『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2018年3月7日付に掲載された第30回は、所有者不明土地問題についてです。
土地も断捨離できる日がくる?
1 所有者不明土地問題とは
今、政府が解決に力を注いでいる「所有者不明土地問題」をご存知でしょうか。
今国会でも、これに関連する法案が提出され、審議される予定です。
増田寛也元総務相が座長を務める民間研究会(所有者不明土地問題研究会)の試算によると、所有者不明の土地は、2016年には全国で九州本島の土地面積を上回る約410haに上り、対策を講じなければ2040年には北海道の面積に迫る約720万haまで増加するとのことです。
これを聞くと「所有者が分からない土地がそんなにあるのか!」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際はそうではありません。ここで言う「所有者不明土地」というのは、不動産登記簿等の所有者台帳により所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地のことをいいます。
例えば、名義変更をしていない等の理由で登記名義人と真の所有者が違うとか、名義人の登記簿上の住所と現在の住所が違うため連絡がつかないとか、相続登記を何代にもわたってしなかったため相続人が多数にわたり全員に連絡を取るのが困難となっている場合などを差します。こういった場合でも、住民票、戸籍等の公簿情報や、聞き取り等の現地調査などの追跡調査を行うことで所有者にたどり着くことができる場合は少なくなく、この場合実際は「所有者不明」ではないのですが、調査には多大な時間・コスト・労力を必要とする場合が少なくありません。
こうした「所有者を突き止めるまでが大変」な土地の存在は、公共事業や災害復旧、空き家・空き地対策、地域づくり、固定資産税の徴収など、様々な場面で地方自治体などの業務のネックとなっているため、これらを含めて「所有者不明土地」と扱っているのです。
2 注目すべき理由
私は最近、この問題に注目しています。
今後、人口減少・少子高齢化、地方を中心とした地価の下落、地方の過疎化等を背景に、空家・空き地、耕作放棄地、管理が放棄された森林などが増えていき、名実ともに所有者不明土地(単に所有者の探索が困難なだけでなく所有者としての責務が果たされていない土地)が増えていくでしょう。所有者不明土地問題というのは、このような時代の中で、今後、私たちが日本の国土をどのように利用・管理していくべきなのかという、国民と国土の在り方の問題であり、国の根幹に関わる問題だと思うからです。同時に、土地の所有権という個人の財産権・私有財産制(憲法29条)の在り方にも関わる問題でもあります。
解決の大まかな方向性としては、「所有者不明土地」を活用しやすくすること、「所有者不明土地」をこれ以上増やさないようにすること、現在所有者不明となっている土地を含めてすべての土地について所有者が分かるようにすることなどが考えられ、そのためにどのような制度をつくることができるか、様々な研究会が立ち上げられ検討が進められています。
このなかで私がもっとも関心を持っているのは、土地所有権の放棄の可否についてです。
現行の民法には、所有者のない不動産は国の所有に属する(民法239条2項)との規定はありますが、不動産の所有権を放棄することができるかどうかについては規定がありません。理屈上は放棄できるという解釈をすることも十分可能です。ただ現実問題として、登記名義を国に引き取ってもらうためには国の協力が必要となり、国はそのような協力をしてくれないことから、所有権放棄はできないというのが実情です。
「不要な土地なので手放したい。しかし売れないため手放すこともできない。」とお困りの方は少なくないと思います。断捨離ブームで「捨てる」ことに注目が集まっている昨今ですが、果たして土地も「捨てる」ことができるようになるのでしょうか?