オンラインで
8月29日(日)、新潟県弁護士会の主催で、打越さく良さんの講演会が開催されました。オンラインで開催したこともあり、全国各地から多くの方が視聴・参加してくださいました。
講演のタイトルは、「婚姻と憲法~選択的夫婦別姓・LGBTQを巡って~」です。選択的夫婦別姓や同性婚など、裁判でも取り上げられている現行の婚姻制度の問題点について、様々な角度から検討する充実した内容の講演でした。
講演の概要は以下に記載しますが、個人的に印象に残ったのは、打越さんの確固たる信念に裏打ちされた行動力です。司法修習生のときの取り組みを皮切りに、弁護士になって以降もロビー活動(立法府への働きかけ)→第一次選択的夫婦別姓訴訟(司法府に対する問題提起)→立候補・国会議員就任(立法府への参画)と、次々に活躍の場を広げていらっしゃることに、感嘆しました。
選択的夫婦別姓について
どうして選択的夫婦別姓を求めるようになったのか
講演の冒頭で、打越さん自身がどうして選択的夫婦別姓の活動に関わるようになったのか、マイストーリーが語られました。
司法修習生のときに、検察任官に女性枠があることを知り、同期の修習生で会を立ち上げて、法務省に改善を申し入れたところ、日弁連も取り上げ、報道もされたことで、運用が改善されたこと。
当初は事実婚を選択したものの、子どもの出産を控え、婚外子にしないために、葛藤を抱えつつ法律婚することにし、夫の姓を選択したこと。弁護士として通称使用していたら、「ほんとの名前は打越じゃないんですね。」と言われたり、成年後見人として口座を開設するために銀行に行き女性差別撤廃条約や憲法の条文について説明してもクレーマー扱いされるなど、「屈辱的な経験」をしたこと等々。
ご自身がそういう経験をされたからこそ、第一次選択的夫婦別姓訴訟原告団長の塚本恊子さんの「自分の名前で逝きたい」という願いをかなえてあげられなかったことについて、「弁護士としてその十字架を背負い続けていかなければならないと思っている」という言葉がとても重く響きました。
夫婦同氏制の何が問題か
民法の規定上は「夫又は妻の氏を称する」とされていて、形式的には平等のように見える。しかし、実態をみると、婚姻の際に夫の氏を選ぶ夫婦の割合は、未だに96%にものぼる。そのような状況では、「妻の氏を称する」という選択肢を提示することすらためらわれてしまうのが現実。
現在の婚姻制度の問題は、国が特定のカップルのみを婚姻として承認し、それ以外のカップルを排除している点にある。別姓でいたいカップルを婚姻として認めない、同性のカップルを婚姻として承認しないということ。
選択的夫婦別姓を認めないのであれば、なぜ認めないのかを説明しなければならないはず。
他の国では前世紀に解決済み
質問主意書や国会質問に対する答弁では、「法律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国は我が国のほかには承知していない」とされている。
諸外国では、20世紀のうちに認めているが、日本だけが21世紀に宿題を持ち越してしまっている状態。
どうして日本だけ?
どうして日本だけ同姓を義務付けているかといえば、「家制度」の名残りと言わざるを得ない。「家制度」のもとでは、戸主が家族を統率し、妻は「婚姻に因りて」夫の家に入り、戸主及び家族は其の家の氏を称すとされていた。
戦後、日本国憲法がつくられ、「個人の尊厳」に反する「家制度」は廃止されたが、夫婦同氏制は残された。これは、憲法の根本原理からの要請を無視するもの。
二度にわたる最高裁の判断
2015年になされた第一次訴訟の最高裁判決では、婚姻の際に「氏を強制されない自由」が人格権の一内容を構成することを認めたものの、氏は家族という集団の呼称であるとして、結局は現行制度を優先させる判断をした。
今年6月に出された第二次訴訟の最高裁決定では、どのような制度がいいかという問題と、制度が憲法違反かどうかという問題は次元を異にするとして、どのような制度がいいかの議論は国会の役割だとした。
反対する理由は?
選択的夫婦別姓に反対する人々の思いは「この国のかたち」を守りたいという点にある。そこでいう「この国の形」とはどういうものかといえば、縦社会、男尊女卑、固定的性別役割分業等々、憲法がとっくに否定したもの。
亀井静香元金融担当大臣は、選択的夫婦別姓の実現を願う夫婦からのインタビューに対し、「一人ひとりのわがままに合わせていたら国家は困っちゃう」「夫婦別姓だと国家としても不便」「表札が別だと周りもどう呼べばいいのか困る。」などと答えている。
民法改正案を答申した法制審議会の幹事が、自民党議員に説明して回った際に言われた反対の理由は「家族の絆を弱める」「通称使用を認めれば足りる」等というもの。中には、夫婦同姓は醇風美俗であって侵すべからざる原則である。それは憲法に先立つ原則だという意見すらあったという。
「通称使用」は解決策ではなく、世論は容認・賛成が多数
「通称使用」「旧姓使用」はすべての場面で認められている訳ではない。旧姓使用を促進しても解決にならないが、そのために膨大な費用を支出している実情がある。
また、以前は、世論の支持や理解が得られていないことが、反対の口実にされていた。しかし最近では、各種世論調査や、男女共同参画基本計画に対するパブコメの内容等を見ると、圧倒的多数は賛成。
同性婚について
札幌地裁判決
同性婚を認めない現行法は、憲法14条1項に反すると判断。
婚姻制度は、「子を産み育てること」だけでなく、「夫婦の共同生活の法的保護」が主たる目的。婚姻によって生じる効果は複合的なもので、それを享受する法的利益は同性愛者であっても異性愛者であっても等しく享有しうるものとした。
パートナーシップ、ファミリーシップ
パートナーシップ制度を採用する自治体は着実に増えている。現在では110以上にのぼり、人口の5割以上をカバーする地域に広がっている。
カップルとともに暮らす未成年の子どもについても家族として届け出ることができる、ファミリーシップ制度も広がってきている。
国会では理解増進法案すら
ところが国会では、「性的指向及び性自認の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」について、自民党内で異論が噴出。法案のなかの、「性的指向及び性自認を理由とする差別は許されないものであるとの認識の下」という規定について、「行き過ぎた差別禁止運動につながる」「差別の範囲が明確でなく、訴訟が増える」などの反対意見が出されたという。
結局意見集約できず、法案の国会提出自体が見送られることとなってしまった。
諸外国では
同性カップルの権利を保障する制度を持つ国は、世界の約20%にのぼる。
同性カップルの法的保護
同性カップルが法的保護を受けるために利用しうる現状の制度としては、養子縁組、内縁、登録パートナーシップくらい。しかし、実態と異なっていたり、十分な保護が受けられなかったりする。端的に同性婚を認めるべきではないか。
おかしいと声を上げることの大切さ
同性愛者の宿泊利用を拒否した東京都教育委員会の措置を裁量権逸脱とした「東京都青年の家事件」判決。訴訟が提起された当初は、同性愛者の人権について、憲法の基本書にもほとんど記載されていなかったが、声をあげることで制度や運用を変えさせることができるということを示している。
もちろん、当事者が勇気を振り絞って裁判をたたかわなければ変わらない現状をよしとすることはできない。上げにくい声をしっかり受け止められる国会になることが望ましい。
世論
今年3月に朝日新聞が行った世論調査では、同性婚を「法律で認めるべき」が65%、「認めるべきではない」が22%だった。2015年の調査と比較しても賛成がかなり増えている。
選択的夫婦別姓・同性婚が問うもの
憲法や条約よりも、日本の醇風美俗の方が上位の社会でよいのか。「民法出でて、忠孝滅ぶ」とした民法典論争をいまだに続けるのか。国が「こうあるべし」という家族像を押し付け、それ以外の家族像を排除する制度でよいのか。
この問題は、多様な個人を尊重する社会への試金石というべきもの。
ディスカッション
講演の後、小淵真理子弁護士と二宮淳悟弁護士も加わって、ディスカッション形式で、参加者の方々から出される質問に答えました。
事前にお寄せいただいていた質問だけではなく、当日出された質問も多く、みなさんの関心の高さを感じました。