街頭でのビラ配布に警察の許可は必要ありません


街頭でスタンディングをしたり、ビラなどを配ったりすることは、自分の意見を表明するための有益な手段の1つです。ロシアや香港など一部の国や地域では、そのような表現行為が自由にできない状況にあることを見ると、それが保障されていることは決して当たり前のことではなく、いかにかけがえのないものであるか痛感させられます。

ただ、インターネットで検索すると、街頭宣伝には警察(署長)の許可が必要と書かれたサイトが散見されます。しかし、「通常の方法」でビラ配布などの街頭宣伝を行う際に、警察署の道路使用許可を得ることが不要であることは、法的にも政治的にも決着済みの問題です。

人権は行使を怠っていると、いつのまにか内実が失われ、範囲が狭められたり、損なわれたりしてしまいます。特に表現の自由は、「もっとも傷つけられやすい権利」であると言われています。委縮することなく、堂々と権利を行使していきましょう!

第1 警察署長の許可が不要であることは法的に決着済み

1 問題の構造

(1)誰でも自由にできるのが原則

街頭宣伝は、表現の自由の一環として憲法21条により保障されています。このため、原則として自由に行えるもので、例外的に制限されることがありうるというのが、基本的な構造です。

(2)道路交通法による制限と、規則や施行細則による制限

問題となるのは、どのような場合が例外にあたるかですが、表現の自由の重要性に照らせば、「許可を要する」場合というのは、厳格に解釈されるべきです。

この点、道路交通法77条1項4号は、「道路において一般交通に著しい影響を及ぼすような通行形態又は方法により道路を使用する行為をしようとする場合」に、「管轄する警察署長の許可を得なければならない。」としています。

そしてこの道交法の規定の委任を受ける形で、各都道府県において「規則」や「施行細則」が定められています。「規則」や「施行細則」の内容には多少のばらつきはありますが、道交法の制限規定に「上乗せ」する形でより広い規制をかけるものが多いようです。

(3)判例の考え方

過去の裁判において、道交法77条1項4号の規定と、その授権を受けて定められた各都道府県の「規則」や「施行細則」が憲法に違反しないか、争われています。そこでは、道交法の規定自体は合憲であるものの、「規則」や「施行細則」で「上乗せ」された部分については過度に広範な規制であるとして、道交法による制限の範囲でのみ許可申請を要するという形で合憲限定解釈がなされています。

2 確定した高裁判決(有楽町ビラまき事件)

「有楽町ビラまき事件」の東京高裁判決(東京高判・昭和41年2月28日)は、「交通の頻繁な道路において、寄附を募集し、若しくは署名を求め、又は物を販売若しくは交付する」場合に許可申請を要すると定める東京都道路交通規則について、以下のとおり合憲限定解釈を行ったうえで、有楽町駅前の歩車道の区別のない幅員11.12メートルの道路上で行われたビラまき行為について、許可を得ることは不要であると判断しています。

「道路交通法第77条1項4号により公安委員会が定めることを委任されている行為の範囲は、法自体において明示するところの、一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為であることを前提とするものであることは、法文上疑いをいれる余地がない」

「『一般交通に著しい影響を及ぼす』ということが意味する一般交通に与える支障の程度は相当高度のものを指すと解さなければならない。」

合憲限定解釈というのは、法令を文字どおりに解釈すると憲法違反になってしまうような場合に、その意味を限定的に解釈することによって、その法令を合憲とする手法のことをいいます。この判決では、東京都道路交通規則18条1項8号の規定について、文字通りに解釈すると、表現の自由に対する過度に広範な規制となってしまうため、規則で掲げられている行為のうち、「一般交通に著しい影響を及ぼす」ようなものに限って許可を要するというように限定的な解釈をした訳です。

この裁判例について解説した『判例タイムズ』189号147頁は、東京都の道路交通規則が「道路交通法77条1項4号により授権されたもので、その授権の範囲内においてしか有効には働かない性質のものであることは当然のこと」としています。また、本件は上告されることなく確定したことを紹介したうえで、「今後の運用に影響するところ大であろう」としています。

確定判決には既判力や先例拘束性があります。「規則」や「施行細則」の規定は、道交法の授権の範囲内で限定的に解釈されるべきという点で、このような効力が生じているものといえます。そのことを確認的に示したのが、以下に紹介する裁判例です。

3 許可が不要な宣伝行為について許可が必要と誤信した警察官の過失を認めた裁判例

東金国賠訴訟事件千葉地裁判決(千葉地判・平成3年1月28日)は、「交通の頻繁な道路において広告又は宣伝のため、文書、図画、その他の物を通行する者に交付する」場合に警察署長の許可を得なければならないと定める千葉県の道交法施行細則11条9号について、道交法77条1項4号の授権に基づく規定であることを確認したうえで、施行細則による規制は「一般交通に著しい影響を及ぼすような」ものであることが前提となっていると限定的に解釈しています。

そして、「通常の方法で行うビラ配布行為は、道交法77条1項4号、施行細則11条9号に該当しないことが明らかである」と判示し、成人式会場となっていた東金市中央公民館前の幅員3.5メートルの歩道上で行われたビラ配布及び署名活動について、「東金署長の許可を必要としなかったものである」としています。

さらに、同警察署の警察官について、ビラ配布行為が道路使用許可を必要としないものであることを知るべきであるのにこれを怠った過失によって原告に損害を与えたとして、国家賠償請求が認められています。

第2 警察署長の許可が不要であることは政治的にも決着済み

前記の東金国賠訴訟事件千葉地裁判決の後、参議院の地方行政委員会(平成3年3月15日)でビラ配りの自由について、以下のような質疑がなされています。

諫山博参議院議員:「ビラ配りを弾圧したという問題で、第一線の警察官が誤った認識を持っているのではないか。ビラ配りはいかなる場合でもすべて許可を要するものだと誤解しているんじゃないかという問題について、何らかの指導をお願いしたいけれども、いかがでしょうか。」

鈴木良一警察庁長官:「ビラ配りの点につきましては、東金事件の判決があるわけでございますから、これに基づきまして警察官をよく指導、教養してまいりたい

先にも書いたとおり、どのような場合に道路使用許可が必要となるかということについて、法的には決着済みであった訳ですが、合憲限定解釈により判断が示され、実質的に違憲と判断された規則等の「上乗せ」部分が規定としては残ったままであることから、現場の警察官において、その規定を形式的に適用して過度に広範な規制に及ぶことが懸念されたため、国会質疑で取り上げられたものと思われます。

この国会質疑で、警察庁長官が東金事件の判決に基づいて警察官を指導していきたいと答弁したことにより、この問題は政治的にも決着済みであると言えます。

第3 本来は誰でも自由にできること

「有楽町ビラまき事件」について解説した『判例タイムズ』189号147頁は、「本来何人もなし得ることが、公共の安全の見地から警察上その他の行政目的によって一応制限され許可にかからしめられているものに過ぎないものである以上、要許可事項の規定の解釈について、このことは十分勘案されなければならない」と指摘しています。

繰り返しになりますが、ビラ配布などの街頭宣伝は、表現の自由の一環として憲法上保障されており、本来は誰でも自由に行ってよいものです。ただ、それによって「交通に著しい影響を及ぼす」ようなもの(典型的なのは車道の一部を使用してデモ行進をするような場合)については、事前に警察署長の許可を得てくださいというのが、法律の枠組みです。

街頭でのビラ配布などは、通常、それをすることで「交通に著しい影響を及ぼす」ことは考えられないので、警察の許可は必要ありません。「規則」や「施行細則」が憲法に違反する過剰な制限ではないかということが裁判で争われ、限定的な解釈がなされるべきだとの判断が示され、その判決が確定しているのですから、その限定的な解釈に該当しない方法で行う街頭宣伝は、原則どおり自由です。

仮に警察が許可を強要したり、許可を得ていないことを理由に宣伝行為の停止を求めれば、東金事件判決のように国家賠償請求の対象となり得ます。だからこそ、警察庁長官は国会で警察官を指導していくと答弁した訳です。

許可が不要であることが明らかな表現行為について、あえて許可を求めることは、人権や自由を自ら放棄し狭めることを意味しています。裁判をたたかってまでして確認された権利を、自ら放棄するようなことはするべきではありません。

おまけ 実際に許可を得ずに宣伝する場合の注意点

ただ、特にこれまで許可を得て実施していたところでは、許可を得ずに実施すると、警察官から許可を申請するように求められたり、宣伝を停止するように求められたりすることがあるかも知れません。そのような介入があった場合には、基本的に以下の様に対応するとよいでしょう。

  1. 記録(録音ないし録画)を取ることを告げる
    過剰な介入をさせないためにも、やりとり全体について録音か録画を残すようにしましょう。
    同様の理由から、できる限り複数で対応するのがよいと思います。
  2. 役職と氏名を確認する
    まずは、警察官の役職と氏名を確認しましょう。
    警察手帳規則第5条には、「職務の執行に当たり、警察官、皇宮護衛官又は交通巡視員であることを示す必要があるときは、証票及び起床を呈示しなければならない」と規定されているので、警察官は役職や氏名を聞かれたら回答しなければなりません。
  3. 用件を確認する
    次に、警察官が求めていることがどういうものなのか、その内容を確認しましょう。
    許可を申請するように求められるケースや、許可申請をするまでは宣伝行為を中止するように求められるケースなどが考えられます。
  4. 基準を確認する
    裁判例の基準に照らすと、許可申請が必要になるのは、一般交通に著しい影響を及ぼすような場合に限られること、一般交通に与える支障の程度は相当高度のものでなければならないとされていることを確認しましょう。
    警察官が、都道府県の「規則」や「施行細則」の規定を持ち出してきた場合には、道交法の規定を超える制限は憲法違反であるため、裁判所は法律の範囲内に限定して解釈すべきとしていることを指摘しましょう。「有楽町ビラまき事件」「東金事件」など、具体的な事件名を伝えるのもよいと思います。
  5. 現在の状態が基準にあてはまるかどうかを確認する
    裁判では「通常の方法で行うビラ配布行為はこれにあたらない」とされていること、いま実施している宣伝も特に交通に影響や支障を及ぼすものではなく上記の裁判例の基準にあたるとは考えられないことを伝えましょう。

現場の警察官は、4を知らなかったり、4と5を混同していたりする傾向があるので、4と5をしっかり区別して、まず4を正確に伝え、確認するように求めるというのがポイントです。初期の段階で多少強めの介入があった場合でも、録音ないし録画をしながら「過去に国賠事件になっているので、きちんと確認した方がいいですよ」と言えば、大抵は引き下がります。