つれづれ語り(校則をなくした中学校の話)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年8月18日付に掲載された第116回は、「校則をなくした中学校の話」です。世田谷区立桜丘中学校における貴重な教育実践について書きました。コラムの中で紹介している著書は、教育関係者の方はもちろん、そうでない方にもぜひ読んでいただきたいと思います。

校則をなくした中学校の話

校則を廃止した理由

東京に、校則を廃止した公立中学校がある。世田谷区立桜丘中学校だ。桜丘中学校には、校則も、定期テストも、宿題もない。服装も、髪型も自由だし、授業中に昼寝するのも、廊下で勉強するのも自由だ。

2010年に校長に就任した西郷孝彦さんが、「すべての子ども達が3年間を楽しく過ごせるにはどうしたらいいか」「目の前の困っている生徒が幸せになるにはどうしたらいいか」ということを考えながら、1つずつ変えていった様子が著書(『校則をなくした中学校 たったひとつの校長ルール』小学館)で紹介されている。

例えば、こだわりが強く、「制服を着ること自体がガマンならない」という子がいる。制服を着るとアレルギー反応が出て体がかゆくなってしまう。そういう子は、決まった制服があるというだけで落ちこぼれてしまい、不登校になってしまう可能性が高い。服装を自由にすることでそれが避けられる。

そうやって1つ1つの問題に対応していくなかで、校則自体がなくなったのだという。

同質性を強要する傾向

文科省の調査では「発達障害の可能性がある」児童・生徒の割合は6.5%とされている。およそ15人に1人だ。また、電通ダイバーシティ・ラボの調査によれば、日本国内でLGBTを含むセクシャル・マイノリティの割合は8.9%である。こちらはおよそ11人に1人だ。どちらについても一括りにすることは適切でないが、そうした子ども達にとって、学校も社会も非常に生きづらい場であるという点は共通している。学校教育は、これまでこうした「マイノリティ」に対する配慮をほとんどしてこなかったからだ。

それだけではない。実際には一人ひとり違う個性を持っているのに、「その子らしさ」を尊重せず、校則で「中学生らしい」髪型や服装を強制する。近年「ブラック校則」が大きな社会問題になっているが、2000年代以降、生徒に同質性を強要する管理主義的傾向が強まっているのだという。

少子化にもかかわらず「不登校」及び「不登校の傾向がある」子どもは増え続け、最新の調査では実に中学生の13.3%にも上っている。こうした状況は、学校の管理強化の傾向と無関係とは言えないだろう。

校則をなくしたら

校則廃止は教員にも好評なのだという。校則があると、教員はどうしても「校則に違反していないか」という目で生徒を見るようになってしまう。注意するのは教員にとってもストレスだし、生徒指導に割かれる時間と労力は馬鹿にならない。校則をなくしたら、「それ、おしゃれだね。」と自然に話せるようになり、教員と生徒が対等な人間同士として信頼関係が築けるようになった。

桜丘中学校では、他の学校ではあまり見られない面白そうな授業がたくさん行われている。3Dプリンターで心臓の模型を作る授業、すべて英語で行う調理実習等々。また、単身でニューヨークのダンススクールに短期留学をした生徒や、学校内にベネズエラの子ども達を支援する団体を立ち上げた生徒もいる。

西郷さんは、安心して自らを表現できる環境を保障することで、ひとり一人が持っている「よく生きよう」というプログラムが発動し、自分の考えを持って進んで学ぼうとしたり、やりたいことのためにがんばったりするようになるのだと言う。

日本社会の課題

憲法13条は「すべて国民は個人として尊重される」と定める。1人ひとりの個性を尊重し、それぞれが安心して自己表現できる環境を保障すること。多様な個性を持った他者をお互いに尊重すること。包摂性と受容性を持った社会へと変えていくことは、日本社会全体の課題でもある。

これは口で言うほど簡単なことではないが、確かな実践を積み重ねている学校があるということに強く励まされた。


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