つれづれ語り(人口減少社会に対応した新しい土地政策)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2020年4月15日付に掲載された第82回は、「人口減少社会に対応した新しい土地政策」です。篤子弁護士が、土地基本法の改正と、それをうけた土地基本方針案について書いています。新型コロナウイルスはもちろん大きな問題ですが、同時に法律や制度がいろいろ変わっているので、そちらも忘れずにフォローしていきたいですね。

人口減少社会に対応した新しい土地政策

1 土地基本法の改正

本年3月27日の国会で「土地基本法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第12号)が可決、成立し、このうち改正土地基本法が同月31日に施行されました。法改正の目的の1つは、所有者不明土地問題への対応にあります。土地の基本理念を定める土地基本法の改正は、平成元年の制定以来30年ぶりで、国土政策の大きな転換点といえます。

2 改正の背景・必要性

少子高齢化、人口減少、経済成長の鈍化等の社会経済情勢の変化によって、土地需要の低下や資産価値の減少が生じました。これにより、相続人をはじめ土地所有者等の土地利用・保有意識が低下したことが、所有者不明土地や管理不全土地の増加をもたらしたと指摘されています。これらの土地の増加は、周辺の生活環境を悪化させ、インフラ整備などの公共事業や災害復旧の重大な支障となるほか、地域経済の活力を低下させるなど、大きな問題となっており、対応が喫緊の課題とされてきました。

他方、バブル期の地価高騰を背景に制定された土地基本法は、投機的取引を抑制して適正な地価形成を図る目的で制定されたものであり、こうした土地を巡る状況の変化にうまく対応できていないことから、土地政策を抜本的に見直すため、改正を行うこととなったのです。

3 改正法の概要

改正土地基本法では、第6条で「土地所有者等の責務」という規定が新設され、所有者等の管理責任(登記など権利関係の明確化のための措置や土地の境界の明確化のための措置を行う責務など)が規定されました。また、同法第21条で、政府は、人口減少時代に対応し適正な管理等を確保する観点から土地政策を再構築するため、今後の土地政策の具体的方向性を示す「土地基本方針」を策定することとされました。これに基づき、国土交通省は本年4月3日、土地基本方針の案を公表し、同月23日までの期間でパブリックコメントを実施しています。

4 土地基本方針案の概要

上記土地基本方針案には、①土地の利用・管理に関する計画の策定、②適正な土地の利用・管理の確保を図るための措置、③土地の取り引きに関する措置、④土地に関する調査の実施、情報の提供、⑤土地に関する施策の総合的な推進の5つの事項が定められています。

これらの事項のうち、私が特に注目しているのは①と②です。①には、立地適正化計画と地域公共交通網形成計画で位置付けた事業の一体的な実施により、コンパクトシティーの推進と公共交通ネットワークの再構築を図ることなどが記載されています。②のうち、都市部については、税制特例や金融支援、都市再生特別地区制度を活用した都市開発事業を進め、国際競争力のあるオフィスや宿泊施設など高度で質の高い土地利用を誘導することや、まちなかに「居心地が良く歩きたくなる」空間を官民一体で形成し、都市の魅力を向上させる取り組みを推進することなどが記載されています。他方、低未利用土地については、土地の利用・管理を促すための円滑な取引の促進に向けて、所有者と買主等とのマッチング・コーディネート、所有者に代わって土地を管理するランドバンク、リノベーションによる不動産再生などの取り組みを全国展開する方向性が示されています。また、所有者不明土地については、一定の要件下で土地の所有権放棄を認め、国に土地を帰属させる制度の創設や、土地の管理に特化した財産管理人制度の創設などが方針として示されています。

国民生活にも大きな影響を及ぼす土地政策の見直しについて、引き続き注目していきたいと思います。

 


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