「上越よみうり」のコラム「田中弁護士のつれづれ語り」。
2017年3月15日付の朝刊に第5回分が掲載されました。
第3回の続きで、長時間労働の規制について書いています。
過労死・過労自殺をなくすために、実効性のある法規制がどうしても必要です。
終わりの方で紹介している父親を過労自殺でなくしたお子さん(当時小学1年生)の詩は、是非多くの方に読んでいただきたいと思います。
過労死をなくすために必要なこと
第3回に予告した通り、今回は、残業時間規制の実効性を確保するために必要なことについて語ります。
実効性を確保するための最大のポイントは、「抜け穴をつくらない」ということです。しかし、このままでいくと、3つの抜け穴が出来てしまう可能性があります。
1 規制対象から外される業種
1つめは、建設作業員や運転手など一定の業種の労働者を規制の対象外とするものです。いま法案を作っている最中なので、この例外が盛り込まれてしまうかどうかは、まだ決まっていません。
2 高度プロフェッショナル制度
2つめは、「高度プロフェッショナル制度」です。
これは、高度の専門職であること、収入が一定額以上であること等の要件を満たす労働者について、労働基準法の「労働時間」、「休憩」、「休日」、及び「割増賃金」に関する規定を適用しないという制度です。
上記の規定を適用しない代わりに「健康確保措置」をとらなければならないこととされていますが、その内容があまりに緩やかすぎて、健康を確保できるものとはいえません。この制度が導入されると、例えば1日あたり16時間の労働を360日間連続で行わせることも合法化されてしまうことになります。
3 裁量労働制の拡大
3つめは、裁量労働制の拡大です。
裁量労働制というのは、実際に働いた時間とは関係なく予め設定された労働時間だけ働いたものと「みなす」制度です。給料も、設定された労働時間分だけ支払えばよく、実際の労働時間に比例した割増賃金を支払う必要がないので(深夜労働は別)、長時間労働の温床となっています。
この制度の対象を広げて、一部の営業職も加えることが予定されています。こちらについては、高度の専門性や年収などの縛りがないので、これが一番大きな抜け穴となってしまうかも知れません。
4 意義のある法律を
これら3つの抜け穴は、現に長時間労働を強いられている人々について、引き続き長時間働かせられるようにするためのものと言えます。もっとも規制を及ぼす必要性の高い、肝心要の部分に抜け穴を作ってしまっては、法律を作る意義は失われてしまいます。
5 『僕の夢』
「大きくなったら、ぼくは博士になりたい。 そしてドラえもんに出てくるようなタイムマシーンを作る。 ぼくはタイムマシーンにのって お父さんのしんでしまう前の日にいく そして『仕事に行ったらあかん』ていうんや」
これは、父親を過労自殺で亡くした男の子(当時小学1年生)が書いた『僕の夢』という詩です。これ以上の犠牲者を出さないために、現状追認型の法律ではなく、規制の実効性ある法律をつくって欲しいと強く願っています。
*2018年3月1日付追記
この男の子が大学生になって書き足した後半部分があるということを教えていただいたので、追記します。
「大きくなっても僕は忘れはしないよ。得意な顔して作ってくれたパパやきそばの味を。僕はタイムマシーンに乗ってお母さんと一緒に助けにゆこう。そして「仕事で死んだらあかん」て言うんや。仕事のための命じゃなくて、命のための仕事だと僕は伝えたい。だから「仕事で死んだらあかん」て言うんや」
今回政府は、裁量労働制の拡大については断念することを決めましたが、高度プロフェッショナル制度については引き続き導入を目指す考えを変えていません。裁量労働制も高度プロフェッショナル制度も、長時間労働を可能にし過労死を引き起こす原因となるという意味では、共通しています。過労死の悲劇を繰り返させないためには、高度プロフェッショナル制度も撤回して、例外を設けずに長時間労働の規制を強化する法改正が必要です。