新型コロナパンデミックと憲法(上越9条の会での講演)


準備に難渋

5年ぶり

4月17日、「新型コロナパンデミックと憲法」とのテーマで講演をしてきました。

ご依頼くださったのは「上越9条の会」の方々。上越9条の会では、2016年7月に「憲法カフェから見えてきたこと」というテーマで講演をしており、今回は5年ぶりということになります。

3つの視点から

広くて深くて、古くて新しい難解なテーマだったので準備に難渋しましたが、当日の午前中になんとか準備を終えることができました。

全体の構成は以下の通りで、自由権に対する制約、社会権の保障、差別・偏見に基づく人権侵害という3つの視点からお話することにしました。

講演の概要

講演の冒頭で、新型コロナウイルス感染症によって日本社会の歪みや構造的な問題が露わになっていること、それを人権の視点から見ることによって社会の問題についての理解と人権に対する理解の両方を深めることができるのではないか、今日の講演ではそれを目標にしたいということをお話しました。

1 おさらい

最初に、これまでの経過のおさらいをしました。

次に、立憲主義や人権の種類など、憲法の基礎知識についてのおさらいです。

2 自由権に対する制約

感染症の拡大を防ぐためには、一定の範囲で自由を制限せざるを得ない。その意味で予防と自由のジレンマがあるということを指摘したうえで、どの範囲のどういう制限であれば許されるのかと問題提起。

「自由と法律と憲法の関係」についての一般論を確認したうえで、感染症対策に関わる法律について説明しました。出入国に関わる法律には、検疫法と出入国管理法があり、国内での対策に関する主な法律として、感染症予防法と新型インフルエンザ特措法(新型コロナ特措法)があることを説明。国内対策のための法律についてやや詳しめに説明しました。

感染症予防法については、感染症の分類を確認したうえで、新型コロナウイルス感染症はこれまで指定感染症(2類相当)とされていたが、今年の2月に新型インフルエンザ等感染症と同等の扱いに変更されたことを確認。

新型インフルエンザ特措法(新型コロナ特措法)では、「発生時における措置」「まん延防止等重点措置」「緊急事態措置」の3段階が想定されていることを確認。そのうえで、まん延防止等重点措置、緊急事態措置、緊急事態条項(自民党改憲草案)の3つについて、民主主義のブレーキ、立憲主義のブレーキという視点から対比して、問題点を検討しました。

また、感染症対策として取られている各種の措置について、どういう人権が、いかなる目的や手段により制限されているのか、それは憲法上問題があるのかないのかといったことを検討しました。どういう人権が問題となるのかという点については、参加者のみなさんに条文クリアファイルをみながら探していただきました。数十人もの参加者が条文を熱心に読んでいる姿はなかなか感動的でした。

3 社会権の保障

社会権の保障のところでは、生存が脅かされる深刻な実態が広がっていることを具体的に指摘。

その背景として、「コロナ前」から進められてきた雇用政策、経済政策、社会保障政策の問題が大きく影響していることを確認しました。

また、医療や公衆衛生に関する政策にも大きな問題があるが、コロナ禍のもとでも病床の削減を押しすすめようとするなど、まったく是正されていないことについてお話しました。

4 差別・偏見に基づく人権侵害

差別・偏見に基づく人権侵害では、感染者やその家族に対するものと、「自粛しない人」に対するものと、それらがないまぜになったものがあると整理したうえで、誰もが差別はいけないとわかっているはずなのに、どうして差別が起こるのか。本能に根差している側面があるため、他人事だと思っていると誤ってしまうおそれがある。私たちそれぞれが、自分の問題として考えなければならないと思いますと問題提起。

不安や恐怖が差別や偏見へとつながる仕組みをわかりやすく解説した日本赤十字社作成の『新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~』を紹介しながら、不安な気持ちとどのように向き合ったらよいのかを考えました。

5 おわりに

自由権、社会権、差別偏見に基づく人権侵害という3つの視点からお話してきたが、どの問題も個人よりも公益を優先する考え方が基礎にある。憲法が掲げる個人の尊重の理念に基づいた対策へと切り替えていくことが大切なのではないかという「まとめ」をして、講演を終えました。

その他もろもろ

開始前に

全体が120分くらいと聞いていたのが、講演の時間について勝手に90分くらいと思い込んで準備していたのですが、直前に実は60分くらいと知ってやや焦りました。結局60分で話せる範囲でお話し、残りの内容は質疑のなかで適宜盛り込む形で対応して事なきを得ました。

また、開始前に男性がお一人ご挨拶に来てくださったのですが、それがなんと高校時代の恩師でした。そのまま目の前の席にお座りくださったので、にわかに緊張が高まることとなりました笑。

終了後に

質疑の時間ではいろいろな質問が出されたため、そのやりとりを通じてさらに理解が深まったのではないかと思います。終了後も直接質問に来てくださる方もいらっしゃいました。また、「不安や恐怖から自分の中に沸き上がってくるとげとげしい気持ちとどのように向き合っていったらいいのかについて考えられるよい機会になった。」と直接感想をお話くださった方もいました。

帰り際に主催者の方が、「普段はめったに褒めない人が、今まで聞いたなかで最高の講演だった!と絶賛していた」と教えて下さり、準備の苦労が報われた気持ちになりました。