つれづれ語り(共謀罪)


「上越よみうり」のコラム「田中弁護士のつれづれ語り」。
4月12日付掲載分は、共謀罪についてです。

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LINEもできない共謀罪!?

捜査権限の濫用事例

「友人と3人で、レンタカーを借りて福島まで日帰り旅行をした。レンタカー代や交通費などを3人で割り勘にしたら、逮捕された。」。

これは今年の1月、日本で実際に起こった事件です。レンタカー代を割り勘にした行為が、タクシーの無許可営業(道路運送法違反)にあたるというのです。しかし、これはあまりに形式的なこじつけですし、こんなものを犯罪として捜査対象にするなどというのは馬鹿げています。
このような捜査機関による権限濫用事例が目立つようになってきました。こうした状況に更に拍車をかけそうなのが、いま国会で審議されている「テロ等準備罪」=共謀罪法案です。

共謀罪の本質

共謀罪というのは、犯罪を計画・合意することそれ自体を犯罪と捉え、計画・合意した内容を実行に移さなくても処罰するというものです。共謀罪法案は、これまで3度国会に提出されていますが、余りにも処罰範囲が広がり過ぎるという批判が強く、いずれも廃案になりました。

こうした批判に対応して、今回は「準備行為」がないと処罰対象にしないとの修正が加えられました。
しかし、この「準備行為」には限定がないので、ATMでお金をおろす、ホームセンターで工具を買うなど、日々の生活のなかで誰もがやっていることも、「準備行為」に該当します。このため「合意を処罰する」という共謀罪の本質は、これまでの法案とまったく変わっていません。

監視や恣意的な捜査

犯罪を合意する方法にも限定がなく、メールやLINEでもよいとされています。こうした合意を立証するために、SNS全体が監視の対象になるでしょう。

また、過去の国会答弁では、目配せだけでも合意が成立するとされています。捜査機関が「さっきあいつと目配せしてただろ」などという言いがかりをつけることも簡単にできてしまう訳です。
加えて、嫌がらせのために虚偽の告発がなされた場合などに、えん罪が引き起こされてしまうおそれもあります。

幸せに暮らすために

冒頭で紹介した事例で逮捕された3人というのは、楢葉町の避難指示解除日に現地の実情を視察に行った「反原発団体」のメンバーです。このことを聞いて、「自分には関係ない話」と感じた方にこそ、この問題を深く考えていただきたいと思います。

国の政策と異なる意見を述べると取り締まりの対象になるような社会は、民主主義社会と言えるでしょうか。そんな社会で幸せに暮らすことはできるでしょうか。市民の自由が少しずつ奪われ、自由にモノを言えない空気が徐々にふくらんでいって、表現の自由やプライバシーが脅かされる。こうしたことは、その社会で暮らすすべての人にとって損失ではないかと思います。

マルティン・ニーメラー牧師の有名な警句は、ナチスが特定の人々を迫害している様子を「自分には関係ない」と見て見ぬふりをしていたら、徐々に迫害対象が広がっていき、いざ自分が迫害対象になったときには反対の声を上げる人が誰もいなくなっていたという経過をリアルに伝えています。
取り返しのつかない過ちを繰り返さないために、そして自分自身が幸せに暮らすために、1人1人が自分の問題として捉えることが求められています。

ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから

社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義者ではなかったから

彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから

そして、彼らが私を攻撃したとき
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

(マルティン・ニーメラー)