『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2018年4月11日付に掲載された第31回は、「私が選挙権を得る前に知っておきたかったこと」。主権者教育の特別授業をするうえで心がけていることや、どういう思いで取り組んでいるかといったことなどについて書きました。
私が選挙権を得る前に知っておきたかったこと
高校で特別授業
以前別の高校でも授業をしたことがあるのですが、その高校の先生が薦めてくださったそうです。授業の様子を書いた当事務所のブログを読んで、「生徒にわかりやすく有意義な教育実践をしていらっしゃると思ったのでお願いしたい」と嬉しいメールを送ってくださいました。
心がけていること
自分の高校時代を思い返してみると、外部の講師による特別授業というのはひたすら睡魔との闘いの場でした。著名な方が貴重なお話をして下さっているのだと頭では分かっていても、襲いかかってくる眠気は、理性だけで太刀打ちできるものではありませんでした。
そんなこともあり、授業を担当する際には、何よりもまず「眠くならない授業」を目指しています。100の内容を詰め込んで眠らせてしまうより、とにかく起きて聞いてもらい1でも2でも伝えられればその方がいい、という気持ちです。
体験談を織り交ぜて
授業では、選挙のことや、法律のこと、法律と憲法の関係などについて、クイズを交えながら解説していくというのが基本的な流れです。
もっとも、これだけでは、到底睡魔に勝つことはできません。そこで、私自身の体験談を適宜織り交ぜながらお話ししています。
今回は、私が弁護士を志したきっかけの一つである薬害エイズ事件について簡単に説明しつつ、「人の命よりもお金を儲けることが優先されたことを知ってびっくりした」こと、「自分がそういう社会とどう関わっていくのかということを考えたときに見て見ぬふりをするような生き方はしたくないと思った」こと、「社会の歪みによって被害を受けた人を支えたり救ったりするためにはいろいろな力を身につけないといけないと感じた」ことなどをお話しました。
無関係ではいられない
また、『未来の年表』(河合雅司著・講談社現代新書)に記載されている、少子高齢化の進展により予測される事態(例えば、2020年には女性の2人に1人が50歳以上になることなど)を紹介したり、日本の「借金額」をリアルタイムに表示する「借金時計」というウエブサイトを見てもらいながら、財政状況について解説したりしました。
その中で、「よく、政治や社会のことに関心を持とうと言われますが、関心があるかないかに関わらず、政治や社会の問題は否応なしにみなさんの前に立ちはだかってきます。無関心でいることはできても無関係でいることはできません。どうせ無関係でいられないのであれば、よく知ったうえでどう対応すべきかを考えた方がよいのではないかと私は思っています。」とお伝えしました。
対立を乗り越える力
最後に、「対話」と「討論」の違いについて説明したうえで、次の様なメッセージを伝えました。
「主権者に求められるもっとも大切な能力は、意見が異なる人との対立や分断を乗り越え、対話を通じて『よりよい答え』を一緒に見つけていく力、すなわち対話力だと思います。日本社会は、みんなで知恵を出し合わないと解決できない問題をいくつも抱えています。
みなさんには、専門性を身につけることとあわせて、対話力を養うことの大切さを認識していただきたいと思います。」
根本にある思い
「法則を知ることで自由になる」という哲学の言葉がありますが、今の社会のしくみ、状況、見通しなどを理解することで、「自分はこう生きていこう」「そのためにこういう力を身に付けよう」と自覚的に生き、学ぶことができます。
限られた時間のなかでは、社会の仕組みなどについて詳しく話すことはできませんが、「社会はいまどのような状況にあるのか」「自分はその中でどう生きていくべきか」ということを考えるきっかけを与えることができればと願っています。
今後も
これまでいろいろな形で縁がつながり、4つの高校で主権者教育の特別授業をさせていただきました。引き続き積極的に取り組んでいきたいと思っています。主権者教育をどうしようかと悩んでいる先生がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。
【上越中央法律事務所】
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