改正所有者不明土地法説明会(士業団体向け)に参加して


先日、所有者不明土地法の改正に関する士業団体向けの説明会に参加しました。備忘のために、その概要をまとめてみました。

1 所有者不明土地法の改正概要について

国土交通省不動産・建設経済局土地政策課調整官による改正概要の説明では、まず、令和4年10月1日に改正法が施行された「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(所有者不明土地法)について、改正の背景と問題の所在、所有者不明土地対策の経緯、改正の概要、改正に伴い公表された勧告・命令・代執行等に関するガイドラインの概要、所有者不明土地対策計画の作成の手引きの概要、所有者不明土地利用円滑化等推進法人指定の手引きの概要などが説明された。

改正の概要については、4つの柱があるとして、①対象となる所有者不明土地に朽廃建築物がある土地も加わり、地域増進福利事業の実施のための使用権の上限が最大20年に伸びたこと、②勧告・命令・代執行等ができるようになり、改正民法による新しい財産管理制度について国・地方公共団体に利害関係の有無に関わらず請求権が認められこと、③所有者探索の範囲が合理化・明確化するとともに固定資産税課税情報等の目的外利用が可能となったこと、④市町村による所有者不明土地対策計画の策定や同協議会の設置が可能となり、かつ所有者不明土地利用円滑化等推進法人の指定制度(いわゆるランドバンク)が設けられたことなどが紹介された。

ここでは、代執行等の実施はガイドラインをもとに必要に応じて弁護士等に相談しながら行うことが想定されていること、対策計画の作成や推進法人の指定については手引きが用意されていること、推進法人は株式会社であっても指定可能であることなどがポイントとして指摘された。

2 支援措置等について

国土交通省不動産・建設経済局土地政策課企画専門官から、所有者不明土地・低未利用土地対策の支援措置として、所有者不明土地等対策事業費補助金制度が紹介され、制度の概要、この制度を組み込んだ対策の流れと支援内容、補助金で実際に行えること、各事業のイメージなどが説明された。

補助制度として、市町村が行政代執行や財産管理制度などの法務手続を利用する際の弁護士への相談費用や裁判所への予納金や、市町村が財産管理制度を利用して土地を取得した後の朽廃した空き家の除去費用など、弁護士の関与が必要な場面で活用可能な補助制度も紹介された。

また、この補助制度は、後に所有者が判明した場合でも引き続き利用が可能であること、法人だけでなく個人の利用も可能な場合があること、実際の利活用の前段階で利活用方法を検討する事業などでも補助対象になり得ることなどが説明され、活用の円滑化に向けて支援措置が整備されたことが示された。

3 所有者不明土地の利用の円滑化のための制度について

国土交通省不動産・建設経済局土地政策課企画係長による所有者不明土地の利用の円滑化のための制度についての説明では、地域福祉増進事業及び土地収用法の特例、所有者探索の範囲の合理化・明確化について、より詳細な説明が行われた。

地域福祉増進事業は、地域住民その他の者の共同の福祉又は利便の増進を図るために行われる事業を目的として、都知事の裁定という簡易な手続で、補償金を供託した上で、所有者不明土地に利用権(最大20年で所有者からの異議がなければ延長も可能)を設定できる制度である。法定される対象事業はかなり幅広く、「購買施設」も含まれ、直売所、衣料品小売店、コンビニエンスストア、食品スーパーマーケット、総合スーパーマーケット、家電販売店、ドラッグストアなども対象である。

また、利用希望者の懸念材料とされていた補償金については、補償金額の算定にあたって近傍類地の賃料を参照した(あるいは土地価格の4%程度の)地代相当額から本来所有者が負担すべきだった維持管理費用相当額を控除することができるようになり、一括払いと年払いが選択できる上、朽廃した建物が存する所有者不明土地の場合には建物の補償額は0円とすることが可能(その上で除却も可能)とされるなど、利用促進のために見直しが行われたことが紹介された。

4 士業等の専門家による取組について

国土交通省不動産・建設経済局土地政策課土地調整官から、士業等の専門家による取組みとして、国土交通省モデル調査採択団体の事例紹介が行われ、「NPO法人つるおかランド・バンク」、「愛知県土地家屋調査士会」、新潟県田上町の「一般社団法人みどり福祉会」、「NPO法人ホームスィートホーム」、「株式会社テダソチマ」、「空き助ながた」などが紹介された。

これらのうち、「NPO法人ホームスィートホーム」は、千葉県船橋市で弁護士・司法書士・行政書士・税理士などの専門職が空き家問題解決のために立ち上げたワンストップサービスで、自治体とも連携し、朽廃した空き家等の所有者を探索し、利用促進の提案をして課題解決につなげるノウハウを体系化し、全国に展開する取組を実施しているとのことであり、当弁護士会でも参考になる取り組み事例と思われる。

5 民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要について     

法務省民事局参事官室の担当官から、所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化の両面から総合的に見直しが行われた民法等の改正の概要及び新設された相続土地国庫帰属法について説明が行われた。

発生予防の観点から、まず、所有者不明土地発生の原因と指摘されてきた不動産登記制度の見直しとして①相続登記の義務化、②住所等の変更登記の申請義務化が導入された(①については令和6年4月1日施行。)。次に、土地を手放すための制度として、相続土地国庫帰属制度が導入された(令和5年4月27日施行)。

利用の円滑化の観点からは、土地建物の利用に関する民法の見直しが行われ、①財産管理制度の見直し、②共有制度の見直し、③相隣関係規定の見直し、④相続制度の見直しなどが行われた(令和5年4月1日施行)。

6 振り返って

所有者不明土地法の改正により、朽廃した空き家が残された相続放棄地においても、地域福利増進事業が活用できる場面があることが示された。相続や空き家問題の相談を受ける機会の多い弁護士には、制度の選択や申請手続の支援などの役割が期待されることになろう。そのためには、利用希望者の有無や、希望者が所有権の取得を希望しているのか、利用権の設定を希望しているのかに応じて、財産管理制度や地域福利増進事業などの適切な使い分けができるように制度内容を熟知しておく必要がある。

また、市町村が財産管理制度等の申立てをする際の弁護士への相談費用や裁判所への予納金の補助制度が設けられたことから、市町村申立てが増加する可能性がある。市町村申立て事案では、予納金が低額に抑えられる傾向があり、管理人による管理費用や精算費用が不足する事態が懸念されることから、市町村・家庭裁判所との連携を強化し、申立ての際の提出資料や引継ぎ事項等を整備して、管理人の対応に支障を来さないようにする必要がある。