つれづれ語り(バッジが象徴するもの)


『上越よみうり』で連載してきたコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2022年1月26日付に掲載された第126回(最終回)は、「バッジが象徴するもの」です。これまでこのコラムでも何度か触れてきた、「弁護士の使命」について改めて書きました。

本文にも書きましたが、多くの方の励ましのお言葉があったおかげで連載を続けてくることができました。連載終了が決まった後も、終了を惜しむ声をいくつも頂戴し、大変ありがたく感じております。コラム終了後も本ブログやSNSを通して情報を発信していきたいと思います。引き続きよろしくお願い致します。

バッジが象徴するもの

心がけていたこと

前回のコラムで篤子弁護士から予告があった通り、本稿がこのコラムの最終回となります。これまでの5年間を振り返りますと、執筆する上での様々な苦労が思い出されます。

まずはとにもかくにも「読んでみようかな」と思っていただく必要があります。そのため、なるべくその時々で社会的な関心が高まっているトピックを題材にするように心がけていました。その結果、気候危機、校則、AI、主権者教育、沖縄基地問題、原発・エネルギー政策、核兵器、報道の自由、長時間労働、対話、家事・育児等々、多岐にわたるテーマを取り上げることとなりました。

また「読んでよかったな」と思っていただけるように、「ためになる要素」を盛り込みたいとも考えていました。膨大な情報が、様々な媒体を通じて日々発信され、氾濫するなかで、すぐに価値が失われてしまう「フロー」情報ではなく、相当期間「ストック」するに値するコラム、民主主義・基本的人権・恒久平和主義など普遍的な価値が認められているものに対する理解が深められるようなコラム、を目指していました。

ただ、高い理想を掲げていても、それを実現することはとても難しく、毎回四苦八苦しながらどうにかこうにか書き上げていたというのが実際のところです。

弁護士の使命

「弁護士の使命」は、私がコラムを書く際、念頭に置いていたものの1つです。

弁護士法は、その1条1項で、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と定めています。

そして弁護士の記章(バッジ)は、この使命を表したものであると言われています。弁護士バッジのデザインは、向日葵と秤を組み合わせて作られていますが、向日葵は「自由・正義」の象徴であり、秤は「平等・公平」の象徴であるとされているのです。

先輩弁護士のコラム

ここまでは比較的よく言われていることで、私もキャリア教育の授業などで何度もお話しています。しかし、先日、弁護士バッジについて書かれたある文章を読んで衝撃を受けました。

向日葵。いつも日に当たろうとして、常に日陰に背を向けている向日葵を私は好まない。日の当たらない場所に住み、社会的諸勢力からも落ちこぼれている人たちの基本的人権をこそ守らなければならないからである。

秤。いつも重い方に傾いてしまう秤を私は好まない。社会正義の実現が、社会的諸勢力の力や札束の重さに傾いて、ねじ曲げられてしまってはならないからである。

これは、1966年10月5日付の新潟日報に掲載された、「向日葵」というタイトルのコラムの中の一節です。「弁護士の使命」の象徴であるはずの向日葵や秤を「好まない」として読者の興味を強く引きつけた上で、好まない理由を説明する中で、「弁護士の使命」の本質をものの見事に描き出しています。

このコラムを読んで、表面的なきれいごとを説明して何事かを伝えた気分になっていたそれまでの自分を恥ずかしく思いました。「弁護士の使命」は、日々の実践を繰り返すなかで、時間をかけて少しずつ自分のものにしていくものなのでしょう。コラムの筆者である小出良政弁護士は既に亡くなられていますが、お会いしたことのない先輩弁護士からの戒めの言葉として、しっかり胸に刻み込みたいと思います。

お礼

最後に、貴重な機会を提供してくださった『上越よみうり』編集部のみなさま、本コラムを読み、様々な形で感想や励ましの言葉をお寄せくださった読者のみなさまに心からの御礼を申し上げ、筆をおくことと致します。ありがとうございました。

なお、コラムはこれで終了となりますが、当事務所ブログでの発信は続けて参ります。今後はそちらをご覧いただければ幸甚です。


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『上越よみうり』に連載していたコラム「田中弁護士のつれづれ語り」(第1回~60回)は、電子書籍として販売中です。販売価格は100円。こちらのリンク先(amazon)からお買い求めいただけます。スマートフォン、パソコン、タブレットがあれば、Kindleアプリ(無料)を使用して読むことができます。