先日、長岡で憲法の講演をした際、終了後に「新潟県革新懇ニュース」のインタビューを受けました。その内容がインタビュー記事として掲載されたので、以下に貼り付けます。
ー参議院選挙で、改憲をめざす勢力が3分2以上の議席を占めましたが。
「改憲勢力」といっても各党の主張は微妙に異なっており、決して一枚岩ではないと思います。9条が明文改憲されることへの危機感は持ち続けなければなりませんが、現段階でより問題にしなければならないのは、「敵基地攻撃能力」の保有など、憲法9条に明らかに違反する状況が進められようとしていることです。解釈改憲はもはや限界を超えています。「憲法を変えさせない」だけではなく、政府に「憲法を守らせる」ことが重要で、そのことが本当の意味で「9条を守る」ことにつながるのではないかと思います。
―「憲法カフェ」などでは、いまどのような訴えをしていますか。
ロシアによるウクライナ侵略で、安全保障のあり方に対する関心が高まっているため、これまでとは力点を変えた話が求められていると感じます。対話や署名集めの際に多く出されるのは、「攻められたらどうするのか?」という不安や疑問です。そうした声に正面から応えられるようにしていきたいですよね。
では、「攻められたらどうなるのか?」という点について、現実的にシミュレーションしてみるとどうなるでしょう。日本の食料自給率はカロリーベースでわずか39%(2014年度)です。そして最大の貿易相手国は輸入、輸出とも中国です。また輸出入は、ほぼ100%海上輸送に拠っています。仮に中国と交戦状態となり海上封鎖などがなされれば輸出入はほぼ全面的に停止し、私たちの生活は直ちに危機的状況に陥ってしまいます。
このように脆弱な社会構造は、どんなに軍備を増やしたところで変わるものではありません。攻められたらどうするのか?という問いには、その前提として攻められても対応次第でどうにかなるという楽観が潜んでいるように思われます。「攻められたら終わり」という現実をリアルに直視し、「攻められないようにするためにどうしたらよいのか」ということを考える必要があります。
―防衛省は来年度の防衛費の概算予算で大幅な増額を要求していますが。
防衛費大幅増額は、敵基地攻撃能力保有論と一体です。敵基地攻撃論が出てきた背景の一つには日本のミサイル防衛システムの破綻があります。「ゲームチェンジャー」と言われる極超音速ミサイルが導入されたことで、従来のミサイル防衛システムは役にたたなくなってしまったのです。「盾」が機能しないなら、「矛」が必要だということで、敵基地攻撃論が浮上したという訳です。しかし、これを本当に実施するとなれば莫大な費用がかかります。
日本の安全保障政策は、これまで、抑止力的発想に基づいて行われてきました。しかし、抑止力は本来的に不確実・不安定なものです。抑止されるかどうかは、相手国の受け止め方次第ですし、これを外部から正確に把握することは困難です。また、相手国が常に合理的な判断・行動をするとは限りません。「拡大抑止」の場合には、直接の当事国だけではなく、同盟国の意図や思惑も絡んできますので、より不確実・不安定さが増すことになります。抑止力万能論を前提に政策を進めることは大変危険です。
それではどうやって「攻められないようにする」のか。国際法上は、安全保障の5つの要素(戦争の違法化、紛争の平和的解決、集団安全保障と自衛権、軍縮、国際人道法)をバランスよく追求することが重要であるとされています。そのためにも、いま脅かされている国際法秩を維持・強化することが大切です。また、東南アジアでは、様々な紆余曲折がありながらも、紛争の平和的手段による解決、武力行使の放棄などを定めた東南アジア友好協力条約(TAC)の賛同国を域外にも広げる等、「地域安全保障」に基づく平和構築の取り組みを粘り強く積み重ねています。こうした経験に学ぶことが必要でしょう。
こうした取り組みを進めていくうえで、憲法9条が力になります。アフガニスタンで復興支援活動に従事した医師の中村哲さんも、「9条がバックボーンとして僕らの活動を支えていてくれる、これが我々を守ってきてくれたんだな、という実感があります」と語っていらっしゃいます。
―「憲法カフェ」はどのように進めてこられたのですか。
憲法に興味や関心を持っていても、学習会や講演会となると、敷居が高いと感じる方もいらっしゃいます。もっと気軽に憲法のことを学べる場を提供したいと思い、「憲法カフェ」を始めました。気心の知れた仲間うちで集まる場に呼んでもらい、そこにこちらからおじゃまするスタイルです。決まったテーマがある訳ではなく、その時々で憲法に関連する社会問題についてオファーをいただき、お話しています。
2014年から始めて、これまでに県内各地で90回以上実施してきました。今後もオファーがあれば、できるだけお応えしたいと考えています。
―普段から訴えたいと思っていることはなんですか。
憲法にのっとって、その時々の民意を尊重しながら政治をするというのは、どのような政治的立場をとるとしても守らなければならない、当然の前提です。このところ、それがないがしろにされることが繰り返されてきたため、なんとなく社会全体があきらめムードになってしまっているようにも感じますが、ここは絶対に譲ってはならないし、見過ごすわけにはいかないと思います。
そのためにも、私たち一人ひとりが、民主的素養や主権者としての意識を身に付けることが求められていると思います。数年前から、県内のいくつかの高校におじゃまして、主権者教育の授業をさせていただいています。1回の授業で伝えられることは限られますが、政治や社会に興味や関心を持つきっかけを提供できればという思いで取り組んでいます。生徒さん達の感想文からは、私の話を正面から受け止め、それぞれに考えを深めてくれていることが伝わってきます。若い世代のみなさんの瑞々しい感性や行動力には希望を感じますし、私たち大人も恥ずかしくない生き方をしていかなければならないと思わされます。