つれづれ語り(鷺はサギ)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2020年3月4日付に掲載された第79回は、「鷺はサギ」です。
検察官の定年延長問題をめぐっては、三権分立を損なう、立法権の実質的侵害だ、検察の独立性・公正さを損なう、法治主義に反する等、様々な問題が指摘されています。これらはいずれも大変重要な問題ですが、本コラムでは言いたいことを1つに絞り、自分の言葉でわかりやすく書くことを心掛けました。

鷺はサギ

検察官の定年延長を巡って

「鷺を烏と言いくるめる」。白い鷺を黒い烏と言い張る等、事実を捻じ曲げて、間違っていることを無理やり押し通すことを意味する諺だ。この国はいま、この諺がぴったりあてはまるような状態に陥っている。

検察官の定年延長問題に関わって、総理大臣の虚偽答弁を政府全体で取り繕っている可能性が濃厚なのだ。

明らかな矛盾 

1981年に国家公務員法を改正して定年延長制度を導入する際、国会で「検察官には国家公務員法の定年制は適用されない」との政府見解が示されていた。

今年2月10日、森法務大臣はこの政府見解について問われ「承知しておりません」と答弁した。同月12日、人事院幹部は「現在までも特に議論はなく、同じ解釈を引き継いでいる」と答弁していた。

ところが同月13日に安倍総理が、「(検察官にも)国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と答弁したことで、流れが一変した。

「1月に解釈を変えた」(2月17日法務大臣答弁)、「1月22~24日にかけて人事院と協議して解釈変更に異論なしとの回答を得た」(同月19日法務大臣答弁)、「現在という言葉の使い方が不正確だった」「つい言い間違えた」(同日人事院答弁)等、今年の1月に政府解釈を変更していたという方向に答弁が修正されたのだ。

しかし、1月に政府解釈を変更したのであれば、翌月12日に人事院幹部が「特に議論はなく、同じ解釈を引き継いでいる」などと答弁するはずがないし、同月10日時点で法務大臣が変更前の解釈を承知していないはずもない。

不自然な変遷

解釈変更に関する法務省と人事院との間の協議文書についても、「必要な決裁は取っている」(同月20日法務大臣答弁)、「決裁は取っていない」(同日人事院答弁)、「口頭で決裁を取った。正式な決裁は取っていない。」(同月21日法務省が予算委員会理事会で説明)、「口頭の決裁も正式な決裁」(同月22日森法務大臣が記者会見で)等々、説明内容に不自然な変遷が見られる。

信用性がないことは明らか

裁判では、以前述べていたことと明らかに矛盾する証言をしたり、証言内容に不自然な変遷があったりした場合には、証言に信用性がないものと判断される。

「解釈を変更することとした」との総理答弁の後に政府関係者によってなされた一連の答弁には、まったく信用性がない。総理が鷺を烏だと言ったために、政府関係者が鷺を捕まえて黒く塗る羽目になっているのだろう。

行政に対する民主的コントロール

内閣は、行政権の行使について、国会に対し、連帯して責任を負うとされている(憲法66条3項)。これは、国会の政治的責任追及に応えるべき地位に内閣を据えることにより、行政権の行使について間接的に民主的コントロールを及ぼすとの趣旨に基づく。
しかし、政府が国会で虚偽の答弁を行い、それがまかり通ることとなれば、行政権の行使に対する民主的なコントロール機能は完全に失われてしまう。何よりも、正確な事実認識を前提にしなければ、正しい政策判断ができるはずもない。

権限を適切に行使させるために

内閣が有する権限は強大である。それが適切に行使されれば私たちの安全な暮らしを守ることができる一方で、コントロールが失われて恣意的・濫用的に行使されるようになれば、私たちの自由や安全が直接的に損なわれることにもなりかねない。

行政権を適切に行使させるためにも、政府が公然とウソをつくようなことを許してはならない。

 


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