つれづれ語り(空き家の手放し方)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2020年12月23日付に掲載された第99回は、「空き家の手放し方」です。
篤子弁護士が、空き家問題のネックになっているのは何なのか、それを解消するためにはどのような対応が必要なのかということについて、わかりやすく語っています。

空き家の手放し方

1 積雪と空き家の倒壊

今月19日、富山県砺波市の山あいの集落で、雪の重みで地滑りが発生し、空き家1棟が倒壊したというニュースが流れました。新潟県でも豪雪時に老朽化した空き家の倒壊事故がたびたび起きています。平成24年には「新潟県住宅の屋根雪対策条例」が制定され、空き家の所有者・管理者に屋根の雪下ろしなど管理を行う努力義務が課されました。これらを怠り近隣の住民や通行人に被害を与えた場合、損害を賠償しなくてはいけません。

もっとも、豪雪時には、自宅周辺の除雪作業で手一杯で、空き家の除雪にまで手が回らないという方も多いのではないでしょうか。

2 空き家を手放す方法

空き家の定期管理をしてくれる業者も増えてきましたが、費用もかかるため、早めに空き家を手放したいと考える方もいるでしょう。その場合、どのような方法があるでしょうか。

売却や贈与ができればそれに越したことはありませんが、立地が悪かったり、管理状態が悪かったりすると、思うように引き取り手が現れないのが現実です。

現在、法務省では土地所有権の放棄について検討が進められていますが、建物及び動産の所有権放棄はできず、土地上に建物がある場合には土地所有権の放棄も認められない方向で議論されています。

3 相続放棄の課題

 実家が空き家となっている場合などは、相続放棄という方法もあります。しかし、相続放棄は、空き家だけでなく全ての財産を放棄しなければいけませんし、放棄できる期間も原則、相続開始から3ヶ月以内と限られています。

また、相続を放棄しても一切の責任を免れるわけではありません。次順位の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産と同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされています(民法940条1項)。もっとも、次順位の相続人が財産の引き取りに応じない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合などに、相続放棄者がいつまでどの程度の責任を負い続けるのかは条文上明らかではありません。

そこで、法務省の審議会では、相続放棄をした者の義務の範囲を明らかにすることに加え、新しい相続財産管理制度を設けることを検討しています。すでに、相続人全員が相続放棄をした場合に、家庭裁判所が相続財産管理人を選任する制度があるのですが、制度の申請者が費用を自腹で予納しなければいけません。しかし、空き家の管理費用や解体費用を払えず相続放棄を選んだ相続人に、自腹で予納金を払って管理人を申請することをどこまで期待できるでしょうか。実際、相続人全員が相続放棄した後、管理人が選任されずに放置されることも少なくありません。新しい制度では、手続を簡素化して費用を下げ、利用しやすくすることを狙っていますが、申請者が費用を負担する仕組みは変わっておらず、抜本的な解決にはなっていません。

4 解体のハードルを下げる方法

結局のところ、利用も管理もされない空き家は解体するしかありません。しかしながら、解体には多額の費用がかかる上、住宅用地の特例が外れて固定資産税が跳ね上がってしまうため、所有者にとって解体のメリットやモチベーションがあまりないのです。こうして、多くの空き家が放置されてしまうのが現状です。

もっとも、解決策がないわけではありません。現在専門家が提唱しているのは、家の建築または取得の際に、将来の解体費を積み立ててもらうデポジット制度です。供託や固定資産税に上乗せして徴収する方法で実現可能です。家が不要になったら、そのお金で解体するのです。すでに自動車では購入時にリサイクル費用を前払いしていますが、その建物版と言えるでしょう。家を建てて売ったり住んだりしてその利益を享受した人に、最後の解体まで責任を負ってもらうというのは、望まない空き家を相続した相続人に解体費用や相続財産管理人の費用を負担させるより、よっぽど理にかなったことと言えます。

もう一つは、空き家の解体後、一定期間は固定資産税の増額を据え置くという方法です。こちらはすでに新潟県見附市、富山県立山町、福岡県豊前市、鳥取県日南町などが取り入れています。一時的には自治体の固定資産税の減収が心配されますが、見附市の職員の話では、空き家が放置されるよりも、更地になった方が土地の市場価値が上がり、新築可能なエリアが増えて新しい住民を呼び寄せることができ、将来的には税収が増えるとのことです。


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