前回はバッチリ予習したのについていけなかったポン。
今回はありのままで臨むことにしたようです。
後方支援
アン これまでの展開からすると、今日は後方支援(表③、④)の話かな。
ポン あ~、おれも高校球児だったからね。目指してたよ、甲子園。
タン 言うと思ったよ。
ポン いやいや、本気だったんだよ。高校生活のすべてをそれにかけてたんだから。
タン
もうちょっと他のこともやっといた方がよかったと思うけどね。
甲子園じゃなくて、後方支援の話だよ。
ポン なんだ、甲子園じゃないのか。なんなの?コーホーシエンって
アン
戦闘を行う他国の軍隊をサポートするために、
戦闘地域ではない場所で、物資を輸送したりすることだよ。
武力行使と一体化しないように
タン 「後方支援」っていうのは、日本ならではの概念なんだよね?
アン
そうだね。国際的には「後方支援」に該当する用語はなくて、
兵站活動は、武力の行使にあたるとされているんだ。
日本には憲法9条があるから、
武力の行使にはあたらないと評価しうる活動を「後方支援」と呼んで、
それだけはできるようにしたんだ。
その場合でも、他国軍隊による武力行使と一体化してしまうと、
後方支援自体も武力行使にあたると評価されてしまうから、
一体化しないために、戦闘地域には行けないという縛りをかけたり、
活動の内容も限定して認められてきた。
新しくつくる恒久法
アン
日本ではこれまで、必要が生じるたびに、個別に法律をつくって、
目的や期限を定めたうえで、後方支援を行ってきたんだ。
タン テロ特措法(アフガニスタン戦争)とか、イラク特措法(イラク戦争)とかだね。
アン
そのとおり。
でも、今回はいつでも自衛隊を派遣できるようにするために、
新しく恒久的な法律(表④国際平和支援法)をつくろうとしているんだよ。
ポン 硬球はあたると痛いよね。ほんと。
タン
いい加減、野球から頭を切り換えて!
でも、恒久法を作ればすぐに対応できるからいいんじゃないの?
アン
必ずしもそうとは言い切れない。
法的な根拠や正当性、どういう目的で派遣するのか等の点について、
時間をかけて慎重に議論・検討しないと、違法な戦争に荷担することになったり、
意味や目的があいまいなままで大きなリスクを冒すことになりかねないという批判があるよ。
タン
イラク戦争なんかは、完全に先制攻撃だし、
口実になっていた大量破壊兵器もなかったから、国際法違反は明らかだもんね。
アン
イラク戦争のときに自衛隊が後方支援をすることになったのは、
当時の小泉総理がいち早くアメリカの選択に理解を示したことが大きかった訳だけど、
やっぱり議論が十分に尽くされなかったというのは間違いないよね。
周辺事態法の改正
タン
国際平和支援法をつくるのとは別に、
周辺事態法を改正して、地理的な限定をなくすっていう話もあるよね?
アン そうだね。法律の名称も変わって、重要影響事態安全確保法になるんだ(表③)。
タン 国際平和支援法(表④)と重要影響事態法(表③)はどういう関係になるの?
アン どちらの法律でも自衛隊がやる内容に変わりはないよ。
ポン じゃあ、2つもある意味はないんじゃないの?
2つの法律の要件の違い
アン そうとも言えるかな。ただ、2つの法律では要件が違っているんだ。
ポン どういうこと?
アン
国際平和支援法では、事前の国会承認と「関連する国連決議」が要求されているのに対して、
重要影響事態法では、国会承認は事後でもよく、国連決議が不要になっているんだ。
タン
やっぱり2つある意味はないような気がする。
要件が緩い重要影響事態法があると、
国際平和支援法が要件を厳しくしている意味がなくなっちゃわない?
アン
重要影響事態法は「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」の存在が
要件となっていて一応日本に対する影響を考慮することになっているのに対して、
国際平和支援法は「国際社会の平和と安全を脅かす事態」があればいいから、
日本に対する影響は考慮する必要がない。
この点では一応、重要影響事態法の方が要件が厳しくなっているんだ。
ポン イチロー?
タン 「一応」だよ「一応」。その保留はどういうこと?
アン
「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」といっても抽象的で
歯止めになるかというと疑問が大きいよ。
タン じゃあ、やっぱり国際平和支援法の方が要件は厳しいの?
アン
まあ、一応そういえるかな。
ただ、秘密保護法のことを考えると、
判断に必要な情報が公表されない可能性も十分にあるから、
国会承認にどれほどの意味があるのか疑問があるし、
「関連する」国連決議でいいんだとすると、イラク特措法に基づいて自衛隊を派遣するときに
10年以上前になされた湾岸戦争に関する国連決議が根拠とされたようなことが
繰り返されるのではないかと懸念されたりしているよ。
タン
そうするとやっぱり国際平和支援法の方が要件が厳しいから、
法律が2つある意味はない?
アン
厳しい要件をみたすときは国際平和支援法に基づいて派遣すれば
国民の理解を得られやすいし、
要件をみたさないときでも重要影響事態法に基づいて派遣できるということで、
使い勝手がいいと判断されたのかもしれないね。
戦闘地域での活動が可能に、弾薬の提供まで
タン これまでと違って、戦闘地域でも自衛隊が活動できるようになるんだよね。
アン
そうだね。
これまでは、非戦闘地域、つまり、「現に戦闘が行われておらず、
かつそこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われる可能性がない」地域
でないと活動できなかったんだけど、
法改正後は「現に戦闘が行われていない」地域であれば活動できることになるんだ。
ポン
活動中に戦闘行為が行われる可能性があっても活動できるってことか。
そんなの危ないんじゃ
アン
そうだね。しかも、戦闘現場になったとしても撤収する訳じゃなくて、
活動を休止するだけだし、
戦闘現場になっても捜索・救助活動なら継続できるとされているよ。
タン
それに、他国軍隊に対する支援の内容も大幅に変わって、
弾薬を提供したり、発進準備中の戦闘機への給油や整備もできるようになるんだ。
ポン え~!絶対危ないでしょ!
リスクが飛躍的に高まる
アン
もともと、戦闘部隊よりも戦闘遂行能力が劣る後方支援部隊の方が
攻撃対象になりやすいんだ。
現にアフガニスタン戦争でも、
兵站活動を担ったNATO軍に1000人以上の犠牲者がでているよ。
タン でもこれまでは自衛隊員に戦闘による犠牲者はでていないんじゃなかったっけ?
アン
自衛隊が後方支援を行う場合、武力行使はしないということをアピールして、
砂漠でもあえて目立つ迷彩服を着ていたんだよ。
タン そうなんだ!でも戦闘地域で弾薬を提供するようになったら絶対に狙われるよね。
アン 自衛隊員に犠牲者がでるのは確実だろうね。
タン 自衛隊は、戦闘行為の一部を担うようなものすごく危険なことをすることになるんだね。
アン 「後方支援」とか「協力支援」とかいう言葉からイメージされることとは全然違うね。
(続く)