つれづれ語り(空き家対策としての民事信託)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年8月4日に掲載された第115回は、「空き家対策としての民事信託」です。
篤子弁護士が、民事信託の利点や弁護士の関わり方についてわかりやすく語っています。

1 日弁連信託センターの委員になりました

今月から、日本弁護士連合会が設置する「日弁連信託センター」の委員をすることになりました。従前から、空き家対策に取り組んでいる中で、民事信託を普及させる必要があると感じており、そのための取組の一環として県内弁護士向けに信託法研修会を企画していたのですが、その準備中に同センターとの繋がりができ、そのまま委員を引き受けることになりました。今年度下半期から来年度にかけて、民事信託に関する仕事が増えていきそうです。

2 普及が進む民事信託

民事信託とは、一言で言えば、財産の管理・承継のための制度です。将来認知症等で財産管理が難しくなった場合に備え、あらかじめ財産の一部を親族等に信託という形で譲渡し、その管理を委ねることができます。また、委託者(受益者)が死亡した場合などに、残りの財産を取得する人をあらかじめ定めておくことで財産を承継することもでき、遺言の代わりに用いることができます。親が子に管理を託し、後に財産を取得させることが多いため、「家族信託」と呼ばれることもあります(注:「家族信託」は法律用語ではなく、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。)。遺言や成年後見制度にはないメリットがあるため、各種メディアが取り上げて脚光を浴び、数年前から普及が急速に進み、現在2万件超の利用実績があるとのことです。

これまで、生前整理、相続対策、認知症対策として遺言や任意後見契約が検討されてきた場面で、今後は民事信託も選択肢の一つとして検討することになるでしょう。弁護士としても、これらの相談を受けた場合に、民事信託を説明・提案し、要望に応じた民事信託契約書を作成することが求められる場面が増えてくると思われます。

3 弁護士の関わり方

弁護士に民事信託について相談をした場合、①民事信託のスキーム設計と契約書作成、②民事信託組成後のフォローという2つのサービスを受けることができます。「民事信託のスキーム設計」というのは、遺言、成年後見制度(法定後見、任意後見)、ホームロイヤー契約(財産管理委任契約)などの類似制度と比較しながら、依頼者の権利擁護や紛争予防のために長期的な視点から最適な制度を適切に取捨選択し、どのような民事信託が適切かを検討した上で必要であれば他の制度と組み合わせて、民事信託の内容を組み立てることを言います。スキーム設計や契約書作成の際は、公証役場、司法書士、税理士、金融機関などとの連携が必要であることから、弁護士がその中心(コーディネーター)としての役割を果たします。

また、「民事信託組成後のフォロー」というのは、民事信託契約書を作成した後の助言や監督を指します。民事信託契約書の内容がよく分からないと、せっかく契約を締結しても、折々の場面でどう対応してよいか分からなくなったり、親族による使い込みなど不適切な管理を防げなくなったりしてしまいます。そのため、信託契約書を作成した弁護士は、依頼があれば、信託監督人やホームロイヤーとして継続的な関与に応じるよう推奨されています。今後、日弁連信託センターでは、信託契約に必要な信託口座の開設に向けて県内各地の金融機関と連携を図るなど、市民のみなさんが信託を利用しやすい環境整備に取り組んでいく予定です。関心のある方、信託を利用したい方は、お近くの弁護士までご相談ください。


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