つれづれ語り(豪雪災害対応の検証を)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年3月3日付に掲載された第104回は、「豪雪災害対応の検証を」です。
長期にわたって生活道路の除雪がなされない事態を繰り返さないためにも、前向きな検証をしっかり行っておく必要があると思います。

豪雪災害対応の検証を

市民生活への影響

今年1月、上越市は、「24時間で103センチ」、「72時間で187センチ」(いずれも高田の降雪量)という記録的大雪に見舞われました。

この豪雪災害の影響により、およそ10日間、広域にわたって生活道路の除雪がなされず、市民生活全般に重大な支障が生じました。市民のなかには、例えば週に複数回通院して人工透析治療を受け続けなければならない方もいらっしゃいます。そうした方にとって、これほど長期間の「交通途絶」は、生存そのものに対する重大な脅威となってしまいます。

事の重大さからすれば、「記録的な大雪だったから仕方がない」では済まされません。今後同様の事態を繰り返さないようにするために、どこをどのように改善し、どのような備えしておかなければならないのか、検討しておく必要があります。

専門的知見に基づく検証を

現在行われている上越市議会の3月定例会で、複数の議員がこの問題を取り上げるようです。充実した審議をお願いしたいと思います。

また、今回の災害から教訓を適切に導き出して今後に活かすためには、専門的知見に基づく検証が不可欠です。災害対応の専門家らからなる検討会の設置を切に希望します。

根本的問題点

今回の豪雪災害における自治体の対応の根本的問題点は、人的・物的資源の不足に対する十分な手当てを行わないまま、「主要道路の除雪優先」の方針に固執し続けた点にあったものと思われます。

人的・物的資源の不足に対する手当てが不十分だったことは、過去の豪雪災害への対応と比較するとよくわかります。

国土交通省のもとに設置された「豪雪地帯における安全・安心な地域づくりに関する懇談会」が「平成18年豪雪」の教訓を踏まえて作成した『提言』には、「平成18年豪雪時」に「多様な組織による広域的支援」が行われたことが詳しく記載されています。

例えば、消防本部や消防団から延べ780人が派遣され要援護世帯の除雪作業を行ったり、県建設業協会から除雪機械が提供されるとともに延べ294人が派遣され要援護世帯の屋根雪除雪作業を行ったり、「応援協定」に基づいて他の自治体から派遣された役所職員が公共施設や民家の除雪作業を行ったりしています。また自衛隊も、災害派遣要請に基づき、孤立予想世帯・高齢者世帯・緊急車両の通行確保のための除排雪作業を行っています。

当時とは社会経済情勢が異なるため、単純比較することは必ずしも適切でないかも知れませんが、従前の豪雪時の対応に比して今回の対応が後退してしまったのはなぜなのかというのは、検証の際の1つの視点として有用であろうと考えます。

支援要請のあり方

上越市は、災害時に迅速な応急対策等を実施するために、他の自治体や民間団体と災害時応援協定を締結しており、その数は実に142団体にものぼります。
しかし、災害協定や各種支援制度は、被災自治体からの支援要請が「トリガー」となっているため、被災自治体の初期対応が適切になされないと十分に機能しません。

災害の規模や実態に即した支援要請が、適時・適切になされたのか、しっかり検証し、改善策を検討する必要があります。

不十分な情報発信

また、市からの情報提供・情報発信のあり方が、内容・時期・方法のいずれにおいても不十分だったことも問題です。そのことは、市に寄せられた苦情や問い合わせが、今年1月だけで8000件以上にのぼったという事実が物語っています。

市の担当者のコメントからは、「混乱を防ぐために、確実なことが言えない間は何も言わない方がよい」というスタンスだったことが窺われますが、それが「リスク・コミュニケーション」ないし「クライシス・コミュニケーション」の観点から適切なものであったと言えるのか、改めて検討・検証していただきたいと思います。


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