つれづれ語り(「終わりの始まり」に)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2020年11月11日付に経緯された第96回は、「『終わりの始まり』に」です。

核兵器禁止条約の発効に関わる諸々のことや、今後の展望などについて書きました。書くために調べるなかで、初めて知ったこともありました。よろしければぜひご覧ください。

「終わりの始まり」に

核兵器禁止条約の批准国が50カ国に到達し、来年1月22日に条約が発効することが決まった。

法規範を確立する意義

条約が発効しても、批准していない国に対して法的な拘束力が及ぶ訳ではない。しかし、核兵器は非人道的で違法な兵器であるという国際的な法規範が確立されることそれ自体に大きな意義がある。

核兵器禁止条約の発効要件を50か国の批准と定めたのは、包括的核実験禁止条約の「反省」に基づくものだ。包括的核実験禁止条約は1996年に採択され、現在までに168か国が批准している。しかし、核保有国を含む特定の44か国の批准を発効要件としたため、いまだ発効に至っていない。

そこで、この条約以降、非人道的兵器について、違法であるとの規範を先に確立したうえで、それを広げていく方式が採用されるようになった。

対人地雷を禁止するオタワ条約は40か国の批准を、クラスター弾を禁止するオスロ条約は30か国の批准を、それぞれの条約の発効要件としたことで、早期の発効が実現した。

アメリカはオタワ条約を批准していないが、オバマ大統領(当時)は、対人地雷の生産を停止するとともに、保有する対人地雷の廃棄を進めること等を決定した。条約の発効を力にして盛り上がった国内外の世論が、この決定を後押ししたことは間違いなかろう。

「核の傘」の下にある国での変化

今後は、核保有国や、「核の傘」の下にある同盟国の批准をいかにして増やしていけるかが焦点となる。そのためのもっとも確かな力となるのは国内世論であるが、NATO加盟国の中でも近年注目すべき変化が起こっている。

ドイツでは、昨年9月に、超党派の25人の議員による「核兵器禁止議員団」が発足した。社会民主党や緑の党の議員の他に、保守系のキリスト教民主同盟の議員も加わっているという。今年7月の世論調査では、「ドイツ政府は核兵器禁止条約に署名すべき」との回答が92%に上った。

また、ベルギーでは、今年9月に新たな連立政権が発足したが、その政権合意文書には「核兵器禁止条約が核軍縮にどう新たな勢いを与えることができるのか、探究していく」と明記された。

元首脳らによる共同書簡

今年9月、NATO加盟の20か国に日本と韓国を加えた22か国の元首脳、国防大臣、外務大臣経験者ら56人が、連名で共同書簡を公表し、これらの国々の現職の首脳らに対して、核兵器禁止条約への参加を呼びかけた。56人の中には、潘基文元国連事務総長や2人の元NATO事務総長も含まれている。

この共同書簡は、「核兵器が安全をもたらす」というのは、「危険で間違った考え」であると指摘し、禁止条約は「究極の威嚇から解放されたより安全な世界のための基盤を提供しています。」と述べている。

また、アメリカを含む核保有国との同盟関係を維持したままでも、条約を批准することは可能であるとしている。

日本でも

国内でも、政府に対して条約への参加を求める世論が広がっている。

日本政府に対して核兵器禁止条約の署名や批准を求める地方議会の意見書は、先月末時点で495に達している。これは全地方議会の28%にあたる数字だ。上越市議会も2018年6月に、全会一致で採択している。

また、日本世論調査会が今年6月から7月にかけて行った世論調査では、日本も核兵器禁止条約に「参加すべきだ」と答えた人が72%に上った。

そして、音楽家の坂本龍一さん、映画監督の山田洋次さん、俳優の佐野史郎さんら多くの著名人が呼びかけ人となって、日本政府に核兵器禁止条約の署名・批准を求めるオンライン署名の取り組みが、今月からスタートしている。

締約国会議への参加

条約の発効から1年以内に開催されることになっている「締約国会議」には、未批准国もオブザーバーとして参加することができる。唯一の戦争被爆国である日本が参加するかどうかが、世界的にも注目されている。

公明党の山口代表は、先月、茂木外務大臣に対し、この会議へのオブザーバー参加を検討するよう求めた。政府は核兵器禁止条約に対して否定的なスタンスを続けており、参加を決断させるには更なる世論の広がりが必要だろう。

終わりの始まり

カナダ在住の被爆者、サーロー節子さんは、この条約について、「核の時代の終わりの始まりを刻むもの」であると述べている。

いま世界に残されている核兵器は、およそ1万3000発。条約を核兵器の「終わりの始まり」へとつなげることができるかどうか、そのために日本が果たすべき役割は極めて大きい。


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