つれづれ語り(北朝鮮問題をめぐる対話)*加筆あり


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
9月27日付朝刊に掲載された第19回は、北朝鮮問題をめぐる対話についてです。
22日以降の出来事を加筆しました。

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対話は無駄骨か

総理の寄稿・演説
安倍総理は、9月17日付のニューヨークタイムズに寄稿し、「北朝鮮にこれ以上の対話を呼びかけても無駄骨に終わる」などと主張した。総理は、同月20日の国連総会における一般討論演説でも「必要なのは対話ではない。圧力だ。」と言い切った。

各国のスタンス
ドイツのメルケル首相は、同国の公共放送のインタビューに応えて「どのような武力解決もまったく不適切だと判断するし、外交努力と制裁実現が正しい答えだ」と述べた。フランスのマクロン大統領も、軍事的解決は多くの犠牲者を生む、緊張緩和が必要だと述べている。

アメリカのマティス国防長官は「外交的手段を通じて解決されることを願っている。」と述べ、ヘイリー国連大使も「だれも北朝鮮との戦争は望んでもいないし、大統領も望んでいない。われわれは対話や制裁を通じて対処してきたし、あらゆる外交的手段を活用した解決を諦めていない。」とコメントしている。いずれもトランプ大統領が国連で行った挑発的な演説による悪影響を抑えるための対応と言えよう。

安保理決議の内容
9月11日に出された国連安保理決議2375は、経済制裁とあわせて、関係国に対し「緊張を緩和する努力」を呼びかけ、「対話による平和的、包括的な解決を促進する取り組みを歓迎する」としている。安保理は、同月15日の報道声明でも「平和的、外交的、政治的な解決に尽力」する決意を表明している。

軍事衝突は絶対に避けるべきであり、あくまで対話による解決を模索すべきというのが国際的な潮流であり、安倍総理の対話否定論は明らかに異質だ。

北朝鮮の行動の背景にあるもの
北朝鮮が核実験と弾道ミサイル発射を繰り返しているのは、核抑止力を持ちたいためであると言われる。アメリカからの攻撃を抑止するために、アメリカ本土を核攻撃する能力を備える必要があるという発想だ。

2002年、当時のブッシュ大統領が、イラク・イラン・北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、実際にイラクの政権を武力で転覆させたことが背景にある。

必要なのは安心供与
トランプ大統領は、国連演説で北朝鮮の対応次第では「完全に破壊するしかなくなる」とまで述べた。安倍総理は、「すべての選択肢はテーブルの上にあるとする米国の立場を一貫して支持する」と述べた。軍事的圧力を示すことで、北朝鮮の暴走に歯止めをかけようとの考えに基づくものであろう。

しかし、軍事的脅威を示すだけでは、逆効果になることもある。先制攻撃されるのではないかとの不安に駆られ、「やられる前に攻めなければ」という思考に結びつきかねないからだ。抑止力をはたらかせるためには、攻撃したら報復するというメッセージだけでは足りない。攻撃しない限りやられることはないという「安心供与」も必要なのだ。

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実際にも、トランプ大統領の演説を受けて、北朝鮮は太平洋での水爆実験を示唆。アメリカが軍事攻撃の予兆を示せば「容赦ない先制行動によって予防的措置をとる」などと表明した。これに対しトランプ大統領がツイッターで「彼らは長くないだろう」と反応するなど、威嚇の応酬が激しさを増している。

もっとも深刻な被害を受けるのは
北朝鮮が水爆実験まで成功させた可能性がある以上、軍事衝突が起これば「信じられない規模での悲劇が起きる」(マティス米国防長官)のは明らかである。無防備な原発を各地に抱え、ミサイル防衛も十全というにはほど遠い現状にある日本は、もっとも深刻な被害を受けることになるだろう。

対話と圧力(経済制裁)を対立的に捉えて圧力のみを強調し、軍事的対応すらちらつかせる総理のスタンスは、国民を危機にさらすものと言わざるを得ない。いま求められているのは、理性的対応により緊張緩和を促しつつ、経済制裁を含むあらゆる手段を通じて、対話せざるを得ない状態に引き込むことではないだろうか。