憲法カフェの魅力と意義


新潟県弁護士会では、年1回、会員向けの「会誌」を発行しています。編集委員の先生から声をかけていただき、憲法カフェの紹介文を寄稿しました。これまでの取り組みを振り返り、魅力と意義を再確認する貴重な機会となりました。せっかくなので、こちらにも掲載します。

ChatGPTも知っている

「憲法カフェって何?」という方もいらっしゃるかと思い、「憲法カフェってどういうものですか?」とChatGPTに聞いてみたところ、以下のような回答がありました。

「憲法カフェは、憲法に関心を持つ人たちが集まって、憲法について学び、議論する場所のことを指します。憲法カフェは、カフェや図書館などの公共の場所で開催されることが多く、法律家や学者、一般の市民などが参加して、憲法に関する話題を自由に話し合います。

憲法カフェは、憲法についての知識を深めるだけでなく、民主主義の重要性や市民権の意義など、社会的なテーマについても考えることができる場として注目されています。」

これは憲法カフェの特徴を的確に捉えた、わかりやすい説明だと思います。ChatGPTってなかなか賢いんですね。

憲法カフェは、神奈川県弁護士会の太田啓子弁護士がはじめたもので、あすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)のメンバーを中心に、各地で取り組まれています。私自身は、2014年の夏頃からこの「憲法カフェ」をするようになり、これまでにだいたい100回くらい実施してきました。どのようにやっているのか、どうして続けているのかといったことを書いてみます。

一種のアウトリーチ

政治や社会の問題、憲法に関わる問題に興味や関心があっても、「憲法講演会」や「憲法学習会」に参加するのは、かなり勇気がいることだったりします。また、そもそも時間や場所が、参加できないor参加しづらい設定になっていることもしばしば。

せっかく興味や関心があるのに、そういう理由で参加する機会が失われてしまうのはもったいない!ということで、憲法カフェでは、参加の障害になっているものを出来るだけ取り除き、参加しやすさを追求しています。

こちらで時間や場所を設定してそこに「来てもらう」スタイルではなく、参加者にとって集まりやすい時間・場所を指定してもらい、こちらがそこに「出かけていく」スタイルにしているのも、そうした工夫の1つです。

私がこれまでにお邪魔した会場は、カフェ(喫茶店)、洋菓子屋さん、お蕎麦屋さん、幼稚園、中学校、大学(教室、学食)、お寺、教会、公民館などなど。「青空憲法カフェ」ということで、海岸沿いにあるカフェのテラス席にタープテントを張って実施したこともありました。

「子連れ歓迎!」

参加者は、学校の先生、市役所勤めの方、NPO職員の方、高齢者の方などなど老若男女様々です。国会議員や地方議員が参加してくださることもあります。

ただ、一番多いのは子育て世代のお母さん達かも知れません。特に小さいお子さんがいる場合、参加するために「子どもを誰かに預ける」という一手間が必要になってしまうケースが多く、それが参加するうえでの大きな障害となります。そういう方々にとっては、子連れOKにするだけで格段に参加しやすくなりますので、「子連れ歓迎!」「赤ちゃん連れ歓迎!」と積極的にアピールするようにしています。複数のお子さんを連れてくる方もいるので、大人よりも子どもの方が多い、みたいなこともあります。

託児スペースが作られていることもそうでないこともありますが、子どもがいた方が空気が自然と和らぐのでやりやすいです。小中学生のお子さんが参加される場合には、紙芝居を使うこともあります。以下は、とある主催者さんがSNSで書いてくれた感想です。雰囲気が伝わるでしょうか。

「今回の勉強会も子連れ参加が多く、田中弁護士の声はたびたび子どもたちの騒音にかき消されながらでした。それでも、さすが3人の子どものお父さん!田中弁護士は終始なごやかに時に私たちを笑わせながら楽しく教えてくださいました。

弁護士さんてちょっと遠い存在、なんて思っていましたが、そのイメージが変わりました。子どもがいるけどいいのかな?とか、難しい話をされるんじゃないかな?とか思っている人がいたら、それは大きな勘違いです。私たちと同じ目線で憲法の大切さを伝えてくれる田中弁護士たちの「憲法カフェ」の活動がどんどん広がるといいな~と思います。」

双方向のやりとりを大切に

こちらが一方的に話すスタイルだとお互いにあまり楽しくないので、できるだけ双方向でやりとりをしながら進めるようにしています。最初に「よくわからないことがあれば話の途中でも遠慮なく聞いてくださいね」と伝えてからスタート。そしてクイズをしたり、グループワークをしたりして、発言しやすい空気を作ります。

参加者は、基本的に主催者さんが直接誘った方なので、お互いに顔見知りであることがほとんど。参加者さん同士は気心が知れていて、発言したり質問したりしやすいというのも、憲法カフェ方式のメリットです。「こんなこと聞いちゃっていいのかなというような質問にも丁寧に答えてもらえてうれしかった」といった感想をいただけたときには、こちらもうれしくなります。

自然に憲法に触れられるように

憲法の全条文が書かれたクリアファイルを配ったうえで憲法に関わるクイズを出すと、みなさん一生懸命クリアファイルを見て条文を探してくれるので、憲法に触れられる貴重な機会になります。
クイズ以外の部分でも、頻繁に問いかけをしながらお話します。問いかけに子どもがリアクションしてくれることもあります。それを拾うと一気に場が和みます。例えば以下のような感じ。

私  「憲法の三原則って言えますか?」
Aさん「基本的人権の尊重?」
私  「お~、そうですね。すばらしい!ほかには?」
Bさん「国民主権・・・」
私  「はい、きました!あと1つはなんでしたっけ?」
子ども「グミが食べたい。」
私  「そうです!グミが食べたい!!・・・は、違いますね~笑」

テーマは主催者さんのオーダーで

憲法カフェのテーマは、主催者の方のオーダーで決まります。集団的自衛権、安保法制、共謀罪、憲法9条改正、憲法改正国民投票、感染症と人権、敵基地攻撃能力(反撃能力)等々、その時々で社会の関心が集まっているテーマであることが多いです。これらの他に、選挙と憲法、不登校と子どもの権利などのテーマで実施したこともあります。

難しいテーマを取り扱う場合でも、以下のように主催者の方がとっつきやすいタイトルをつけて広報してくださるので助かっています。

内容もオーダーに沿う形で

主催者の方には、どうしてそのテーマを聞きたいと思ったのか、どういうことを知りたいかといったことを詳しく教えていただき、できるだけ要望に正面から応えられるように準備します。同じテーマを取り上げる場合でも、興味や関心がまったく同じということはないので、毎回新たに準備をすることになります。

7年くらい前に、一度だけ二宮淳悟弁護士と一緒に憲法カフェをやったことがあります。そのときは、主催者さんと相談して、「安保法賛成弁護士があなたにチャレンジ!」というタイトルを採用。私たちが安保法賛成の立場からプレゼンして、参加者さんからその内容に突っ込みを入れてもらうスタイルで実施しました。

私は安保法制がなぜ必要なのかということをプレゼンしたのですが、準備のために普段は絶対読まないような本を読みこむこととなり、私自身も理解が深まりました。

理解を深めるためのアシスト役

私自身は憲法カフェをするとき、「〇〇に反対!」という人を増やしたいというようなことを考えている訳ではありません。それよりも、参加された方が対象となっている問題についての理解を深められたらよいなと願っています。そのため、自分の意見を伝えるという発想ではなく、問題の所在や意見の対立構造をわかりやすく伝えるということを心がけています。

いまはメディアでもネットでも情報が溢れかえっているので、興味があっていろいろ見ていくと頭の中が混乱して、却ってよくわからなくなってしまうことがあります。「感覚的にはこうだと思うけれど、それと反対の意見の人もいて、その人の投稿を読むと、なるほどそうかもしれないと思ったりする。」という方に、情報を整理してお伝えする。そもそもどうして問題になっているのか、意見が対立しているのはなぜなのかといったことをご理解いただければ、また自分の頭で考えられるようになります。そして自分の頭で考えたことであれば、自信を持って自分の意見を発信したり、行動に移したりすることができます。

以下のような感想をいただけたときには、自分なりの目標は達せられたかなと感じます。

「憲法のお話をこんなにわかりやすく学べるとはびっくりです!気づきばかりで、思ったこと、感じたことがありすぎてとてもまとめられません!!今後も思考停止になることなく、答えの出ないことを考え続けたいし、少しずつ子ども達にも伝えていきたいと思いました。」

「弁護士さんのお話を聞くのは初めてで緊張していたのですが、おんなじ目線ですごく分かりやすくお話してくれて、憲法を身近に感じることができました。現状をそのまま受け入れるのではなく、自分で深く考えることを続けていこうと思いました。」

報告ブログの2つの役割

終わった後は、報告のブログを書きます。どこで何を話したかという形式的な報告だけではなくて、準備の過程で考えたことや、当日参加者の方とやりとりして感じたことなどをなるべく書き留めるようにしています。時間が経つと忘れてしまうので、後で読み返すと自分がその時考えていたことが参考になることもあります。

主催者さんや参加者さんとはSNSでつながることも多いです。参加された方から、「憲法カフェに参加してから、それまではチンプンカンプンだったニュースがよくわかるようになりました!」といったメッセージをいただくこともあります。また、報告ブログをSNSでシェアすると、「そのテーマのも聞いてみたい」「またやりたい」ということで再度の依頼につながることもありますし、そうでなくてもお互いにとって負担がない形で、緩やかなつながりが維持されることとなります。

憲法カフェから派生した取り組み

憲法カフェに参加された方から、「自分にも何かできることはないでしょうか」と相談されたり、「〇〇をやろうと思っているんですけど協力してもらえませんか」と誘っていただいたりすることもあります。

①市議会への請願

集団的自衛権の行使を容認する閣議決定がなされたときに、その撤回を求める意見書を決議して欲しいという請願を地元の市議会に出したのも、そうしたアクションの1つです。会を立ち上げて、市民からメッセージカードを集めたり、赤ちゃん連れで市議さんに要請に行ったりしたことが、地元のメディアで繰り返し取り上げられました。

請願は、総務常任委員会では可決されたものの、本会議では否決されてしまいました。それでも、市民がこのような問題に声をあげて主体的に行動し、それをメディアで肯定的に取り上げてもらえたことには、大きな意味があったと思います。

②選挙とくとくキャンペーン

また、選挙の投票率アップを狙った「選挙とくとくキャンペーン」も、憲法カフェの参加者さんが中心を担った取り組みでした。協力店舗に投票証明書を持っていくと、替え玉無料などの特典が受けられる「選挙割」の一種です。

協力してくれるお店を増やすために、憲法カフェに参加してくれた大学生と一緒に商店街回りをした際には、地元のメディアがこぞって取材に来てくれて、総勢20人くらいで商店街を巡ることとなりました。

選挙後に、お礼をかねて、子どもと一緒に「とくとく巡り」をしたのですが、どのお店の方も歓迎して下さり、「初めて来てくださるお客さんもいて楽しい取り組みですね。またぜひやってください。」と声をかけてくださいました。子ども達もいろいろなおまけがもらえてうれしそうでした。

民主主義を根付かせるために

東京大学社会科学研究所の宇野重規教授は、著書『民主主義とは何か』の中で、民主主義とは「参加と責任のシステム」であると述べています。同著では、社会の問題解決に当事者意識を持って「参加」すること、及びすべての人が可能な範囲で公共の任務に携わり「責任」を分かち持つことの重要性が強調されています。

いま、日本社会は様々な問題を抱えています。私たちは間違いなくその一員であり、一因でもある訳ですが、得も言われぬよそよそしさ、他人事感のようなものが社会全体を覆っているように感じられます。本当の意味で社会に「参加」せず、「責任」を自覚していない人が増えているのかも知れません。

そんななかで、社会問題に興味や関心を持った方が、その問題意識を入り口にして探究を深め、当事者意識を育てて、社会問題の解決に積極的に関与し、責任を果たしていく。憲法カフェを通じてその一連の過程をアシストできたら、これ以上の喜びはありません。そんな大それた願望を胸に秘めつつ、これからも自分なりの取り組みを続けていきたいと思います。