『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2021年12月1日付に掲載された第123回は、「山の価値を取り戻すために」です。
篤子弁護士が、山や森が本来持っている価値と機能を取り戻すために必要なことについて語っています。
山の価値を取り戻すために
1 原野商法
1970年~1980年代にバブル景気を背景に原野商法の被害が多発しました。「原野商法」とは、値上がりの見込みがほとんどないような山林や原野について「将来高値で売れる」などと勧誘して不当に買わせる詐欺です。近年、かつて原野商法の被害に遭った方やその原野等を相続した子ども世代が、「あなたの持っている土地を買い取ります」などといった勧誘をきっかけに巧妙な手口で売却額より高い新たな山林や原野を購入させられる二次被害に遭うケースが増加しているそうです。
2 二次被害の背景
被害の背景には「不要な土地を手放したくても手放せない」という日本の土地政策の問題があります。民法第239条2項は、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」と規定していますが、土地所有権の放棄については民法に規定がなく、確立した最高裁判例も存在しないことから、今の日本の行政機関は「国民による土地所有権の放棄は認めない」という前提で各運用を行っています。また、国民による土地の寄付についても、固定資産税の減収や管理費用の負担増を避けるため、原則として受けつけていません。そのため、市場で売れない山林はなかなか手放すことができないのが現状なのです。原野商法の二次被害はこのような事情から為す術も無く困っている所有者の心理に付け込んで広がりました。
3 新しい国庫帰属制度
そんな中、今年4月に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。施行は公布日(4月28日)から2年以内の政令で定める日です。この法律が施行されると、相続や遺贈で土地を取得した相続人は、不要な土地を国に引き取ってもらうことができるようになります。ただし、建物がある土地、抵当権がついている土地、土壌汚染がある土地、境界が明らかでない土地、崖地、地下埋設物がある土地など、国の管理負担が過大となるような土地は対象外です。また、標準的な管理費用の10年分の「負担金」を国に納付する必要があります。国の負担軽減やモラルハザード防止の観点から上記のような厳しい要件が設けられたため、原野商法の被害者の相続人の場合、「境界が明らかでない」、「崖地」、「管理費用を用意できない」などの理由で、国に引き取ってもらえない場合が一定数ありそうです。
4 森林バンク
そこで今私が着目しているのが、平成30年5月25日に成立した「森林経営管理法」です。市町村がいわゆる「森林バンク」の機能を果たし、放置され荒廃した森林を集約し、意欲ある事業者に貸し出す仕組みを作るために制定された法律です。
本来的に森林は水を浄化し山を守るという重要な機能を持っており、市場価値がないからといって「負動産」ではありません。災害対策の面でも、地球温暖化対策の面でも、貴重な公共財であり、国民の財産です。それが国民と所有者とで押し付け合いのようになっている今の日本の姿は、私には異常な社会に見えます。山や森が正しくその価値と機能を取り戻せるように、国や自治体が「森林バンク」制度をきちんと機能させるべく最大限の努力をしてくれることを期待しています。
『上越よみうり』に連載中のコラム「田中弁護士のつれづれ語り」が電子書籍になりました。
販売価格は100円。こちらのリンク先(amazon)からお買い求めいただけます。スマートフォン、パソコン、タブレットがあれば、Kindleアプリ(無料)を使用して読むことができます。