敵基地攻撃能力(反撃能力)保有と防衛費大幅増の問題点(その2 憲法・国際法上の問題)


政府は、昨年末、「安保3文書(国家安全保障戦略国家防衛戦略防衛力整備計画)」を閣議決定して、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めました。また、防衛費を今後5年間で43兆円に大幅増する方針を表明しています。

こうした方針について、様々な立場の個人や団体がそれぞれの立場から問題点を指摘しています。指摘されている問題は、大別すると「安全保障政策上の問題」、「憲法・国際法上の問題」、「財政・財源に関わる問題」、「手続きの問題」の4つに分類できます。

これら4つの問題点のそれぞれについて、ポイントをまとめたうえで、具体的にどのような指摘がなされているのか、できる限りリンクを張りながらご紹介していきたいと思います。

2回目は、憲法・国際法上の問題点についてです。

ポイント

岸田総理大臣は、2022年12月16日の記者会見で、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めた安保3文書に関し、「日本国憲法、国際法、国内法の範囲内での対応であるのは言うまでもなく、非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ」と述べています。

しかし、従来の政府見解に照らせば、敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することは憲法9条2項に、また敵基地攻撃を実行することは憲法9条1項に、それぞれ違反することとなります。

1 敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することの問題(憲法9条2項違反)

(1)自衛力が全体として他国に脅威を与えるものであってはならない

憲法9条2項は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定め、戦力の保持を禁止しています。「戦力」の意味について、政府は「自衛のための必要最小限度を超える実力」であるとし、国会でもその解釈を前提とする答弁を繰り返してきました。

この「自衛のための必要最小限度」について、政府は、量的に限界を画することはできないとする一方で、自衛力が全体として他国に脅威を与えるものであってはならないとしています。

・「わが国が持ち得る自衛力、これは他国に対して侵略的脅威を与えない、侵略的脅威を与えるものであってはならない」(1967.3.31 参院予算委員会・佐藤内閣総理大臣答弁)

(2)「攻撃的兵器」を保有することはいかなる場合にも許されない

個々の兵器の保有の可否について、政府は、「それを保有することで、わが国の保持する実力の全体がこの限度(自衛のための必要最小限度)を超えることとなるか否かによって決められる」としています(令和3年版防衛白書)。

そのうえで政府は、他国に侵略的脅威を与える「攻撃的兵器」を保有することは、「直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることになるから、いかなる場合にも許されない」との見解を、繰り返し国会で表明してきました。

・「仮定の事態を想定して、その危険があるからといって平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは憲法の趣旨とするところではない。」(1959.3.19 衆院内閣委員会・伊能防衛庁長官答弁)
・「性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられるいわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度を超えることになるから、いかなる場合にも許されず」(1988.4.6 参院予算委員会瓦防衛庁長官答弁)

(3)保有が禁止される「攻撃的兵器」の例

また、憲法上保有が禁止されている「攻撃的兵器」として、攻撃的・戦略的核兵器、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、中・長距離弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母などが例示されてきました。

・「攻撃的・戦略的核兵器、(中略)B52のようなもの、あるいはICBM、あるいは中距離弾道弾、このように他国の領域に対して直接脅威を与えるものは禁止されている」(1970.3.30 衆院予算委員会・中曽根防衛庁長官答弁)
・「(外国が)脅威を受けるような、あるいは脅威を与えるような攻撃的兵器」として、「たとえばICBMでありますとか、IRBMでありますとか、非常に距離が長く、しかも破壊能力が非常に強大であるといったもの」「長距離の弾道弾ミサイル」「B52のように数百マイルもの行動半径を持つようなもの」等を例示(1971.5.15 衆院内閣委員会・久保防衛庁防衛局長答弁)
・「例えばICBM、長距離核戦略爆撃機、(中略)長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許され」ない(1988.4.6 参院予算委員会瓦防衛庁長官答弁)
・「性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられるいわゆる攻撃的兵器、例えばICBM、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母、これらを保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることになるため、いかなる場合にも許されない」(2022.11.10 参院外交防衛委員会・安藤政府参考人答弁)

(4)敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することは憲法9条2項に違反する

自衛隊は、以下の兵器や装備を「改良」「改修」したり、新たに開発・取得したりしようとしています。これらの兵器や装備のうち、トマホーク、高速滑空弾、極超音速誘導弾等は、「非常に距離が長く、しかも破壊能力が非常に強大」という点で「攻撃的兵器」として例示されてきたものに匹敵することから、他国に侵略的脅威を与える「攻撃的兵器」にあたるものといえるでしょう。

  • 護衛艦の空母化(改修)
  • 12式誘導弾の長射程化(改良)
  • 高速滑空弾の長射程化(改良)
  • トマホーク(米国製巡航ミサイル)の取得
  • 中、長距離巡航ミサイルの取得
  • 極超音速滑空弾の開発

東京新聞2022年12月17日より

また、スタンド・オフ電子戦機+戦闘機+巡航ミサイル、多機能護衛艦+巡航ミサイル等、複数の装備や兵器を組み合わせることによって、「敵基地攻撃」を実行することが想定されています。これらの武器や装備を備えた自衛隊が、全体として他国に脅威を与えるものであり、「自衛のための必要最小限度の実力」を超えていることは明らかです。このため、「戦力」の保持を禁止した憲法9条2項に違反することとなります。

産経新聞2020年6月30日付から

2 敵基地攻撃を実行することの問題(憲法9条1項違反、国際法違反)

(1)架空の設例をもとにすれば法理的には可能

政府はこれまで、敵基地攻撃について、自衛権行使の三要件を充たす場合には「法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としつつ、それはあくまでも、国連の援助もなく、日米安保条約もないというような架空の設例をもとに憲法の解釈論を述べたものに過ぎないとしていました。

・「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨するところだというふうには、どうしても考えられない」「そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」「誘導弾等の攻撃が加えられ、このままおれば自滅を待つのみである、そういうせとぎわになりましたときに」「他に方法はない、こういう場合において敵の基地をたたくということは自衛権の範囲である、こういうことを申し上げておるのであります」(1956.2.29 衆院内閣委員会・鳩山一郎内閣総理大臣答弁)
・「ご承知のように設例として、国連の援助もない、また日米安保条約もないというような、他に全く援助の手段がない、かような場合における憲法上の解釈の設例としてのお話でございます」(1959.3.19 衆院内閣委員会・伊能防衛庁長官答弁)

(2)自衛権行使の三要件

政府は、憲法9条1項のもとでの自衛権の発動は、以下の「自衛権行使の三要件」を充たす場合に限って許されるとしてきました。しかし、実際に敵基地攻撃を実施するとなると、これらの要件に違反することとなる可能性が極めて高いものといえます。

  1. わが国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち武力攻撃が発生したこと
  2. これを排除するために他の適当な手段がないこと
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

なお、政府は2014年7月1日の閣議決定で、上記三要件に代わるものとして、以下の「武力行使の三要件」を定めています。しかし、日本に対する武力攻撃がない場合にも武力行使を認める点で憲法違反であることが明らかなので、この要件を採用することはできません。

  1. 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
  2. これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

(3)第1要件~憲法はもちろん国際法にも違反する先制攻撃となりかねない

第1要件は、「武力攻撃が発生したこと」です。この要件との関係では、少なくとも日本を標的にしたミサイルの発射に着手したことが必要となります。

しかし、固体燃料を使用する現在のミサイルでは発射準備にほとんど時間がかからなくなっているので、着手後発射前の敵基地攻撃を現実的に想定することはできません。

また、地上固定基地からの発射だけではなく、移動式の発射台や、艦艇・潜水艦・航空機からも発射できるため、そもそも発射準備がなされていることを把握すること自体、極めて困難です。

仮に発射準備がなされていることを把握できたとしても、そのミサイルが日本を標的にしているかどうかを正確に判断できるでしょうか。着弾後ですら正確な着弾位置を把握することに難渋している現状からすると、無理がありすぎるように思われます。

万が一、着手についての判断を誤れば、先制攻撃となり、憲法だけではなく国際法にも違反することとなります。着手があったことは日本が証明しなければなりませんが、日本を標的にしたミサイル発射の着手があったことを証明することは、ほとんど不可能ではないかと言われています。

(4)第2要件~そもそも要件を充たすことがありうるのか

第2要件は、武力攻撃を排除するために「他の適当な手段がないこと」です。先にも書いたとおり、政府は「国連の援助もない、また日米安保条約もないというような、他に全く援助の手段がない」場合には、この要件を充たしうるとの立場をとってきました。

国連も、日米安保条約もあるなかで、どのような場合に「他の適当な手段がない」という要件を充たすのか、そもそもそのようなことがありうるのかという点について、何ら説明がなされていません。

(5)第3要件~極限的な場面に限って認められたはずの例外が際限なく広がることに

第3要件は、「必要最小限度の実力行使にとどまること」です。

この要件に関わって、政府は、武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土・領海・領空に派遣すること(海外派兵)は許されないとの立場をとってきました(自衛権行使の地理的限界)。

・「従来、「いわゆる海外派兵とは、一般的にいえば、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することである」と定義づけて説明されているが、このような海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない」(1980・10・28 政府答弁書)
・「武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土・領海・領空に派遣することは一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない」(1985・9・27 政府答弁書)

敵基地攻撃は、この自衛権行使の地理的限界の例外として、「法理上許される」とされてきました。しかし、あくまでも「誘導弾等の攻撃が加えられ、このままおれば自滅を待つのみである、そういうせとぎわになり」敵国のミサイル発射基地を攻撃するより「他に方法はない」という場合に限り、例外的に認められるという位置づけでした。これはつまり、そのような極限的な場面では、敵国のミサイル発射基地への攻撃が、敵の攻撃を排除するうえで「必要最小限度の実力行使」であると考えられるということです。

しかし、敵基地攻撃の対象には、文字通りの「敵基地」だけではなく、「指揮統制機能等」、すなわち軍司令部や政府関係機関等も含まれています。これでは武力攻撃を排除するための「必要最小限度の実力行使」ということはできません。

また、「安保3文書」では、集団的自衛権の行使としての敵基地攻撃が可能であるとしています。つまり、日本に対する武力攻撃がなくとも、敵基地等を攻撃できるということになります。そのような場面で敵基地等を攻撃することがどうして「必要最小限度の実力行使」と言えるのか、説明がつきません。

3 まとめ

以上のとおり、従来の政府見解を前提にしても、敵基地攻撃能力(反撃能力)を保有することは憲法9条2項に、また敵基地攻撃を実行することは憲法9条1項に、それぞれ違反することとなります。

声明や意見書など

日本弁護士会連合会(2022・12・16)
『「敵基地攻撃能力」ないし「反撃能力」の保有に反対する意見書』

東京弁護士会(2022・12・27)
『敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に反対する会長声明』

改憲問題対策法律家6団体連絡会(2022・12・27)
『敵基地攻撃能力の保有などを新方針とする安保関連三文書改定の閣議決定に抗議する法律家団体の声明』