つれづれ語り(豪雪と新聞代金)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年1月20日付に掲載された第101回は、「豪雪と新聞代金」です。
篤子弁護士が、子どもとの会話を入り口にして、身近な法律問題についてわかりやすく解説しています。

豪雪と新聞代金

1 35年ぶりの大豪雪

上越市では35年ぶりの大豪雪でしたが、みなさん、ご無事でしょうか。市内の小学校は今日から登校再開となり、私もようやく仕事に本格復帰することができます。

私にとっては生まれて初めての豪雪体験で、非常に多くのことを学びました。子どもたちや次世代のために、今回得た教訓を適切に引き継いでいかなければならないと思います。そのためには、「喉元過ぎれば」でやれやれと終わることなく、自治体と住民が一体となって、今回の災害対応や事前の防災体制などについて丁寧に検証していく必要があると感じています。

2 息子の疑問

さて、豪雪の真っ只中のある日、息子から、こんなことを言われました。

「新聞、届いてないの?お金払っているんでしょ?損しちゃうじゃん。」。

幹線道路の除雪もままならない時でしたから、「そんな自分勝手なことを言ってる場合じゃないでしょ。みんな大変なんだよ。」と少々感情的にたしなめたのですが、もしかしたら、弁護士の息子として、純粋に法的な関心を抱いただけだったのかもしれません。落ち着いた今になって少々反省。今さらですが、少し解説しておこうと思います。

3 災害と新聞代金の問題

今回、上越市内では、豪雪のため道路の除雪が間に合わず、物流は停止し、新聞の配達もできなくなってしまいました。では、新聞会社は、道路が復旧してから未配達分の新聞をまとめて配達すれば、通常どおり代金を請求することができるでしょうか。逆に、購読者は、その日の新聞を読めなかったことについて損害賠償を請求したりできるでしょうか。

4 不可応力による履行不能

商品の種類や性質等から、特定の日時や一定の期間内に履行されなければ契約の目的を達することができないものを「定期行為」といいます。新聞(日刊紙)は、その性質上、定期行為といっていいと思いますが、それを前提とするならば、当日中に配達できなかったことで、その債務は履行不能となります。つまり、履行が「遅れた」のではなく、履行が「できなかった」ということになります。

履行不能の場合の代金の取扱について、民法第536条1項は「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と規定しています。つまり、自然災害などの不可抗力によって履行不能となった場合、買主は代金の支払いを拒むことができると民法は定めているのです。

一方、民法第415条は、債務の不履行が、「債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは」、損害賠償請求をすることはできないと定めています。よって、自然災害などの不可抗力により履行不能となった場合、損害賠償の請求はできません。

以上を簡単にまとめると、「新聞が届かなかったのは新聞社のせいじゃないから、損害賠償を求めたりはできないね。でも、私たちのせいでもないから、届かなかった分の新聞代金を払う必要はないね。」ということになります。息子の疑問に対する法的回答はこの通りですが、実際の精算手続等については、すでに新聞各社ないし代理店からご案内があるのではないかと思いますので、それに沿って対応していただければと思います。


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