『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2021年4月28日付に掲載された第108回は、「エネルギー政策の抜本的転換を」です。先日開催された気候変動サミットを受け、地球温暖化問題の現状と今後求められる対策について書きました。
エネルギー政策の抜本的転換を
気候変動サミットの成果
バイデン米政権が主催する気候変動サミットが、先日閉幕した。「二大排出国」である中国とアメリカがこの問題についての危機感を共有し、ともに積極姿勢を示したことは大きな成果と言えるだろう。
また、参加した各国が温室効果ガスの排出削減目標について引き上げを表明するなか、日本も従来のものから大幅に引き上げた目標数値を掲げている。
温暖化による影響
地球温暖化による影響は多岐にわたるが、現時点でもっとも身近にあるのは「気候危機」だろう。フランスで46.1度(2019年)、シベリアで38度(2020年)など、異常な高温が各地で度々計測されている。ドイツのシンクタンク「ジャーマンウオッチ」は、2018年の気象災害でもっとも深刻な被害を受けた国は日本であるとの報告書を発表している。相次ぐ豪雨や台風によって重大な被害がもたらされたことは記憶に新しいが、熱中症による死者数も年間で1000人を超えている。
温暖化がさらに進めば、陸や海の生態系が損なわれ、農業・漁業に深刻な影響が出て、世界的な食糧危機が到来することが懸念されている。また、永久凍土の融解により、人類にとって未知の細菌やウイルスが放出されるおそれもある。感染症を媒介する蚊などの生息域が広がることと相まって、新たなパンデミックが起こる危険も高まる。
なぜ1.5度なのか
2015年に採択された「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて「2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすること」が目標とされた。
気温上昇がこの目標値を超えると、永久凍土の融解により温室効果ガスの一種であるメタンガスが放出されたり、大規模森林火災の頻発により熱帯雨林が焼失するなど、地球温暖化が進展する方向で複合的な連鎖反応が加速度的に起こって、制御不可能な状態に陥るおそれがあると指摘されている。
近づく臨界点
現在の世界の平均気温は、産業革命前との比較で既に1度上昇している。気温上昇を抑えるためには、過去分も含めた累積排出量を一定以下に抑えることが必要である。しかし、気温の上昇幅を「1.5度」以内に留めるための上限累積量を100とした場合、そのうちの92%は既に排出されてしまっている。「臨界点」はすぐそこまで近づいている。
目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量を削減し続け、2030年までに2010年比で45%減らすとともに、2050年までに実質ゼロにすることがどうしても必要だ。
主力電源の切り替えが不可欠
実は、日本が新たに掲げた「46%」という削減目標には、ちょっとしたからくりが潜んでいる。基準とされた2013年度は、ここ30年でもっとも温室効果ガスの排出量が多かった年度なのだ。EUのように1990年比で計算すると「39%」程度となり、2010年比で計算すると「41~42%」程度となる。
しかし、このように「水増し」した目標ですら、達成することは容易ではない。報道によれば、政府関係者は「(46%というのは個別の対策による効果を)積み上げた数値ではない」と述べているとのことであり、対策の具体化が急務だ。
「電気・熱配分」を経ない純粋なCO2排出量でカウントすると、発電事業者等が行う「エネルギー転換」による排出が全体の約4割を占める。目標達成のためには、主力電源を石炭火力等から再生可能エネルギーへと切り替えることが不可欠だ。政府は今夏にも新たなエネルギー基本計画を策定する方針を表明している。そこで抜本的な見直しがなされることを期待したい。
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