『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2021年2月3日付に掲載された第102回は、「科学的正当性に疑念抱かせる不再任方針の撤回を」です。県が、原発の安全管理に関する技術委員会のベテラン委員を再任しないとしている問題について書きました。紙面には載せていない「おまけ」部分もあわせてお読みいただけるとありがたいです。
科学的正当性に疑念抱かせる不再任方針の撤回を
技術委員の不再任
新潟県は、「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(技術委員会)の委員14人のうち7人について、本年3月末の任期をもって再任しない方針を表明している。
技術委員会は、「東電トラブル隠し」(東京電力が2002年の自主点検時に発見した損傷箇所を過少申告したり記録を改ざんしたりしていたこと)が発覚したのをうけて、県独自に柏崎刈羽原発の安全性をチェックするための組織として発足した。耐震工学、原子炉工学、地質学等の専門家で構成されている。
再任しないとされる7人のうち、新潟大学名誉教授の立石雅昭氏(地質学)と、元日本原子力研究開発機構研究主幹の鈴木元衛氏(核燃料工学)の2人が不再任に異を唱え、再任を求める要望書を県に提出した。
花角知事は、2人を再任しない理由について、①県の内規(運営要綱)で高齢者の任命を極力避けるとされていること、②現役世代からの最新の知見を議論に反映させる必要があること、等を挙げている。
本題の議論はこれから
立石委員は、前々回の再任時(4年前)すでに「高齢者」の基準となる70歳を超えていた。しかし、そのときにも、前回の再任時(2年前)にも、内規の話はまったく聞かされていないという。そうであるのになぜ今回唐突に内規を持ち出してきたのか。不自然さは否めない。
技術委員会の本来の任務は、専門的見地から、柏崎刈羽原発の安全性を高めるための課題を提起する点にある。2012年7月から昨年10月にかけて福島第1原発事故の原因検証を行ったのも、そこから原発の安全対策上の教訓を導きだすためである。技術委員会は、検証結果をふまえて、「重要配管の耐震性」「原発施設の液状化」など21項目の確認事項の抽出を行っており、各項目ごとに柏崎刈羽原発の安全性を確認する作業に着手した段階である。本題についての議論がはじまった矢先に、前段の検証作業を中心的に担ってきたベテラン委員を除外するのは合理的な選択とは言えまい。
余人をもって代え難い
再任を希望している二人の委員は、実績・能力・情熱のいずれの点においても余人をもって代え難い存在だ。
立石委員はこれまで、柏崎のみならず、能登(石川)、下北(青森)、川内(鹿児島)、御前崎(静岡)など原発立地地域を中心に、幾度も地質調査を行い、数多くの論文を執筆してきた。昨年秋には地球科学賞を受賞するなど、「現役」として調査・研究活動を続けている。先日開いた記者会見で立石委員は「原発を検証するうえで新しい知見を取り入れる努力をしてきており、高齢だからといって古い知見だけでものを言うことはあり得ない」と明確に述べている。
また、鈴木委員は、福島第一原発事故の検証において、津波到達前に電源喪失が起こっていた可能性が高いことを解明するうえで中心的役割を果たした。
県の内規には、その人以外に得がたい知識経験があるなど特別な事情がある場合は例外とする、との規定もあるという。再任を希望する2人の委員はまさにこの例外にあたるものと言えるだろう。
水面下で進む動き
昨年、経産省の資源エネルギー庁長官らが度々来県して、知事などと接触した。12月には、東京商工会議所の会頭が原発を視察し、再稼働への期待を述べている。東京電力は、昨年11月、2021年6月から営業運転に入れるとの計画を原子力規制委員会に提出。先月15日からは新CMを放映している。
こうした一連の動きを受けて、今回の不再任は再稼働に慎重な委員を排除しようとしたものではないか、との指摘もなされている。花角知事はこの点について記者会見で問われ、「レッテルを貼るようなことはやめていただきたい」と抗議した。しかし、そのレッテルが出てきた原因が、県の唐突かつ不可解な不再任表明にあることは明らかだ。
「3つの検証を踏まえて知事が判断し、県民に信を問う」。花角知事が一貫して掲げてきたこの方針は、民主的意思決定に専門的知見を取り入れるという点で、先進的かつ意欲的な挑戦である。意思決定に先立って県民に示される知見は、揺るぎのない科学的正当性をもったものでなければならない。その点に疑念を抱かせかねない今回の不再任方針は、速やかに改められるべきである。
おまけ
花角知事は、1月20日の記者会見で、「新しい知見を取り入れるために世代交代が必要だ」と言う一方で、「県には知見がないので推薦をお願いしている」とも言っています(にいがた経済新聞1月20日付)。知見がない県がどうして、現在の委員には新しい知見がないと判断できるというのか、まったく説明がつきません。
花角知事は、賢明な方なのでこの論理の破綻に気づいています。また、そうであるにも関わらず同じことを繰り返し強弁するほど厚顔無恥でもありません。このため、1月27日の記者会見では「一人一人を評価している訳ではない」と述べました(新潟日報1月28日)。つまり、「県には個々の委員の知見について評価する能力がない」ということを事実上認めた訳です。
そうだとすると、県は、年齢のみを理由に新しい知見がないと決めつけ、不再任を決めたということになります。これは「不当なレッテル貼り」以外の何物でもないでしょう。
実際問題として、柏崎地域の地質や地層について、立石委員以上に詳しい人物がいるとは思えません。県の粗雑な認定に基づく誤った方針決定によって不利益を被るのは、私たち県民です。今回の問題を見過ごすことは到底できません。
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