司法修習生向け研修
8月25日(金)、司法修習生向けの民事弁護実務研修の講師をしてきました。司法修習生というのは、司法試験に合格した後、実務家になる前に研修中の方々です。私が今回担当した研修の内容は、「医療過誤(患者側)」。この研修の講師をするのは、昨年に引き続き2回目です。
研修時間は、12時30分~17時(=4時間半!)。しかも、研修会場は新潟市にある県弁護士会館なので、上越市からだと高速道路を使っても往復4時間はかかります。控えめに言って苦行、前向きに言うと修行、という感じですが、自分が修習生時代にしてもらったことの恩返しと自分に言い聞かせながら、会場に向かいました。
双方向で
冒頭の自己紹介で、医療過誤事件に関わることになった経緯など、マイストーリーをお話しました。
そして、「4時間半も一方的にお話するのは、お互いにしんどいと思うので、できるだけ双方向でやりとりしながら進めたいと思います。いろいろ問いかけをするので、なんでもいいのでリアクションしてください。」とお願いしました。修習生は、今週だけでもいろんな弁護士のいろんな研修を受けまくってきている状態だったこともあってか(12コマ、合計30時間)、「双方向で」という話をしたとき、みなさんほっとしたような表情を浮かべていました。
話しやすい空気を作る意味から、修習生のみなさんにも自己紹介をしてもらいました。「何でも自由に話してくれていいんですが、この項目は必ず触れてください」とお願いしました。
みなさんそれぞれに、裁判修習や弁護修習で医療過誤事件に触れた話をしてくれたり、「この研修で聞きたいこと」についてもかなり具体的な要望を出してくれました。出来れば医療過誤事件を担当したいと話す方も多く、期待に応えられる研修にしなければと、気合いが入りました。
追体験できるように
研修では、細かい点について詳しく説明するということよりも、医療事件のやりがいや醍醐味、魅力などを伝えることに重点を置いてお話しました。
また、経験がないとイメージすることが難しいので、私が過去に担当した事件を素材にして、法律相談の事前準備から裁判の終わりまで、手続き全体を追体験できるような構成にしました。
私自身がどのように検討したか、どのような点で迷ったか、訴状にどのように書いたのか、といったことを、原資料を示しながらお話しました。協力医に送った手紙、死亡診断書、訴状、尋問調書、鑑定書なども、個人情報をマスキングしたうえで、実際に使った現物を見てもらいました。
かなり頻繁に問いかけをしながら進めたのですが、みなさんとても積極的で、特に指名などしなくても自主的に発言をしてくれたので、とてもやりやすかったです。
患者側代理人に求められること
おわりに、「患者側代理人に求められること」として、「医療事故被害者の5つの願い(原状回復、真相究明、反省・謝罪、再発防止、適正な賠償)」をふまえて、それらにできる限り応えられるように心がけているということをお話しました。
そして再発防止を願う被害者の心情を理解してもらうために、薬害スモン事件の福岡地裁判決に引用された原告の歌を紹介しました。
被害に遭い自分のことすら自分でできなくなってしまった。そのように「こわれた」身体でも「役に立つ」ことがあるという。被害に遭った自分が訴えることによって、薬害の再発を防止することができる。自分のような被害に遭う人をこれ以上出して欲しくないし、こんな悲劇を二度と繰り返して欲しくないから、今日も街頭で訴える。
医療事故と薬害という違いはありますが、被害者がご自身の被害を乗り越えて、自分にできること、自分にしかできないことを見出し、薬害の再発防止のために尽力する。崇高な思いが込められた感動的な歌です。
質問の受け答えで号泣
研修の後、質問を受け付けたところ、いくつか質問が出されました。その中に「講義の冒頭で、弁護士になってすぐに薬害肝炎弁護団に入ったというお話がありましたが、どういう理由・きっかけがあって入団されたのですか?」というものがありました。
友人に誘われてガイダンスに行ったが内容が難しくてとても力にはなれそうもなかったので入るのはやめておこうと思ったこと、その後、被害者の方のお話を聞いたとき、加害企業や国に対する怒りや不満を述べるのではなく、「肝炎になって母親らしいことをして上げられなかった」「迷惑をかけてしまった家族に申し訳ない」と語るのを聞いて、自分も何かしたいという気持ちになったことなどをお話したのですが、話している途中で不意に当時の思いがこみ上げてきて、泣いてしまいました。それもただ涙を流すというレベルではなく、嗚咽で話ができなくなってしまうくらいの号泣です。
私自身もそんな状態になるとはまったく思っていなかったので戸惑ってしまいましたが、修習生のみなさんも驚いたのではないかと思います。ただ、みなさん真剣な表情で話を聞いてくれていました。直前に「医療事故被害者の5つの願い」の話で、被害者の思いを受け止め、被害者に寄りそうということをお話していたので、そのことと関連付けて聞いてくれていたのかも知れません。
私自身にとっても初心に立ち返る貴重な機会となりました。