つれづれ語り(司法を通じて住みよい社会にするために)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年9月1日付に掲載された第117回は、「司法を通じて住みよい社会にするために」です。篤子弁護士が選択的夫婦別姓の問題を入り口に、司法制度のあり方について語っています。

司法を通じて住みよい社会にするために

1 弁護士夫婦

新潟県選挙区選出の参議院議員打越さく良さんは、新潟県弁護士会所属の弁護士で、当会の憲法委員会のメンバーでもあります。弁護士時代からとても優秀でアクティブな方だというイメージがありましたが、国会の仕事で忙しい中も「勉強したい」と憲法委員会のオンライン会議に参加してくれ、その熱意にはいつも圧倒されています。司法修習の期でいうと、打越さんは53期で私は58期。打越さんの夫の村木弁護士は、人権感覚に優れた刑事弁護のエキスパートで、当時新人の刑事裁判官だった私に、法廷で厳しくも温かく接してくれたことを今もよく覚えています。そんなこともあり、私にとって、もっとも身近に感じられる国会議員のお一人です。

2 変えてはじめてわかること

そんな打越さんですが、戸籍名は村木だそうで、「結婚するとき、夫は『どちらの姓でもいい』と言ってくれたのですが、私自身は打越姓に強いこだわりがあるわけではなかったため、村木の姓にしました。しかし、いざ改姓をしてみると様々な不都合や屈辱的な思いに直面して、とても後悔しました。」と話していました。先日開催した「婚姻と憲法」講演会(新潟県弁護士会主催)でのお話です(この講演の詳しい内容は、当事務所HPに掲載予定ですので、そちらもご覧ください。)。

打越さんとは修習の期、年齢、夫が弁護士であることなど境遇が近いこともあり、姓を変えるときの当時の社会の雰囲気、夫の態度、結局は自分が姓を変えたこと、変えた後で初めて「姓を変えるとはどういうことか」を知ることなど、共感できる部分が多く、自分の話のように感じました。当時は、「特別な事情がない限りは、夫の姓にするのが普通だ」という空気が強く、たとえ配偶者が理解を示してくれても、自分の姓にすることにまだためらいがあったのです。いえ、当時だけではなく、今もそうかもしれません。現在でも、結婚するときに姓を変えるのは96%が女性なのですから。

3 元最高裁判事の想い

最高裁判所は、今年6月30日、いわゆる第二次選択的夫婦別姓訴訟において、夫婦同氏を強制する民法750条について二度目の「合憲」判断をしました。最近、日弁連発行の法律雑誌に、第一次選択的夫婦別姓訴訟で「違憲」の少数意見を出した元最高裁判事の櫻井龍子さんと山浦善樹さんの対談が掲載されていたのですが、櫻井さんは次のように話しています。「姓を変更することによって侵害される、損なわれる利益というものの重大さ。その実質的な損害というものの重大さが他の方々には分からなかったんだなというのが、そのときの強い思いです。結婚で姓を変えざるを得なかった。それを経験している人間とそうでない人は、姓が変わることによる精神的苦痛、実際的不利益の重大さが実感として分からないんだなと。」。

一方、山浦さんは、「最高裁の裁判官は全員がよい仕事をしたい、司法を通じて住みやすい社会にしたいと考えていることは疑いの余地がない。」と話しています。その上で、2つの提案をしています。一つは、「最高裁判所の裁判官として同じような感性の人ばかりが集ってしまうようなことはよくない」ため、女性の最高裁判事を増やすことです。

4 アミカス・キュリエ

もう一つが、「国の将来を決める重要な裁判においては広く国民から情報、知見を提供してもらうことは大切」であり「アミカス・キュリエのような制度が必要」だということです。これには櫻井さんも強く同意していました。

アミカス・キュリエというのは、「特に社会的に重要な裁判において、裁判資料の提出を訴訟当事者だけに限定せず、有益な情報、貴重な研究、意見をもっている第三者が広く提出できるようにするという方法」で「米国では同姓婚の合憲性裁判、中絶の是非、人種差別裁判などにおいても行われた」(山浦さんの説明)とのことです。

実は、このアミカス・キュリエ制度。今年5月に成立した改正特許法により、特許権侵害訴訟で「第三者意見募集制度」として導入が決まり、22年5月までに施行される予定です。「社会的な影響が大きい訴訟での証拠収集の補完手段となり、裁判所が幅広い意見を踏まえて判断できると期待される」(日経新聞2021年7月19日)と注目されています。特許権侵害訴訟だけでなく、元最高裁判事のお二人が指摘するように、大勢の市民が関心を持ち国民生活に大きな影響を与える憲法訴訟においてこそ、このような制度が導入されることを期待したいです。


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