つれづれ語り(空き家問題と「1イン1アウト」原則)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2020年2月19日付に掲載された第78回は、「空き家問題と『1イン1アウト』原則」です。篤子弁護士が、空き家問題解決のためのユニークな着想と、それを現実化するためにどのような制度変更が必要かということについて書いています。

空き家問題と「1イン1アウト」原則

1 県の空き家会議に参加しました

今月5日(土)に新潟県主催の空き家対策総合連絡調整会議がありました。国土交通省、法務局、県、市町村、金融機関、士業など関連団体から空き家問題に関わる関係者100名以上が参加し、情報共有や意見交換が行われました。私も新潟県弁護士会の空き家部会メンバーとして出席しました。高齢化と人口減少を背景に県内の空き家が増加し続ける中、空き家の発生防止、維持管理、利活用、老朽化した空き家の解体など様々な取り組みを円滑に行うためには早急に行政と民間事業者の緊密な連携関係を作り上げる必要があります。そのための「場づくり」として県は昨年この会を立ち上げ、今回が2回目の開催とのことでした。

2 県内の空き家状況

県内の空き家は、別荘等の二次的住宅も含めると、2013年の13万2000戸(空き家率は13.6%)から2018年は14万6200戸(空き家率は14.7%)に増加しています。他方、全国の空き家率は2013年の13.5%から2018年の13.6%と伸びが抑えられており、2015年施行の空き家法に基づく対策が一定の効果を挙げたものと分析されています。県ではこの間勉強会等の実施、市町村向け「空き家対策の手引き」の作成、先進地視察などの取り組みをしてきたようですが、全国より高い空き家増加率を踏まえると今後より一層の対策強化に取り組むことが求められるでしょう。

3 空き家率抑制の条件

野村総研の分析によると、全国の空き家率の伸びが抑えられた要因は、空き家法施行後に空き家の除却(解体)が進んだことにあるようです。新設住宅着工戸数に対する除却戸数の割合(除却率)は過去おおむね30~40%台と一定でしたが、2013年から2017年度は約62%に大幅上昇しました。注目すべきは今後の中長期予測で、現在の空き家率13.6%を維持するには、2020年代には新設住宅着工戸数と同等、もしくはそれ以上の除却戸数が必要となるというのです。「ひとつ作るなら、ひとつ壊す」。断捨離や片付け本などで最近広まっている「1イン1アウト」原則(「ひとつ買うなら、ひとつ手放す」ルール。物を減らすだけでなく無駄な買い物を控える心理的効果があると言われています。)と同じことが、家づくり、街づくりの場面でも求められているようです。

4 総合的な空き家対策が必要

空き家対策というと、特定空き家等の行政代執行による除却や、空き家バンクなどによる利活用促進、生前の相続対策による空き家発生防止ばかりが注目されます。しかし、上記「1イン1アウト」原則を取り入れるには、新設住宅着工の抑制策、税制優遇措置等によるリフォーム市場・中古住宅市場の活性化、空き家除却率の向上策(更地化した土地の固定資産税が増額される税制の見直し、所有者による解体の補助金制度の拡充、財産管理人制度を活用した除却促進、住宅新設時に施主が解体費用を負担する仕組み)など、制度変更を伴う幅広い政策議論が必要です。焼け石に水のような対症療法的対策ばかりで行政職員が消耗しないよう、政治的リーダーシップのもとで抜本的な住宅政策の見直しに着手してほしい。現場で悪戦苦闘する行政職員の話を聞きながら、改めてそう感じました。


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