つれづれ語り(選挙のときにすべきこと)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年10月13日付に掲載された第120回は、「選挙のときにすべきこと」です。先日実施したトークイベントを準備する過程で考えたことや、今後の選挙の在り方について語っています。

選挙のときにすべきこと

公約を読んで感じること

選挙で誰に自分の票を投じるか、その決め方は人それぞれかと思いますが、よく言われるのが「公約を読んで判断する」という方法です。しかし、実際に候補者が掲げている公約を読んでも、「あまりピンとこない」という経験をしたことはないでしょうか。

その理由はおそらく、公約には「(当選後に)何をするか」ということしか書かれていないためではないかと思います。公約に書かれているのは、現状をよりよく変えていくための方策です。つまり「いいことしか書いていない」ため、よほど具体的な問題意識を持っていたりしない限り、「それでいいんじゃないの?」という以上の感想は生まれにくいのだと思うのです。

WHYとHOWが必要

公約に書かれていることについて理解を深めるためには、何らかのとっかかり(問題意識)が必要となります。

例えば、「なぜやる必要があるのか」という視点から考えてみるのも1つの方法でしょう。この視点から考えるうえでは、「現状はどうなっているのか」、「対策をとらないと今後どうなると予想されているのか」といったことを調べる必要があります。さらに、候補者が「現状をどのように評価しているのか」「現状のようになった要因や背景をどのように捉えているのか」といったことに考えを巡らせていくと、公約で掲げられている政策が持つ意味をより深く捉えられるようになります。

また、「どのようにやるのか」という視点も有用です。これは例えば、政策を実行するための体制や仕組みとしてどのようなものを想定しているのかということや、必要な資金をどのように調達するのかといったことです。これらの点を検討していくと、現実的に実行可能な政策なのかどうかが見えてきます。

さらには、「よりよい方法はないのか」という視点からの検討も重要です。より負担が小さくより効果的な施策はないか、成果を上げている他の自治体の実践例を調べることで思わぬ発見があったりします。

「候補者任せ」の限界

こうしたことを個人でやるのは大変なので、「何をやるか」だけではなく「なぜやる必要があるのか」「どのようにやるのか」といった点についても公約に書いてもらえたらよいのではないかとも思えます。

候補者も、公約を作るにあたり、現状を分析し問題の背後に潜む原因を把握したうえで解決策を検討しているはずです。しかし多くの場合、表に出てくるのはその結論部分だけです。

これは、選挙を勝ち抜くためには、多くの人がやって欲しいと望んでいることをできるだけ多く公約に盛り込み、それをアピールするのが効果的と考えられているからなのではないかと思います。候補者は何よりも「選挙に勝つ」ことを目的に活動している訳ですので、その目的にそぐうかどうかわからない情報発信を求めることは、現実的ではないのかも知れません。

トークイベント

それでも、自分が住んでいる地域がいまどんな問題や課題を抱えていて、どうしたらそれを解決できるのかということは当然知っておきたいですし、市長選挙はそうしたことを学んだり、考えたり、話し合ったりする絶好のチャンスです。せっかくの機会を逃すのはもったいないということで、先日『どうする?上越市~候補者のいない政策トークイベント~』を開催しました。

篤子弁護士と分担して、『子育て支援・人口減少』と『空き家・まちづくり』という2つのテーマについて、上越市の現状や成果を上げている他の自治体の実践例を報告し、今後どのような対応をしていったらよいかについてトークしました。アーカイブ録画をYouTube(Part1Part2)と当事務所のブログ(Part1Part2)にアップしていますので、よろしければご覧ください。

初めての試みということもあり至らない点も多々あったかと思いますが、実際にやってみて、候補者でない者が地域の問題について分析を加え、解決策を検討・提案する手法は、問題に対する理解を深めるうえで非常に有意義であると感じました。特に地方選挙では、今後このような取り組みがスタンダードになっていくのではないかという確信めいた予感を抱いています。主体が弁護士である必然性はなく、報道機関や地方議会議員など、より適任な方がいらっしゃるようにも思われます。民主主義の内実を高めるための新たな実践として、様々な形で取り組みが広がっていくことを期待したいと思います。


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