つれづれ語り(法律を学ぶということ)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2020年5月27日付に掲載された第85回は、「法律を学ぶということ」です。新潟県立高田高校でキャリア教育のオンライン授業をした際に、生徒さんから出された質問を受けて答えた内容をコラムにまとめました。

法律を学ぶということ

オンライン授業で

教えるということは教えられるということなのだ。先日、高田高校でキャリア教育のオンライン授業を担当した際に、実感した。

「将来法律を学ぶにあたって、高校時代にしておいた方がよいことはありますか?」。授業中に生徒から出された質問の1つだ。

その場で考えながら答えた内容を敷衍しながら以下に記したい。

法律を学ぶことを通して身に付けるべき能力

まず最初に、法律を学ぶことを通してどのような能力を身に付けるべきかという点について。

法律の条文について詳細に知っているということよりも、リーガルマインドを身につけることの方が重要だと思う。リーガルマインドというのは多義的な言葉だが、ごくごく大まかにいえば、法的な評価をしたり、論理的に思考したり、法理論を構成したりする能力のこと。

これが身についていると、未知の法律に出会ったときでも、条文を読みこなして活用することができる。逆に、リーガルマインドが身についていなければ、知っている法律のことしかわからない。

社会について知っておくこと

このリーガルマインドは、基本的な法理論や原理・原則を学びつつ、具体的な事例に法律を適用する訓練を繰り返すことによって身についていく。ただ、高校時代からそうしたことをする必要はない。基本的な法理論や原理・原則を学ぶ前にしておくべきなのは、社会についてよく知っておくことではないかと思う。

法律は、いろんな価値観や考え方を持った多種多様な人々が、お互いを尊重し合いながら、様々なことを調整して、安心して暮らしていけるようにするために作られている。

このため、多種多様な人々がどのようにして社会を形作っているのか、人々がそれぞれどのような状況に置かれているのか、社会としてどのような問題や課題を抱えているのか、そうした社会の在り様を知らないと、1つ1つの法律が作られた意味や目的を深く理解することはできない。

社会の在り様について学ぶ方法

社会の在り様について学ぶ際には、なるべく生の事実に「直接」触れることを心がけて欲しい。新聞・テレビ・インターネットなどを通じた「間接」的な学びも、決して無意味ではないが、得られることにはおのずと限界がある。その限界を自覚せずに学んでいると、机上の話、理屈上の話にとらわれて、現実離れした思考に陥ってしまう。現実社会は極めて複雑多様だ。

私は、学生時代に薬害の被害者の話を直接聞いて心を揺さぶられ、被害者を支援する活動に加わるなかで弁護士を志した。弁護士になることは目標やゴールではなく、被害者を支えたり、社会を変えたりしていくための一過程だったし、そのように考えていたからこそ司法浪人時代を乗り切ることができたと思う。高校時代に、社会の在り様を、自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の頭で考えるという経験を積み重ねて欲しい。

お礼

質問を受けなければ、このような内容について考えることはおそらくなく、当然のことながらこのコラムを書いたりすることもなかっただろう。

この他にも、「法律相談をするときに心掛けていることはありますか?」など、生徒のみなさんとの間で質問や感想をやりとりすることを通じて、私自身も考えを深めたり、初心に立ち戻ったりすることができた。貴重な機会を提供してくださった学校、授業の準備に奔走された先生、積極的に授業に参加してくれた生徒のみなさんにお礼を言いたい。

 


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