今国会で、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正が予定されています。そのポイントを、連載方式でブログに書いていきたいと思います。
第1弾の今回は、「相隣関係」に関わる3つの改正点についてまとめました。
1 隣地使用権(民法209条)の見直し
(1)現行の規定とその問題点
民法第209条第1項は,「土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するために必要な範囲内で,他人の所有する隣地の使用を請求することができる。」と定めています。
しかし、同項に挙げられていない工事等でも隣地使用請求が可能なのか、工事等の際に隣地の使用をどの程度まで請求できるのかについては、必ずしも明らかではありませんでした。
そのため、「念のため」として、工事のために隣地を使用する必要がある場合、隣地の所有者を探した上で承諾を求めたり、隣地の所有者が所在不明の場合には裁判をしたりする必要が出てくるなど、時間や労力が必要とされ、これが土地利用の阻害要因になっていると指摘されていました。
(2)改正案の内容
そこで、改正案では、類型的に隣地を使用する必要性が高いと考えられる場合について、以下のように隣地使用権を認める規定をおいています。
- 土地の所有者は、以下の3つの場合に、これに必要な範囲で隣地の使用(立ち入りなど)ができる(注:隣地使用請求権から隣地使用権に権利の性質が変更となった。)。
①境界や境界線付近における障壁、建物その他工作物の築造・収去・修繕
②境界標の調査や境界に関する測量
③下記2の規律による枝の切除 - ただし、隣が住家の場合、住家への立ち入りには居住者の承諾が必要。
- また、隣地の使用は、隣地所有者及び隣地使用者にとって損害が最も少ない日時・場所・方法を選択する必要があり、かつ、事前にこれらを隣地所有者及び隣地使用者に通知する必要がある(ただし、事前の通知が困難な場合は事後に遅滞なく通知すればよい。)。
- 隣地所有者及び隣地使用者は、上記の隣地使用により損害を受けた場合は償金を請求できる。
(隣地の使用)
第209条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査または境界に関する測量
三 第233条3項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ない者を選ばなければならない。
3 第1項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第1項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
2 越境した枝の切除(民法233条)について
(1)現行の規定とその問題点
民法233条1項は、「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。」と規定しています。
従って、隣の家の竹木の枝が自宅の庭に越境してきた場合、竹木の所有者の承諾なく勝手に枝を切ることは認められていません(なお、同条2項により、根の場合は承諾なく切除することができます。)。
そのため、竹木の所有者が枝を切除しない場合には、竹木の所有者を探し出して、同人を被告として枝の切除請求訴訟を提起するなど、相当な時間と負担がかかっていました。
空き家や所有者不明土地が増える中、これでは隣地の管理を円滑に行うことができません。
(2)改正案の内容
そこで、次のとおり規律を改め、一定の場合に、越境された土地の所有者が、越境した枝を切除することができるようにしました。
- 土地の所有者は、隣の竹木の枝が境界線を超えてきた場合、その竹木の所有者に枝の切除を求めることができる。この請求を受けた場合、竹木が数人の共有物であっても、各共有者が単独で枝を切除することができる。
- また、土地の所有者は、次の①~③の場合には、自分で枝を切除することができる。
①竹木の所有者に枝を切除するよう催告したのに相当期間内に切除されなかった場合
②竹木の所有者が不明またはその所在が不明の場合
③急迫の事情がある場合
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 (略)
3 継続的給付を受けるための設備設置権及び設備使用権
(1)現行の規定の問題点
民法220条(排水のための低地の通水)及び221条(通水用工作物の使用)を除き、現行民法には、ライフライン設備の設置における他人の土地等の使用に関する規定が置かれていません。
そのため、「隣地を通らなければ水道管が引けないのに、隣地の所有者が水道管を引かせてくれない。」。このような場合にどう対応すべきかについて民法上は明確ではありませんでした。
(2)改正案の内容
そこで、この点について、次のような改正が提案されています。
- 他の土地を使わなければ水道管やガス管などのライフラインを引けない土地(いわゆる「導管袋地」)の所有者は、これに必要な範囲で、他の土地に設備を設置し、または他人の給排水設備等を使用することができるものとする。
- ただし、相手にとって損害が最も少ない場所・方法を選び、かつ、事前にその目的・場所・方法を相手に通知しなければいけない。
- また、相手に生じる損害分について償金を支払い、設備を使用する場合は応分のメンテナンス費用も支払う必要がある。
- なお、土地の分割や一部譲渡によって導管袋地が生じた場合には、他方の分割地等についてのみ上記の設備設置権・設備利用権が認められるものとする。
(継続的給付を受けるための設備の設置権等)
第213条の2 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガスまたは水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第1項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置または使用の場所及び方法は、他の土地または他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害がもっとも少ないものを選ばなければならない。
3 第1項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第1項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地または当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第209条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規定を準用する。
5 第1項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第209条4項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、1年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第1項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。第213条の3 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第5項の規定は、適用しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。