『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2018年5月23日付朝刊に掲載された第34回は、「テクノロジーの発展と司法のIT化」です。
テクノロジーの発展と司法のIT化
1 関弁連の憲法委員になりました
今年度から、関弁連(関東弁護士連合会)の憲法問題に関する連絡協議会の委員になりました。
関弁連というのは、東京高等裁判所の管轄区域にある13の弁護士会(東京、第一東京、第二東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬、静岡、山梨、長野及び新潟)で組織される団体です。主な役割は、各弁護士会相互の情報共有と親睦を図るとともに、国や地域の諸課題に取り組むことで、20余の委員会、協議会がそれぞれ活動を行うほか、年に一度、定期弁護士大会とこれに併せてシンポジウムを開催しています。
今年度は、9月28日に東京・恵比寿でシンポジウム「未来への記録-自治体の公文書管理の現場から」(仮題)を開催し、基調講演では福田康夫元内閣総理大臣から「日本の公文書管理について」のお話をいただく予定となっています。シンポジウムは一般の方も参加できますので、興味のある方は、ぜひ足を運んでみてください。
2 東京に行くと
仕事などで東京に行く際、必ず丸の内の書店に立ち寄って書籍を購入しています。日本のビジネスの中心地ということもあり、上越の書店とは異なる品揃えを眺めるだけでも、世界の流れを実感できて楽しいのです。
先日、上記関弁連の会議に出席するため東京に出張した際も立ち寄ったのですが、以前と比べ、AIやブロックチェーンなどテクノロジー関連の本が増えていたように思います。テクノロジーの飛躍的な発展で加速度的に変化する社会の中にあって、この先の未来はどうなるのかを予測・分析するといった類の本も多くみられました。数年前は、混沌とした世界情勢を背景に、社会や政治の機能不全を分析・解説する本がよく目につきましたが、そのころよりは明るい雰囲気が漂う書店でした。実は、私も、このところ、現在の政治や社会が抱える様々な問題(上記の公文書管理の問題も含め)のいくつかは、政治によって解決される前に、テクノロジーの発展によって解決される可能性が高そうだという、楽観的な気分が自分の中に芽生えていることを感じていました。何か具体的な根拠や原因があるわけでもないのですが、丸の内の書店のラインナップを眺めていると、それが社会の空気、ムードなのかもしれないなと感じました。
3 司法のIT化
そんな中、「書面の提出は郵送かFAXだけ。メールは不可。」という旧態依然の運用をしている裁判所にもIT化の流れがきています。
政府は、IT技術の進歩や、日本のビジネス環境、国際競争力の観点から、利用者目線に立ったIT化を進める必要があるとの声を受けて、昨年10月に有識者会議を設け、裁判手続のIT化について検討を始めました。今年3月には、訴状の提出などをインターネット上で行うことができるようにするなど、手続きのIT化を求める提言がとりまとめられ、2019年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて法務省等において速やかに検討・準備を進めることを呼びかけています。
ポイントは「3つのe」とされ、①訴状等の書類をオンラインで提出できるようにすること(e提出)、②書面や証拠をデータ化してオンラインでアクセスできるようにしたり、審理計画をネット上で確認できるようにしたりすること(e事件管理)、③テレビ会議やWEB会議で審理を進められるようにすること(e法廷)などです。
4 IT化の課題は
パソコンの前で裁判ができるというのはたしかに便利ですが、弁護士を頼まない人やパソコンが苦手な人たちにとっては、かえって不便になるかもしれないという問題はありそうです。また、IT化には当然セキュリティ(情報漏洩や改ざん)の問題が出てきます。導入後もしばらくは色々と問題が噴出するでしょうし、慣れるまでは弁護士にとってもかえって不便だろうなとは思います。
とはいえ、世界のIT化の流れは加速することはあっても止まることはないでしょう。何とかついていかなければと、丸の内の書店でもテクノロジー関連の本を買って帰ってきた私なのでした。