つれづれ語り(相続登記の義務化について)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年5月12日付に掲載された第109回は、「相続登記の義務化について」です。篤子弁護士が、先日成立したばかりの民法・不動産登記法の改正法のうち、相続登記の義務化に関わる部分についてまとめています。

相続登記の義務化について

1 いつから義務化されるのか

2021年4月22日、所有者不明土地問題の解消に向けた民法・不動産登記法等の改正法が成立しました。「相続登記の義務化」というニュースをご覧になった方もいるでしょう。今日は、この内容について解説したいと思います。

まず、いつから義務化されるかですが、まだ決まっていません。改正法の施行日は後日政令で定められますが、2023年から2024年ころになる見通しです。

2022年には相続登記の登録免許税(法務局に支払うお金)の軽減措置がとられる見込みですし、2023年には最寄りの市役所で全国の戸籍が取得可能になる新しい戸籍システムがスタートします。改正法の施行後は「所有不動産記録証明制度」という、法務局で故人名義の不動産の一覧表の交付が受けられる制度も導入されます。様々な相続人の負担軽減策が予定されていますので、今はまだ焦る必要はありません。

2 義務の内容

相続によって土地や建物の所有権を取得した方は、そのことを「知ったとき」から3年以内に登記する必要があります。「相続した時」ではなく「知ったとき」から3年です。遺産の中に土地・建物があることを知らなかった場合や、そもそも自分が相続人であることを知らなかった場合などは、そのことを知ってから3年以内に登記すれば問題ありません。また、期限が過ぎたことに「正当な理由」がある場合は義務違反の責任(10万円以下の過料)は問われません。どんな場合に「正当な理由」があるといえるかは、今後国の通達等において明らかにされる予定ですが、例えば、相続人が極めて多数おり資料の収集や相続人の確定に時間がかかる場合や、相続人に病気等の事情がある場合などが考えられます。

ちなみに、現在までにすでに相続済みの土地や建物についても改正法は適用されます。「祖父母や親から相続した土地があるが、名義変更はしていない」という方は、改正法の施行日から3年以内に手続する必要がありますので、注意してください。

3 簡易な手続の新設 

相続登記には、登録免許税、戸籍謄抄本の収集、司法書士費用など一定の費用がかかり、これを一律に義務づけるのは国民負担が大きいということから、「相続人申告登記」という新しい簡易な制度が作られました。故人の相続人であることがわかる戸籍謄抄本を添付し、住所・氏名等を記入する程度の簡単な申告書を提出するだけで済むものになるようです。この手続をすれば、相続登記義務は果たした扱いになります。

もっとも、これは暫定的な手続ですので、その後に遺産の分割によって土地建物を取得する人が決まったら、それから3年以内に改めて所有権の移転の登記をする必要がありますので、ご注意ください。

なお、この方法以外にも、最初に法定相続分によって相続登記をし、後で遺産分割等によって所有者が確定したら更正の登記をするという新しい方法もできました。

4 遺産分割調停

今回の法改正のそもそもの目的は、所有者不明土地問題の解消にありました。遺産分割を経ない暫定的な相続登記をいくら義務づけても、所有者不明土地問題を解消することはできません。根本的に問題を解決するためには、土地に関する権利義務の帰属を確定させる遺産分割の促進もセットで行う必要があるでしょう。

この点、改正法では、相続開始から10年経過後は、遺産分割審判において特別受益や寄与分といった自己の取り分を増やすような主張が認められなくなるという一種のペナルティを設け、遺産分割を早期に行うよう動機づけることにしました。

遺産分割協議促進のための直接的な支援策は今回の改正には盛り込まれませんでしたが、個人的には、家庭裁判所の遺産分割調停をもっと気軽に利用していただくことをオススメしたいと考えています。1200円という安価な手数料で、裁判官を含めた調停委員会を仲介役にした話し合いができ、話し合いの結果をまとめた調停調書には判決と同様の効力が認められるからです。遺産分割調停の詳しい利用方法が知りたい場合には、家庭裁判所の受付での手続案内や、弁護士の法律相談などでお尋ねください。


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