つれづれ語り(信用性の判断基準)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

10月18日付朝刊に掲載された第20回は、信用できる・できないの判断基準についてです。選挙の投票日を直前に控えていますが、投票先を決める際にも参考になるかも知れません。

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信用できる・できないの判断基準とは?

1 「信じてください」だけでは信じないのが法曹三者

 他人の言葉が信用できるかどうか、みなさんはどうやって判断しているでしょうか?

自分の目をまっすぐに見つめ、真剣な眼差しで話している相手のことは信用できるでしょうか?いつも穏やかな笑顔で、誠実に接してくれる人のことは信用できるでしょうか?

それぞれに基準のようなものをお持ちかもしれません。

法律家の中でも、法曹三者と呼ばれる裁判官、検察官、弁護士の仕事は、「信じてください!」と必死な声で訴える方々を前に、「この人を信じるか、信じないか」の判断を常に迫られる仕事です(残念ながら嘘をつく方も少なくないので。)。では、どのような方法で判断しているのでしょうか?

2 判断の肝は事実認定にある

裁判とは、具体的な事実を前提に、法律を当てはめて結論を出すものです。

ある事実があったのか、なかったのか、あったとすれば具体的にどのような事実だったのかの認定を誤れば、いくら正しく法律を解釈・適用しても、結論は誤ったものとなってしまいます。

そのため、法曹三者の卵は、まず、この「事実認定力」のトレーニングを徹底的に受けることになります。その中で、もっとも重視されているのが、「証言の信用性」の判断、つまり、人の言葉を信じるかどうかの判断なのです。

3 判断を誤らないためのポイント

従来の法曹は、先輩法曹から、職人芸の伝承のような形で、少しずつ技法や考え方を習得してきました。しかし、昨今では、受け継がれてきた様々な技法や考え方を、できるだけ明確に言語化して後輩に伝えていこうと、様々な論文や書籍が発表されています。興味のある方は、ぜひご覧になっていただければと思います。

今日は、証言の信用性を判断する際のポイントを、2つだけご紹介させていただきます。

まず一つは、「証言の一貫性」です。証言内容が一貫しているか、それとも変遷・矛盾があるかは、信用性判断において重要なポイントです。ある事実について、前に言っていたことと違うことを言う人に対しては、「なぜ言っていることが変わったのか」の説明を求めることが大切です。そこで合理的な説明ができなければ、信用できない(嘘を言っている)可能性が高い、ということです。

次は、「動かし難い事実との整合性」というものです。

「動かし難い事実」とは、当事者双方が争いなく認めている事実や、確かな証拠によって認められる事実などを言います。証言内容がその事実とつじつまの合わないものであれば、嘘を言っている可能性が高いということです。

いずれも、言われてみれば当たり前の話だと思われるかもしれませんが、人の話を聞く際に、これらを意識して取り入れてみると、騙されたり、言い負かされたり、言い逃れを許したりといったことが少なくなると思います。参考になさって下さい。