前回のブログ(その2)では、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の「共有」に関する改正点のうち、①共有者の義務の明確化、②共有物の管理・利用・処分に関するルールの明確化、③共有物の管理者に関するルールの新設の3点についてまとめました。
今回は、「共有」に関わる民法の改正点のうち、「共有関係の解消」の方法についてまとめます。なお、改正案及び関連する新法案は、4月1日に衆議院本会議で可決され、現在参議院で審議されています。政府は、今国会での成立を目指しています。
1 共有関係の解消を促進する必要性
日本の相続制度は、相続人が自ら積極的に遺産分割を行わない限り、遺産共有状態が維持される仕組みになっています。このため、相続の発生に伴い、一定程度は自然に共有地が増えていくことになります(なお、改正案には相続登記の義務化が盛り込まれていますが、遺産分割を義務化するわけではないので、共有地が自然に増えていくという仕組み自体が変わる訳ではありません。)。
前回のブログにも記載した通り、共有地の場合、売却したり賃貸したりする場合などに他の共有者の同意が必要となることから、臨機応変で迅速な意思決定が難しくなり、利活用を諦めて放置するケースが出てきます。
また、相続によって共有者の1人となった人の中には、所有者としての自覚や認識に乏しく、関心もない人も多くいます。このため、話し合い自体が困難であったり、連絡先が分からなくなってしまうようなこともあります。
共有にまつわるこのような問題が、所有者不明土地問題の大きな要因と指摘されてきました。
そのため、自然に増えてしまう共有地をいかにして減らすか=共有関係の解消方法が、大きな課題の一つとされたのです。
2 共有関係を解消する方法
⑴ 現行法でも可能な方法
現行法上,共有関係を解消する方法としては、次の3つが考えられます。
① 共有物の変更のルール(民法251条)に従い、共有物ないし持分を売買・贈与等する方法
② 共有持分の放棄(民法255条)による方法
③ 共有物分割(民法256条)による方法
上記③は共有物「分割」という言葉から、共有物をさらに「分ける」ような逆のイメージを抱きがちですが、そうではなく、共有関係を解消するための手続です。
共有物分割の具体的な方法は次の3つです。
1 現物分割
例えば、土地A、土地B、土地Cが、すべて兄、弟、妹3人の共有名義となっているような場合に、土地Aは兄のもの、土地Bは弟のもの、土地Cは妹のもの、というように分ける方法です。土地が1筆の場合に、分筆して分けるのも、この現物分割に当たります。
2 代償分割(価格賠償による分割)
1と同様の設例で、兄がA、B、Cの土地をすべて取得する代わりに、弟、妹に対して相当の代償金を支払う方法です。
3 売却による分割(任意売却または競売分割)
1と同様の設例で、A、B、Cの土地をすべて売却して、その代金を3人で分ける方法です。
どの方法によって分けるかは、共有者同士の話し合い(共有物分割協議)で決めることができます。自分たちでは話し合いがつけられない場合には、裁判所の民事調停や共有物分割訴訟(民法258条)を利用すれば、裁判所に間に入ってもらって話し合いをすることもできますし、それでも話し合いがまとまらなければ裁判所に判断してもらって決着をつけることができます。
民法258条2項は、裁判所が命じる共有物分割方法を定めており、ここには現物分割と競売分割のみが規定されています。また、現物分割が基本的な分割方法で、競売分割は補充的な分割方法と位置づけられています。もっとも、判例により、価格賠償の方法も認められていました。
⑵ 改正案
共有物分割訴訟について
改正点1:共有物分割訴訟の使い勝手を良くするために、代償分割を明文化し、他の分割方法との関係を明確化するなどの改正をしました。
- 共有物分割訴訟の要件として、共有物分割の「協議が調わないとき」に加え、一部の者が協議に応じない等によりそもそも「協議をすることができないとき」も含まれることを明示した。
- 裁判による共有物分割の方法として、①現物分割、②代償分割、③競売分割の3つの方法を明示し、①②は同列で選択可能、③は補充的なものとした。
- 履行確保のために金銭給付、物の引渡し、登記義務の履行等の給付判決を出せることを明示した。
改正点2:相続財産に属する共有物の分割の特則を新設しました。従来は、遺産については家庭裁判所による遺産分割の手続によるべきとされ、地方裁判所による共有物分割訴訟はできませんでした。これを、遺産分割に関する見直しと平仄を合わせて次のとおり改正しました(※1)。
- 共有物の持分が相続財産に属している場合に、相続開始から10年が経過したときは、共有物分割訴訟を利用できる。
- ただし、遺産分割の請求を求める相続人からの異議の申出があった場合はできない。
(裁判による共有物の分割)
第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。第258条の2 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議を申出をしたときは、この限りでない。
3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第1項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
所在等不明共有者の持分の取得・譲渡(新設)
共有物分割をする場合、任意の話し合いでも、訴訟でも、他の共有者の氏名、住所を調べて特定する必要がありますが、誰が共有者が特定できなかったり、共有者の所在が分からなかったりする場合(このような共有者を「所在等不明共有者」といいます。)があり、それが大きなネックとなっていました。
そこで、不動産共有者の中に所在等不明の者がいる場合、次のとおり、裁判により、他の共有者が、当該所在等不明共有者の持分を取得したり、第三者に譲渡したりできようになりました。
【所在等不明共有者の持分の取得】
- 不動産共有者の中に所在等不明の者がいる場合、各共有者は、裁判所に対し、裁判所が定める金額の供託金を納付した上で、所在不明等共有者の持分を取得させる旨の裁判(※2)を求めることができる。
- 裁判所は、公告&登記簿上の住所等に通知した上で、一定期間内に所在等不明共有者から異議の申出がなければ、請求をした共有者にその持分を取得させる旨の裁判をすることができる。
- 上記請求をした共有者が複数の場合は、各共有者の持分割合での按分取得となる
- 当該不動産につき共有物分割訴訟や遺産分割調停等が係属中でかつ共有者から異議の届出があるときは、上記持分取得の裁判はできない。
- 遺産については相続開始から10年を経過していなければ上記持分取得の裁判はできない。
- 所在等不明共有者(が後から現れたときは)は、持分を取得した共有者に対して自己の持分の時価相当額の支払を請求できる。
- 不動産の所有権以外の使用収益権についても準用される。
- この裁判に対しては即時抗告ができる。
(所在等不明共有者の持分の取得)
第262条の2 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が2人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。
4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
【所在等不明共有者の持分の譲渡】
- 不動産共有者の中に所在等不明の者がいる場合、各共有者は、裁判所に対し、裁判所が定める金額の供託金を納付した上で、所在不明等共有者の持分を特定の第三者に譲渡する権限を付与する旨の裁判(※3)を求めることができる。
- 裁判所は、公告した上で、一定期間内に所在等不明共有者から異議の申出がなければ、上記の裁判をすることができる。
- 上記裁判は、所在等不明共有者を除く共有者全員が譲渡することが条件となる
- 裁判の確定後2箇月以内に譲渡されない場合は裁判は失効する(ただしこの期間は伸長可)。
- 遺産は相続開始から10年を経過していなければ上記譲渡権限付与の裁判はできない。
- 所在等不明共有者(が後から現れたときは)は、譲渡をした共有者に対して自己の持分の時価相当額の支払を請求できる。
- 不動産の所有権以外の使用収益権についても準用される。
- この裁判に対しては即時抗告ができる。
(所在等不明共有者の持分の譲渡)
第262条の3 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
3 第1項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
4 前3項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
ちなみに、どのような場合に「所在等不明」と言えるかについては、次のような政府答弁があります。
最終的に、どのような調査がされ、立証がされれば不明という要件が満たされるのかにつきましては個々の事案ごとの裁判所の判断によることになりますが、一般論として申し上げますと、例えば共有者の所在を知ることができないと認められるときには、登記簿や住民票といった公的記録を調査し、その住所に当該共有者が居住しているのかを調査してその所在が不明であることを立証することとなるものと思われます。そのほか、共有者が死亡して相続が開始しているケースでは、相続人やその所在を確認することが必要となりますため、戸籍や相続人の住民票などの調査が必要となるほか、当該不動産の利用状況を確認したり、他に連絡を取ることができる相続人がいればその相続人に確認してみるなど、そのようなことをして調査をしてその所在等が不明であることを立証することになると解されるところでございます。
3 おまけ
共有関係の解消をめぐっては、他にも、さまざまな論点について法制審議会で議論が行われており、それぞれ非常に参考になります(分量が膨大なので、まだすべては読めていませんが・・・・)。
例えば、共有持分の放棄についての議論はとても参考になりました。
共有持分の放棄について規定している民法255条はとてもあっさりした条文で、
「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」としか書いておらず、「どのような場合に共有持分の放棄ができるか」については定められていません。
もっとも、これについては判例があり(最判昭和42・6・22民集21巻6号1479頁)、共有持分の放棄は相手方を必要としない意思表示からなる単独行為であると判示しています。つまり、理論的には、「放棄する」と言ってしまえさえすれば共有持分の放棄は可能だということです(もちろん、実務上は、他の共有者に対する通知を行う場合が多いですが)。
今回の法改正の議論では、不動産の管理責任や義務を負担に感じる人が増えている中、一方的な通知によってその負担を放棄できてしまう共有持分の放棄についても、見直しが必要なのではないかという意見が出ました。
例えば、相続した不動産の中に、とても管理しにくい不動産(産業廃棄物が廃棄された土地など)などがあった場合に、先に持分を放棄してしまった人が、出遅れた人に負担をすべて転嫁することになりかねず、不公平にならないかという懸念が出されました。産業廃棄物が廃棄された土地については、今回、新しく立法される予定の「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」においても、国庫帰属は認められないとされているからです。
そのため、共有持分の放棄にも他の共有者の同意が必要なのではないか(同意があると放棄ではなく「譲渡」になるかもしれないが)という意見も出されていました。
日頃、相続放棄によって相続権が回ってきた後順位相続人から、「こちらに何の断りもなく一方的に相続放棄するなんて、無責任すぎる。」というお怒りのお言葉を頂戴することもありますので、この指摘はなるほどもっともだと思いました。
今回の改正案には盛り込まれませんでしたが、権利濫用として共有持分放棄の効力が争われるケースが出てくるなど、問題が顕在化していけば何らかの手当が必要になってくるかもしません。
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※1 相続時に、一部の土地(実家など)は兄妹間で法定相続分に従い共有名義で登記し、他の土地(田畑、山林など)は遺産分割協議も相続登記もせずに遺産共有状態のままで放置しているケースで、相続開始から10年後に共有関係を解消しようとすると、これまでは、実家は共有物分割訴訟、田畑・山林は遺産分割調停(審判)と、別々の手続でする必要がありました。改正後は、すべて共有物分割訴訟で1回的解決をすることが可能になります。
※2 手続は非訟事件手続法87条に規定。裁判の申立て(「必要な調査を尽くしても所在等が明らかにならないこと」の疎明が必要。)→公告(公告期間は3ヶ月以上で裁判所が定める)&登記簿上の全共有者の住所等に通知→供託金の納付→期間内に所在不明者等共有者から異議の届出なし→「所在等不明共有者の持分を取得させる」という決定。管轄は物件所在地の地裁。
※3 手続は非訟事件手続法88条に規定。裁判の申立て(「必要な調査を尽くしても所在等が明らかにならないこと」の疎明が必要。)→公告(公告期間は3ヶ月以上で裁判所が定める)→供託金の納付→期間内に所在不明者等共有者から異議の届出なし→「所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に持分の全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する」旨の決定(非訟事件手続法87条)。管轄は物件所在地の地裁。
※4 所在等不明共有者の持分譲渡については、特定の第三者への譲渡に同意しない共有者がいる場合には、従来通り、財産管理人を選任して遺産分割調停や共有物分割訴訟をするしかないと思われます。上記の権限付与の決定を得れば財産管理人がいなくても遺産分割調停や共有物分割訴訟ができるようになればいいのですが、そこまでは新法からは読み込めません。一方、所在等不明共有者の持分取得については、取得に同意しない共有者がいても取得が可能となります。逆に、共有者の1人が所在等不明共有者の持分を取得することに反対したい共有者は、自らも持分取得の請求をするか(請求すれば按分取得できる)、遺産分割あるいは共有物分割請求をした上で持分取得の裁判に対して異議の届出をする必要があります。