「平和を守る全国弁護士会アクションの日」
日本弁護士会連合会(日弁連)では、「戦争は最大の人権侵害」という理念のもと、憲法公布の日である11月3日を、「平和を守る全国弁護士会アクションの日」と位置づけ、市民のみなさまに、広く平和を守るための呼びかけを行っています。
これをうけて、各地の弁護士会が、11月1日から12月31日にかけて、様々な取り組みを行っています。新潟県弁護士会では、昨年に引き続き、新潟市と上越市で、一斉街頭宣伝を行いました。
上越市での宣伝の様子
今年一番の冷え込みと報じられた寒い朝でしたが、通学時間帯に合わせて午前8時から、大手町交差点で宣伝しました。
憲法の全条文が記載されたクリアファイル、敵基地攻撃能力(反撃能力)についてのパンフレット、カイロ、ポケットティッシュ、緊急事態条項についてのパンフレットとクリアファイルなどを配布しました。
通学途中の小学生が、「え~、弁護士さん?」「ありがとうございます!」などと言いながら笑顔で受け取ってくれました。中には「SDGsの16番ですよね?」と質問してくる子もいて、驚きました。
新潟市での宣伝の様子
新潟市では、古町十字路で宣伝を行いました。
ランチタイムだったため、サラリーマン、専門学校生、買い物客などなど、幅広い世代の方が行き交う中での宣伝となりました。気温が低かったこともあり、カイロの受け取りがすごくよかったようです。また、条文クリアファイルを受け取って、「憲法が全部書いてあるんですか~。」と声をかけてくれる学生さんもいたようです。
新潟市の弁護士から送ってもらった写真をアップします。
報道
『上越タイムス』の記者の方が、昨年に引き続き取材にきてくださいました。ありがとうございます!!記事が掲載されたら追記したいと思います。
お話した内容
私がお話した内容を以下に貼り付けます。
■軍事に軍事で対応するとどうなるか
ウクライナや中東で起こっている戦争がなかなか終わりません。
そんななか、この国でも、軍備を増やす、そのために防衛費を増やす、ということがすすめられています。攻められたら困る、不安だから軍備を増やす、直感的にはそのように考えてしまいがちです。でもその方法で本当にうまくいくのでしょうか。軍事に軍事で対抗すると、際限がありません。お互いに軍備を増強していき、そのうち自分の国だけでは対抗できなくなって、強い国と同盟を結びます。お互いに同盟を広げていって、軍事ブロック同士で対峙する。最終的に、多くの国を巻き込んで大規模な戦争になる。そうして引き起こされたのが、二度の世界大戦です。
戦後も同じように軍拡競争、軍事同盟・軍事ブロックの対立が繰り返されました。そこでは核兵器の開発競争にもなりました。核兵器の数は、ピーク時には7万発以上にものぼりました。人類を何度でも滅亡させられる数です。
軍事に軍事で対抗するという方向を突き詰めていくと、際限のない軍拡競争、核兵器の開発競争、大規模な戦争へと行き着いてしまうのです。
これは単なる過去の話ではありません。ロシアとウクライナの戦争に欧米各国が軍事支援を行っています。それに対抗するような形で北朝鮮がロシア側に加わって参戦したことが報じられています。中東の戦争も、イスラエルとパレスチナだけではなく、レバノン、イランなど隣国へと戦火が広がっています。軍事に軍事で対抗すれば、エスカレートしていかざるを得ないのです。
いまの憲法をつくるとき、国務大臣だった幣原喜重郎は、どうして戦力を放棄するのか、どうして憲法9条が必要なのかと問われ、「文明が戦争を滅ぼさなければ,戦争が文明を滅ぼしてしまう」からだと答えました。核兵器によって壊滅的被害を受けたことで、このような認識に到達した訳です。まもなく戦後80年を迎えようとしていますが、私たちはまた同じような過ちを繰り返す方向に向かっているように感じます。危機が増している今だからこそこの原点に立ち返るべきではないでしょうか。
先日、日本の被爆者団体、日本被団協がノーベル平和賞を受賞しました。被爆者の願いは、仕返し、報復ではありません。もう二度と被爆者を出さないで欲しい、核兵器による被害を繰り返さないで欲しいという願いです。戦争が続き、終わりが見えない今だからこそ、その被爆者の訴えが必要だ、だからこそノーベル平和賞が贈られたのだと思います。
■防衛費を増やすことによる影響
政府は、防衛費を5年で倍増させ、総額43兆円支出するとしています。そのためにはこれまで支出してきたものを削らなければなりません。教育、医療、福祉など、私たちの生活に直結する予算が真っ先に削られます。当然それだけでは足りないので、増税も必要です。私たちはいま物価高に悩まされ、苦しめられていますが、生活に必要な予算がさらに削られ、税金や社会保険料が増やされる。大学の学費ももっと上がるでしょう。そうなれば進学を諦めざるを得ない人も増えることになります。夢や生活を犠牲にして防衛費を増やす、本当にその道でよいのでしょうか。
防衛文書では中国が仮想敵国とされていますが、今や経済的にも軍事的にも超大国となった中国と、深刻な超少子高齢化で地域社会を維持することすら困難になってきている日本。軍拡競争で張り合って最初に力尽きるのはどちらなのか、火を見るよりも明らかです。
■日本は「戦争ができる国」なのか
軍備を増やすのは抑止力を高めるためだと言われることもあります。しかし抑止力というのは要するに相手の国を威嚇して、脅して、攻撃させないようにするということです。相手が脅されなければ効果がありません。軽はずみに日本を攻撃すれば猛烈な反撃を受けて大変なことになる、戦争になったらただでは済まないと相手国が考えなければ抑止力などはたらきません。では日本はそのようなことが可能な国でしょうか。日本の食料自給率はカロリーベースで38%しかありません。エネルギー自給率は13%程度しかありません。私たちは食料もエネルギーも大半を海外に依存して暮らしている訳です。戦争になって、輸入が途絶えればたちどころに私たちの生活は成りたたなくなります。
海岸線に数十基の原発がならんでいますが、ミサイルによる攻撃は想定されていません。稼働していない原発にも大量の使用済み燃料が保管されており、ミサイル攻撃を受ければ大量の放射線が放出されることになります。
そのような危険な施設への攻撃がなくても、ミサイル攻撃によって道路網が寸断されればスーパーやコンビニの棚はすぐ空になり、食料の入手が困難になります。大雪が降ったり地震が起こったりするだけでそうなのですから、戦争になれば日々の生活に多大な影響がでます。
このような状態のまま、軍備だけを増やしても、日本は戦争なんかできやしないと見透かされてしまうでしょう。日本は憲法9条のもとで、戦争しないことを前提に国をつくってきました。防衛費を増やして多少の軍備を備えても、国の基本的な性格は変わらないのです。
■攻撃されるリスクを高めかねない
攻められると不安だから軍備を増やす。そのことは、逆に攻撃する口実を与えることにもなりかねません。いま進められている敵基地攻撃能力の保有は、特にその危険が高いものと言えます。敵基地攻撃能力というのは、文字通り、敵国・相手国の基地を攻撃する能力のことです。日本ではこれまで憲法9条のもと、専守防衛政策、つまり守りに専念するという政策がとられてきました。これだけでは不十分なので、攻める力もつけようということで、敵基地を攻撃できるミサイルなどを備えようということをやっている訳です。
日本がそういうことをすると周りの国はどう感じるでしょうか?今までは守ることしかしない、そのための能力しか持たないと言っていた国が、攻める能力も持ちますと言い出せば、当然不安になります。そこから軍拡競争になっていく訳です。
日本に対する不安・不信感が増していけば、攻められる前に攻めようということにもなりかねません。本当に不安に陥らなくても、攻められそうだったから先に攻めたんだという言い訳をしながら日本に対する攻撃がなされるおそれもあります。攻められないようにするために力を増したはずが、かえって、地域の緊張を高めたり、先制攻撃を受ける口実にされてしまったりしかねないのです。
■地域の安全をどうつくるかという発想で
自分の国をどう守るかということだけを考えていると、軍事対軍事の発想になりやすいです。自分の国のことだけを考えていると、周辺国と利害が対立してしまうので、軍拡競争になりやすい。そうではなく、地域の平和や安全をどうやって作っていくかという視点に立てば、周辺国と利害は一致します。そこに共同の取り組みの可能性があります。大きな視野で見れば、平和を作るのに必要なのは、軍拡ではなく軍縮であることは明らかです。そういう視点を周辺国にも持ってもらうにはどうすればよいか。周辺国とそういう共通の視点で話し合う場を作り、広げ、制度化していく。お互いが本当に望んでいるのは、不信感を持っていろいろ犠牲にして軍拡競争をしていく関係ではなく、一緒に安心できる環境をつくり、お互いにとってお互いがプラスになる関係、ウインウインの関係を作っていくことなのだと思います。
もちろんこれは簡単にできることではありませんが、過去の過ちから学び、人類全体として賢明な選択をしていきたい、私たちはそのように考えています。憲法9条は、悲惨な戦争の体験に基づき、様々な偶然も積み重なって、時代を先取りする内容の条文として生み出されたものです。日本は、唯一の戦争被爆国として、憲法9条を持つ国として、人類を賢明な選択へと導いていく役割を果たして欲しい。それができるかどうかは主権者である私たち次第です。弁護士会としてもそのための努力を積み重ねていきたいと考えています。