つれづれ語り(ほんとに必要ですか?)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2019年7月10日付に掲載された第63回は、「ほんとに必要ですか?」です。
政府が導入を進めている防衛装備品(=兵器)のなかには、日本の防衛とは別の目的に基づくものや、本来備えているべき性能を備えていないものも含まれています。財政が危機的な状況にあるなかで、一方で年金支出を抑制し、消費税を増税しつつ、こういう「無駄遣い」をするのはいかがなものでしょうか。
今回の参議院選挙(7月21日投票)では、こういうお金の使い方でよいのかどうかも問われていると思います。

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ほんとに必要ですか?

増え続ける防衛費

財政健全化が叫ばれるようになって久しい。しかし安倍政権になって以降、防衛費は6年連続で増加している。まとめ買いした兵器の代金を分割で支払う「後年度負担」の残高は5兆3372億円となり、遂に単年度の防衛費を超えるに至った。支払期限を延長するために特措法の制定・改正を行わざるを得ない現状が、「健全」からほど遠いことは明らかだ。

導入が進められている兵器のうちいくつかは、「必要性」に疑問符がつく。

イージス・アショア

その1つが地上配備型のミサイル防衛システム「イージス・アショア」だ。

(1)費用の高騰

防衛省は当初、1基あたりの導入費用を800億円と見込んでいた。しかし米国との調整の結果、1基あたり1340億円に大幅増。施設整備費やミサイルの購入費などを含めた総額は、8000億円近くになるともいわれている。

(2)迎撃能力への疑問

北朝鮮は日本を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有し、迎撃能力を超えた攻撃=飽和攻撃の研究を続けているとされている(2018年版防衛白書)。イージス・アショアの導入によって、本当にミサイル攻撃を防ぐことが可能なのか軍事専門家からも疑問が呈されている。

また、ミサイル防衛システムは、導入すればそれでお終いとはならない。ミサイルの性能が向上すれば、それにあわせて迎撃システムも改良しなければならない。システムを陳腐化させないために、高額の費用を投入し続けることを余儀なくされるのだ。

(3)アメリカを守るため?

日本防衛よりも、ハワイやグアムを防衛することに主眼があるのではないかという指摘もある。

迎撃ミサイルは、弾道ミサイルの正面から発射するのが理想的で命中率も高くなるとされている。北朝鮮から首都圏に向けて弾道ミサイルを発射する場合には能登半島上空を、近畿地方を狙う場合には隠岐諸島上空を通ることとなる。日本防衛のためであれば、「能登と隠岐に置くはずだ。」というのが、軍事ジャーナリスト田岡俊次氏の指摘だ(『AERA.dot』2018.9.27)。

AERA.dot 2018.9.27より

AERA.dot 2018.9.27より

それではなぜ、イージス・アショアの配備候補地が秋田市と萩市になったのか。北朝鮮と秋田市を結んだ延長線上には米軍のアジア・太平洋方面軍司令部のあるハワイが、北朝鮮と萩市を結んだ先にはアンダーセン米空軍基地及びアプラ米海軍基地を抱えるグアムがある。米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所」は、昨年5月に発表したレポートで「ハワイ、グアムなどの重要地域を弾道ミサイルから守るため、イージス・アショアを使うことができる」としている。

F35戦闘機

もう1つは、自衛隊の次期主力戦闘機と位置づけられている最新鋭ステルス戦闘機F35だ。

(1)導入・維持費用

政府はF35Aを105機、短距離離陸・垂直着陸が可能なF35Bを42機の合計147機導入することを決めている。

導入費用は1機あたり116億円。維持管理費は、30年の運用期間で1機あたり307億円。147機分の購入費と維持管理費の総額は単純計算でざっと6兆2000億円。今後さらに増える可能性もあるという。

(2)未完成の戦闘機

F35は、当初の予定よりも開発が大幅に遅れたこともあり、試験的に導入して運用しながら改修を重ねる「スパイラル開発」の手法がとられてきた。

米会計検査院は、2018年6月の報告書でF35には未解決の欠陥が966件あり、そのうち111件は「危機的で安全性や重要な性能を危険にさらす問題である」とした。同報告書では、F35Aに搭乗したパイロットが酸欠症状を訴える事例が6件発生し、呼吸調節装置の頻繁な故障が確認されたことなども記載されている。

また、米オンライン軍事紙『ディフェンスニュース』は、今年6月、F35に13の重大な欠陥があると報じた。欠陥の内容は、超音速飛行を一定の時間以上続けるとステルス性能を喪失する可能性があること等。米国防総省は、飛行速度の制限で対応する方針で、根本的解決を図る計画はないという。そして、来年度以降の5年間で米軍が導入する80機の戦闘機は、F35ではなくF15とすることが決まっている。

まだ引き返せる

果たしてこれらの兵器は、限られた予算の中で、年金・医療・教育などに回す分を削ってでも購入する必要があるものなのだろうか。愚かな選択を改めるために残された時間はそう多くない。