若杉冽 『東京ブラックアウト』(講談社)


東京ブラックアウト

1 「現実を知る」ために

どこの本屋さんでも平積みされているので、もう読んだという方も多いと思います。
「原発ホワイトアウト」を書いた現役キャリア官僚による、2作目のノンフィクションノベルです。前作と関連してはいますが、こちらだけを読んでもまったく問題ありません。

前作は内容のインパクトが大きかったものの、正直なところ小説としての完成度は今一つというところがありましたが、今回の作品はほとんど違和感なく読めます。

著者はインタビューで、95%は事実に基づいて書いたと言っていますし、各章の冒頭には実際に報道された新聞記事などが記載されています。「現実を知る」という意味で、是非多くの方に読んでいただきたい本です。

2 原発事故直後に作成された戦略

小説のなかでは、フクシマ原発の事故後、原発が次々再稼働して行く過程が描かれています。

最初は世論の強い反発もありますし、避難計画を作成しなければならない自治体担当者なども「これでは住民を守れない」と反発したり抵抗したりするのですが、これらが手練手管で丸め込まれ、結局次々に原発が再稼働していきます。

『現代ビジネス』に、著者と元キャリア官僚の古賀茂明さんとの対談記事が載っています(前編後編)。

この対談では、経産省から出向している3人のキャリア官僚が官邸を支えていることや、そのキャリア官僚の1人が、福島第一原発事故後に、原発を再稼働させるまでの基本戦略を「Yペーパー」と呼ばれるメモにまとめていたことなどが語られています。

原発を推進する側がこれだけ周到に戦略を練って進めているのだとすると、止める側も戦略をもってやらないと、太刀打ちできないだろうなと感じました。

3 原発のリスクを再認識する

こちらに戻って暮らしてみて感じたのは、放射性物質のリスクに対する感覚が首都圏と比べてかなり違うということです。

東京などでは水道水から放射性物質が検出されたことが大々的に報じられたこともあり、リスクを「体感した」面があります。新潟県内ではそうした「体験」が乏しかったことも影響しているのかも知れません。

『東京ブラックアウト』では、福島第一原発事故のときに、菅総理の指示を受けて原子力委員会の近藤駿介委員長が作成した「最悪のシナリオ」が現実化するとどうなるかがリアルに描かれています。

その意味で、原発のリスクを再認識するという面でも重要な本ではないかと思います。