民法・不動産登記法改正(衆議院での審議内容1)


民法(物権法)・不動産登記法改正の国会審議の内容のうち、参考になりそうなものをご紹介していきたいと思います。

第1弾の今回は、今年3月19日に行われた衆議院法務委員会での参考人質疑について、概要をまとめました。議事録はこちらです。

第204回国会 法務委員会 第5号(令和3年3月19日(金曜日))

参考人 早稲田大学大学院法務研究科山野目章夫教授の発言要旨

この法案には大きく二つの問題意識がある。

⑴土地所有者の責務の明確化=所有者不明土地発生の抑制
昨年土地基本法が改正され、所有者の土地管理責務、登記、境界明確化の責務が盛り込まれる。
それを民事法制にも反映させる必要があった。
→ⅰ)相続登記義務化(相続の事実を知ってから三年以内に登記する義務規定、正当理由がない義務違反に10万円以下の過料)

もっとも、負担軽減策も必要。
→ⅱ)相続人申告登記&登記手続の簡略化

さらに、登記と戸籍や住民票との情報連携が必要
→ⅲ)登記官が住民基本台帳ネットワークシステムから所有権の登記名義人の死亡情報や住所の変更情報を取得する運用を想定する仕組み。

⑵適正な土地管理の実現=現にある所有者不明土地への対応
①遺産共有など共有の法律関係が全員一致ではなく多数決の考え方で進むようにとの要請への対応
→ⅰ)裁判所の関与の下、金銭を供託して不明共有者の持分を取得し又は売却する仕組み。
→ⅱ)遺産共有の場合も、相続開始から十年を経過した後は、同じ扱いをしてよい。

②相続財産の管理など土地に関する財産管理の制度を使いやすくとの要請への対応
→ⅰ)所有者不明土地管理制度や管理不全土地管理制度という制度
→ⅱ)複雑であった相続財産の管理のルールを整備

③古い担保権の登記が簡便に抹消される手続をという要請への対応
ⅰ)解散した法人の担保権に関する登記
ⅱ)存続期間が満了した地上権の登記などの形骸化した登記
→要件と手続を定め、その抹消を簡略に行う仕組みを設けた

④隣地、近隣の関係での悩みへの対応
→慎重な手順を定め、必要がある場合において、隣地に立ち入り、木の枝を切り、また、ガス管などを設けてもよいという規定

⑤空き地や空き家を解決するための不動産の処分を容易にする財政支援が欲しいとの要請への対応
→法務大臣による承認を経て、土地管理に要する十年分の費用を負担金として納付してもらい土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする制度

残された課題もある
⑴登録免許税の軽減、減免→令和四年度税制改正に向けた課題
⑵ランドバンクの考え方を推進していくための施策なども考えたい
⑶2025年には認知症高齢者が約700万人となり土地管理に難しい問題が生ずる→成年後見制度等の再検討

改めて考えますと、所有者不明土地問題は、それ自体の解決が自己目的ではありません。不動産登記制度も、制度のためにあるものではありません。この度の提案におきましても、配偶者から暴力を受けてきた方、あるいは虐待されるおそれのある児童などが不動産の登記名義人になる場合の登記情報の提供について、住所が秘匿されるよう特例も整備してございます。
現下の社会経済情勢の下、土地の上で暮らす人々に少しでも役立つ土地政策であらねばならないと願うばかりでございます。


自由民主党の深澤陽議員一の質問

相続登記を義務化して過料を科しても、過料を払えばその後処罰されないのであれば、そのまま相続登記しない人も出てくるのではないかという課題について、どう思うか。

山野目参考人の回答

たしかに、相続登記の義務化が国民に無用な負担を強いるものであれば、違反事例は防げないという懸念があった。とくに、相続対象不動産の調査責任を国民に負わせることになれば、過度な負担となるのではないかという点が心配だった。

しかし、その後の制度設計で、所有不動産記録証明制度をつくり、国民の側は少なくとも自分は相続人であるという申出をすればよいという仕組みになり、しかも、3年の起算点も、相続する不動産があることを「知ったときから」となった。さらに、登記名義人が死亡している事態の把握は、登記官が住民基本台帳ネットワークシステムから情報を取得する運用となった。


公明党の大口善徳議員の質問

今回、民法239条2項「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」の改正は見送られ、相続土地国庫帰属制度になったが、土地所有権の放棄は可能なのかという解釈問題についてお伺いしたい。

山野目参考人の回答

当初は土地の所有権の放棄に係る規定を置くという構想を持っていた。ところが、そうすると、土地だけでなく建物や動産についても放棄の可否などを検討して規定を置くという話になってくる。しかし、それらについては議論が熟していない。そこで、政策的要請に端的に答える法的構成として国への帰属とした。

確かに、民法の解釈として土地の所有権の放棄ができるかという論点が今後も残る。
負担金の納付を回避する結果となるような放棄は、従来の裁判例のように権利濫用としたり、近時の一部の学説が説くように公序良俗違反として捉えたり、いろいろ見方はあると思う。

むしろ、「所有物の処分は法令の制限内においてのみすることができる」と定める民法206条の趣旨の理解として、今般法律案が一つの重みを持ってくるという理解も生まれるかもしれない。実際の運用も、理論研究における課題も、いずれも今後が大切という側面がある。


日本維新の会・無所属の会、青山雅幸の質問

国庫に帰属するに当たって、十年分の土地管理費相当額の負担金というのは、経済的に困窮している人などに利用しにくい制度にならないか。例えば原野の負担金は20万円とされているが、原野を管理する必要があるのか。市街地の宅地が八十万円というのも、もう少し簡便化あるいは費用を安くできないか。

次に、相続登記の過料の制裁を科す点は、お金に困っている人が困らないか。
婚姻届、離婚届などは費用が基本的に全くかからない。登記となると、今回創設される相続人申告登記は簡便化されるが、本格的な登記は司法書士の先生にお願いするし、印紙もかかる。戸籍謄本をずっと遡っていくと結構な値段になってくる。経済的に困窮している方がやむを得ずできないでいるというような方にまでかけるのはどうか。

山野目参考人の回答

負担金の金額は、今出ているのはあくまでイメージであり、法案では、十年分の管理の費用を基準に政令で金額を定めることになっている。国会審議を踏まえて、政府が国民の負担が適切になるような政令措置を施してほしい。

強調しておきたいことして、国土審議会では、「粗放的管理」が一つのキーワードになっている。そういう管理の在り方も、一つ、これからの日本においてはあってよいんだというふうな見方、思想が定着してきた。政府としては、段階的に、土地の種類ごとに適切な金額を見定めて定めるという運用をしてほしい。

さはさりながら、経済的困窮者が土地の放棄をやむを得ず望む局面に、十分に法律案のたてつけのみで対応することができるかということ自体については、よく分からない側面がある。
土地政策と社会福祉との接点という問題については、まだ論点がよく整理されていないところがあり、今後の宿題だ。

相続登記の義務化に係る過料の制裁については、正当な理由がない限り過料を科さないという改正法案164条のたてつけで、あらかじめ法務省が通達等で定めている限られた事由に該当する場合に発動される、そういう運用が期待される。

「お金に困っている」ことが正当な理由になるかは、改めて考えてみないと分からない。
過料を科する事由を限定列挙して運用していくことを考えているので、様々な暮らし向きの困難がある人に対して乱暴に過料を支払えというお話にはならないのではないか、また、そういう運用に留意をしてくださいということを政府に対しても促していただきたい。


国民民主党・無所属クラブの高井議員の質問

法209条に、一定の目的のために必要な範囲内において隣地を使用することができるというのがあるが、但書には、住家についてはその居住者の許諾がなければ立ち入ることはできないとある。では、土地については、必要な範囲内であれば所有者の反対があっても隣地を使用することができるのか。我が国は自力救済が禁止されていが、この部分は自力救済ができるというふうにも考えられるんですけれども、先生のお考えはいかがでしょう。

山野目参考人の回答 

確かに、必要がある範囲で隣地に立ち入ることができるという法文だが、押し問答になったときにはそれはそこまでです。裁判を通してくださいというお話になります。住家に関するただし書は、裁判を通しても拒むことができますよ、もう絶対に入らないでくださいという趣旨です。


立憲民主党の稲富議員の質問

同じ所有者不明土地といっても、都市部とそうでないところでは対応が違うのではないか。
その点について、この法案、あるいはこの対応についてどのように考えればいいのか。

また、在留外国人は、2012年7月に外国人登録法が廃止され外国人住民票が創設されたが身分関係の記載がなく、身分関係の証明が困難である。これを放置したままで相続登記を義務化すると問題があるのではないか。今現在、在留外国人は300万人に達さんというところ、永住者は80万人という現状である。

山野目参考人の回答

この法文は一般的抽象的な定めなので、都市部と山村部、大都市圏と地方というような振り分けの観点は入っていない。施策の実効する上ではそういうことを意識する必要があり、運用に当たる裁判所の各庁が事案の特性を見ながら適切な管理人を選任するなど対応してくれると期待している。

また、外国にいて連絡が取れない方が登記名義人の場合、国内の連絡先を登記してもらうと提案している。外国人の住所は、日本の戸籍ないしは住民票の書類だけでは公的には容易に確認をすることができない場合もあり、外国政府が関与して作成した書類によって外国人の住所を確認しなければならないが、これについては、運用が合理的かどうかを、法制審議会の審議の過程で一旦点検をし、問題点を洗い出し、今後の運用に生かしていくということが現在法務省において検討されてきたし、今後も検討されていくだろうというふうに見通している。


日本共産党の藤野保史議員の質問

相続登記の義務化について。
いわゆる所有者不明土地の問題は、多数当事者の共有状態を解消するための合意形成の困難性にこそ、その原因がある。相続人全員が関与せずとも可能である法定相続分による所有権移転登記を推進することは、法定相続分による登記を行ったことによるあつれきの発生等により、登記手続に関与しなかった当事者との合意形成をますます困難にする。
こういう指摘がありまして、この点につきまして、御見解を伺いたい。

つぎに、民法の登記の対抗要件主義との関係で、民法は登記を第三者対抗要件と定めており、登記を備えるかどうかというのは当事者の意思に委ねられているのが原則である。今回、民法とは違う手続法である不動産登記法において相続による所有権の移転の登記に限って申請義務を課すとなりますと、民法の定める原則とのそごが生じるのではないか。

山野目参考人の回答 

遺産分割が適切に進められるために法律家の支援が必要であるという視点はもっともであり、法律家の支援を受けて国民が納得のいく遺産分割ができるよう、我が国社会の制度環境を整えていくために引き続き立法府に関心を抱いていただきたい。

民法上登記が対抗要件として定められている点は指摘のとおりたが、これからの日本の不動産制度は、民事の対抗要件としての側面だけでなく、もう少し公的な土地政策の側面からの大事な役割という点にもバランスよく光を当てて見ていってほしい。