『自衛隊と憲法9条』 木村草太教授講演会


定員を大きく上回る参加

新潟県弁護士会は、2月8日(土)、木村草太さんの講演会を開催しました。
演題は、「自衛隊と憲法9条」です。
定員を大きく超える約250人の方がご参加くださいました。

全体として、精密な論理が積み重ねられていくといった内容の講演でした。私なぞがそういう組み立てで話すと、聞いている皆さんの眠りを誘発してしまうのですが、木村先生の講演では、「ゴジラが襲来したときに自衛隊は出動できるか」など、興味を引きつける話題が随所に挿入されているため、そのようなことはまったくなく、みなさん目を輝かせながら話に聞き入っていました。また、憲法9条と13条の関係など、要所要所で用いられる「喩え」がいずれも秀逸で、大変勉強になりました。

そして木村先生は、将棋の愛好家としても知られていて、大学で将棋の考え方を取り入れた法学の講義をしたり、各種メディアでプロ棋士にインタビューしたりしていらっしゃいます。この日の講演でも、「最善の受け」との将棋用語が登場するなど、楽しみどころ満載の講演となりました。

講演の概要

第1 国際法の原則

1 武力行使に関する国際規律の変遷

19世紀には、戦争についてルールを定め、それを守らせるという形での制約が課されていた。
基礎に据えられていた安全保障観は、軍事同盟をつくり、勢力均衡を図ることによって安全を確保するというもの。これは、小国でも安全保障を図ることができる等のメリットがあった。
しかし、同盟を維持するために敵対関係を煽ることになりがちである等のデメリットや限界もあった。2つの世界大戦は、このデメリットが顕在化したもの。

20世紀に入ると、少しずつ武力行使そのものに制約を課していく流れとなる。
ポーター条約は、債権回収のための武力行使を禁止。
国際連盟規約やパリ不戦条約は、侵略戦争を禁止。
そして、国連憲章では、武力行使一般を違法化するに至った。

2 現在の国際法の規律(武力行使原則違法と、3つの例外)

武力行使は、原則として違法(国連憲章2条4項)。

ただこれはあくまでも紙の上の話。実際に武力行使する国が現れたらどうするか。
違反する国に対してはみんなで対応する。具体的には、安保理決議に基づく安全保障措置。
91年の湾岸戦争におけるものが典型例。

しかし、国連安保理が機能しない場合もあるし、対応するまでに時間がかかることもある。そこで暫定的措置として、個別的自衛権と集団的自衛権が認められている。

*自衛権行使の要件とされている「武力攻撃を受けたとき」の意味
「着手があったとき」(=攻撃態勢をとり、もはや引き返すことができない時点)も含まれる。
例)艦隊が作戦行動に入った。ミサイルが発射台に設置され燃料が充填された。

3 世界で実際に起こっていることをあてはめてみる

アメリカがシリアを空爆した際に理由としてあげられたのは、アサド政権が反政府勢力に対して化学兵器を使用したというもの。

しかし、安保理決議はないから集団安全保障措置とは認められない。
また、反政府勢力は国家や国に準じる組織ではないから、個別的自衛権も集団的自衛権も行使できない。

日本政府は、「化学兵器を許さない」というアメリカ政府の決意を支持すると表明。
しかし、このような人道目的による武力行使を認めてしまうと、例外の範囲が広がってしまう。前提事実の確認や検証が困難であることも多く武力行使正当化の口実に用いられやすいことから、慎重であるべき。

第2 憲法9条について

1 憲法9条の禁止範囲

(1)用語の確認

  • 「戦争」 宣戦布告等の手続きを経て行われるもの。
  • 「武力行使」 国家の人的・物的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為
    c.f「武器使用」
  • 「戦闘行為」 国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為
    →国または国に準じる組織によるもの

*海賊対処
海賊は、国または国に準ずるものではないから、海賊対処は武力行使ではなく武器使用。
なお、捕まった海賊は犯罪者として処罰される。 捕虜ではないが、国際人道法の適用を受けるほか、憲法の刑事手続きに関する人権規定や、刑事訴訟法の適用も受ける。

*南スーダンPKO
紛争当事者が国または国に準じる組織ではないため、「法的な意味での戦闘行為ではない」との答弁がなされた。

(2)2つの説

  • A説 「国際紛争解決のための」武力行使及び戦力保有の禁止
    →武力行使を行う場合の責任者や手続きなどが不明という問題。
  • B説 あらゆる武力行使の禁止(政府見解、通説)

2 9条の例外を認める根拠はあるのか

(1)2つの説

  • B1説 例外規定は存在しない→個別的自衛権違憲・自衛隊違憲
  • B2説 憲法13条が根拠となる→個別的自衛権・自衛隊合憲

(2)B2説における9条と13条の関係

9条は、武力行使と戦力の保有を禁止する。
他方で、人権や個人の尊厳を保障する13条の趣旨は、他国から武力攻撃を受けた場合にも妥当する。
両立困難な2つの要請をどのように調整すべきかという話。

*遠足のときのルールに喩えると
飲み物は一切持ってきてはいけません(9条)
熱中症予防のために水分を十分に摂ってください(13条)

(3)B2説における国内防衛作用の説明

国内防衛作用についてどのように説明すべきか。「やってはいけないと書いてないからやっていい」という人もいるが、憲法は授権規範なので、統治機構に関する条文ではこのような法解釈は成り立たない。

B2説では、国内防衛作用について、「行政」に含まれると解する。では、73条のどの条項で?NHK日曜討論で、小野寺防衛大臣に質問した際の答えは、「内閣法制局長官がお答えになることだと思います」というもの。どの条項を挙げたとしても種々の問題が生じるから、この回答は「最善の受け」だろう。

*ゴジラが襲来した場合に自衛隊は出動できるか?

自衛隊が出動できるのは、①防衛出動、②治安出動、③災害派遣の3つ。
ゴジラは国家ではないから、①防衛出動はダメ。
ゴジラは犯罪者ではないから、②治安出動もダメ。
武器が使えないから、③災害派遣もダメ。
中谷防衛大臣(当時)にゴジラ襲来に対応する担当官庁はどこかと尋ねると、環境省ではないかとの回答だった。ゴジラは害獣にあたるからと。これを前提にすると、実際害獣駆除にあたるのは猟友会なので、ゴジラが襲来した場合にも猟友会が出動することになる。

(4)B2説で他国防衛を説明できるか?

①の防衛出動ができるのは、武力攻撃事態があったとき。
2014年7月1日閣議決定は、存立危機事態があったときにも防衛出動できるものとした。従来の解釈の延長に位置づけられており、憲法13条の文言がそのまま盛り込まれている。

しかし、憲法13条には外国を守れとは書いていない。これを根拠に自衛隊の出動・活動を認めることは無理。集団的自衛権行使、国連軍参加は憲法違反。ただ、存立危機事態は、日本も同時に武力攻撃を受けた場合以外には起こりえない。文字通りに厳格に解釈するのであれば(集団的自衛官の行使ではなく)合憲とも考えられる。私は、意味がわからないから憲法違反(明確性の原則)という立場。

*存立危機事態が問題となった裁判(自衛官に対する職務命令の事前差し止め訴訟)
この訴訟で国は、「防衛出動命令が発せられることはおよそ想定できない」「将来的に存立危機事態が発生しうることを具体的に想定しうる状況にはない」と主張していた。
(この裁判については、以前「つれづれ語り」で書いたことがあります。)

第3 憲法9条と自衛隊明記改憲

1 3つの選択肢

  • 甲案:国際法上許されるすべての武力行使を可能にする(=国防軍創設)
    →支持が少なく、可決は絶望。
  • 乙案:個別的自衛権+集団的自衛権限定容認(安保法明記)
    →安保法制を国民投票にかけるのと同様。可決されるかは微妙であり政権にとっては一種の賭。
  • 丙案:個別的自衛権のみ(従来型専守防衛)
    →可決されると安保法制が違憲であることが明確になる。政権にとって、最高裁の違憲判決よりもダメージが大きい。

第4 質疑

会場のみなさまから数多く寄せられた質問用紙から、以下の項目をピックアップして木村先生にお答えいただきました。限られた時間の中での短いやりとりでしたが、木村先生の説得的な回答にみなさん大きく頷いていました。

1 自衛隊の中東派遣に関わって

  • ソレイマニ司令官の殺害は国際法上どのように評価されるか
  • 自衛隊の中東派遣、調査・研究目的というのは実態とかけ離れているのではないか、組織法である防衛省設置法に基づく派遣というのも問題があるのではないか

2 憲法9条と自衛隊

  • 攻撃型兵器を導入しつつある自衛隊は、政府の解釈を前提にしたとしても憲法違反なのではないか

3 憲法改正

  • 自衛隊を憲法に明記することで、違憲論に終止符を打つことになるのか
  • 自衛隊が憲法に明記されることで、私たちの生活にどのような影響が及びうるか
  • 新型コロナウイルス対策のために緊急事態条項を創設するという議論についてどう思うか