『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2021年7月21日付に掲載された第114回は、「節目の年に行われる選挙を転換点にするために」です。今年10月に予定されている上越市長選挙について、「候補者任せ」「候補者待ち」になるのではなく、市民の方から主体的・積極的に政策提言を行っていった方がよいのではないかという、なんとも大それた問題提起をしてしまいました。
節目の年に行われる選挙を転換点にするために
政策論議を求める声
現職の市長が不出馬を表明しているせいであろうか、はたまた市が抱える様々な問題が深刻度を増しているせいであろうか。上越市政の諸課題について、政策的な議論を求める声が高まっているのを感じる。
実際、上越市が抱える問題は数多くあるうえ、いずれも重要かつ深刻だ。人口減少、少子化、空き家の増加、農林水産業の後継者不足、地域医療体制、災害対策、財政健全化等々。
「候補者任せ」の限界
今後、市長選挙の立候補(予定)者はそれぞれに公約や政策集を作って情報発信したり、公開討論会で主張を戦わせたりすることになるであろう。ただ、それらに過剰な期待をすべきではないように思う。選挙期間が短すぎるという根本的な問題に加えて、選挙には以下のような3つの制約がつきまとわざるを得ないからだ。
1つは、選挙では勝ち負け(当落)が優先されざるを得ないという制約である。候補者は当選を目指して活動することから、重点政策を決める際には問題の客観的な重要性よりも市民の関心の高さの方が重視されるであろうし、政策の内容も市民の支持が得られやすいものに流れがちになるであろう。
2つめは、対立的な議論になりやすいという制約である。候補者が出席して行われるのは、通常、公開「討論」会である。「討論」は対立的に議論して相手を説得(論破)することを目的に行われるものであり、問題に対する理解を深めたり建設的な議論を通じてよりよい解決策を探る「対話」とは本質的に異なる。
3つめは、「現実的」に考えざるを得ないという制約である。候補者は、お金(市の財政状況)、時間(当選後の任期)、人や物(人的・物的資源)等、現実にある諸条件を所与の前提として、実行可能性のある政策を検討・提案せざるを得ない。もちろん、現実離れした実現可能性のない政策を提案されても困ってしまうが、問題の深刻度からすると、「現実」に縛られた発想では現状を打破することは困難なように思われる。
これらはいずれも、選挙の特質とも言うべきものであって、候補者個人の努力や心がけによって完全に回避することができる性質の事柄ではない。こうした制約を乗り越えて、政策的な議論を深めるためには、「選挙特有の磁場」から離れるのが得策ではないだろうか。
専門的知見を土台に
また、問題の重要性や深刻度からすると、いずれも対症療法的な対応ではまったく不十分で、根治療法が必要ではないかと思う。しかし、いきなり平場で話し合いをしても、なかなか議論は深まらないだろう。
そこで、問題の切迫度に見合った、真に現実的な解決策を見いだすために、以下のように段階的な検討を行うことが望ましいと考える。
すなわち、第一段階として、①各分野ごとに現状を客観的かつリアルに把握したうえで、②専門的知見に基づいて問題の背景や構造的要因を分析し、③それらを踏まえて解決策を検討する。この段階では、「選挙特有の磁場」から離れるためにあえて候補者を抜きにして、専門知に基づく客観的な分析・検討を行う。
第二段階は、現実的に採用しうる選択肢や政策の優先順位等を、総合的かつ領域横断的に検討する課程だ。この段階では、候補者を交えつつも、市民の間の自由な議論・対話を中心に据えながら行う。
次のステージへ
特に第一段階の検討において、各問題ごとに当該領域の専門家に協力してもらうことが必要となるため、実際に行うことは容易ではない。それでも、もし実現できれば、「候補者任せ」から脱却して、市民が主体的に市の問題と向き合う、民主主義の新しいステージへと進むことができる。
奇しくも今年は、市制施行50周年にあたる。そのような節目の年に行われる市長選挙。将来振り返ったときに、新しい時代の幕開け・転換点となったといえるような活発な政策論議が行われることを期待したい。
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