一致率を示してくれるマッチングサイトがつくられている。こうした工夫にも一定の効果はあるだろう。

しかし、そもそも質問内容がよくわからないという人や、そもそも政治や社会の問題に興味がないという人もおり、対策として十分とは言えない。質問項目に掲げられているような政治課題それ自体について、理解を深めたり興味や関心を持てるような働きかけが必要だ。そのための最適な手段は、主権者教育だろう。

ただ、実際に学校現場で行われている主権者教育の多くは、模擬投票を体験し、選挙に行くことの意義を強調するだけの、「選挙教育」にとどまっている。「選挙に行こう」というわかりきったお題目を述べるだけでは、思考の深まりも認識の発展も期待できないし、政治や社会の問題について興味を持つきっかけともなり得ない。社会で現実に問題となっている具体的な事柄を取り上げ、理解が深められるようにしていくべきだろう。

「変わらない」

また、若い世代が自分の1票では何も「変わらない」と思うのも無理はない状況がある。服装や髪型を自分で決める自由すら制限され、「ルールである以上はとにかく守らなければならない」という一面的かつ浅薄な価値観に基づく指導により、自分で考え行動することを押さえつけられているからだ。そこまでガチガチに管理しておきながら、選挙のときだけ投票先を自分で選べと言われても、当惑するしかないであろう。

自分たちが快適に過ごすためにはどのようなルールが必要なのかについて自ら考え、みんなで話し合って決めるという民主主義の基本を学校生活の中で実践すること、そうした経験を通して子ども達の主体性を育んでいくことが求められている。

投票して終わりではない

選挙は重要な機会ではあるが、一局面に過ぎないとも言える。投票に行くことは大切だが、投票に行けばそれでお終いということでもない。自分たちが暮らす地域や社会をどうしていきたいか、それを実現するためにどのような方策をとるべきか。一人ひとりが自分なりの意見を持ち、学んだり語り合ったり行動したりすることが当たり前の社会にしていきたい、と強く思う。

今回の市長選挙では、若い世代がSNS等を通じて、自分が特定の候補を応援していることを宣言し、どうしてその候補を推すのかについて自分の言葉で語り、投票を呼びかける姿がいくつも見られた。「政治的な話題を表立ってすることは避けた方がよい」という古くさい因習に囚われない爽やかな意見表明に触れ、社会が次のステージへと進んでいくための貴重な一歩となるのではないかと感じた。


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