つれづれ語り(コロナ禍のもとで広がる深刻な実態)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年5月26日付に掲載された第110回は、「コロナ禍のもとで広がる深刻な実態」です。シングルマザーの家庭を中心に、成長期の子どもが体重を減らすという異常事態が広がっています。政治の責任をしっかり果たしていただきたいと思います。

コロナ禍のもとで広がる深刻な実態

体重を減らす中学生

今年に入って身長は10センチ以上伸びたが、体重は5キロ落ちた。

県央地域に住む中学生1年生の一家を取材した記事が、今月16日の新潟日報に掲載されていた。一家は、母親と小学生の妹の3人家族。飲食店でパート勤務する母親は、新型コロナウイルスの感染拡大のあおりで勤務時間が減らされ、収入が大幅に減少。入浴や洗濯の回数を3日に1回に減らすなど、生活費を極限まで切り詰めても足らず、わずかな貯金を切り崩しながらギリギリの状態で暮らしている。

精神的にも追い詰められている母親を見かねた小学生の妹は、学校の図書室で植物図鑑を調べ、近所のおばあちゃんから調理の仕方を聞いて、河原から「食べられる草」を持ち帰った。「ママの役に立てばいいな」と屈託なく話すその妹の後頭部には円形脱毛の症状が現れている。中学生の兄は幼い頃からスポーツが好きで勉強もがんばっていたが、今は何もする気がおきず、「人に会うのも憂鬱」と語る。記事を読むだけでも、胸が締め付けられるような気持ちになる。

子ども達が置かれている状況

これはごく一部の特殊な例ではない。NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が専門家と協力して立ち上げた「シングルマザー調査プロジェクトチーム」が、昨年7月から今年2月にかけて、ひとり親世帯の生活状況について調査を行っている。

それによれば、多くの世帯で新型コロナウイルス感染症の拡大前に比べて就労収入が減少しており、ほぼ半数の世帯が月額「12万5000円未満」であった。また、経済的な理由で米などの主食が買えないことが「よくあった」「ときどきあった」という回答が、3~4割。肉・魚を買えないことが「よくあった」「ときどきあった」という回答は半数以上だった。東京のひとり親世帯で「体重が減った」と答えた小学生は、昨年8月、9月の両月で11%を超えた。そして多くの世帯で、子どもの服や靴、玩具・文具・学用品が買えない状態にあることもわかっている。

コロナ禍による負の影響は、「社会的弱者」に対して、より大きく重く及ぼされる。もともとぎりぎりの状況で生活していた家庭では、その影響が子ども達の生活を直撃する。家庭にゆとりがないことは子ども達もよくわかっているから、ガマンする。しかし子ども達の心身には見過ごせない影響が出ている。

自助も共助も限界

国民が置かれているこうした状況は、「国民のために働く内閣」を掲げる現政権の視界に入っているのだろうか。

各種のNPOは、感染対策を徹底しつつ、各地で支援活動を行っている。30以上の団体が参加して昨年3月に結成された「新型コロナ災害緊急アクション」は、数千人から相談を受け、寄付金の中から総額数千万円の給付を行っている。民間の団体がボランティアで対応できる規模をはるかに超えていると言えるだろう。「自助も共助も既に限界。今こそ公助の出番。」というのが支援の現場の実感だ。

政治の責任として

ひとり親世帯に対しては「ひとり親世帯臨時特別給付金」が昨年中に二度支給されているが、それでも先に述べた様な実態が広がっている。ひとり親世帯を含む低所得世帯には今月以降できる限り早期に「子育て世帯生活支援特別給付金」が支給されることになっている。この給付金についてインターネットで検索すると、検索予測キーワードとして「いつ」「いつから」「いつ入る」等の言葉がずらりと並ぶ。それだけ切実に求められているということだが、世帯の生活実態に照らせば今回の給付で十分とはとても言えず、継続的な措置が必要となるだろう。

また、他に利用可能な制度として、「住居確保給付金」や、「就学援助」制度・「就学支援金」・「奨学給付金」等の給付制度のほか、自治体によっては学習支援の制度もある。しかし窓口がバラバラであったり、制度の周知が不十分だったりするため、適切に活用されているとは言えない。制度の周知や告知を進めるとともに、より利用しやすい制度に改良していくことも必要だろう。
成長期の子どもの体重が減ってしまうような異常事態は、早急に解消されなければならない。すべての子どもに健全な発育・発達が保障されるよう、政治の責任を果たして欲しい。


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