田中さん家の夜のお話(対話について)


田中家のリビング。
子どもたちの寝かしつけを終え,それぞれスマホでSNSやメールチェックをする二人。

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淳哉

おっ,「安保法制を廃止するための方法」の記事,いいね!が1000件越えたよ。

篤子

お~,ほんとだ。すごいね。
みんな,どんなことを考えてシェアしてくれるんだろうね。

淳哉

シェア先のコメント欄に,
「こういう角度の情報が流通するって,すごいね」っていうコメントがあったよ。
きっと,こういう情報ってあまりないんだろうね。

篤子  こういう情報って?

淳哉

安保法制について,「対話をしましょう」とか「対話が大事だ」ということは
言われていても、じゃあ,具体的にどうやって対話するのか,
っていう実践的な情報は意外と無いんじゃないかな。

篤子

(対話の対極にあるものとして)「分断」っていう言葉は,
最近少しずつ目にするようになったよね。
ほら,ノーベル平和賞も,政党間の分断を解消して
対話を促すような役割を果たした団体が受賞したわけだし。

淳哉

やっぱり対話が民主主義の基本なんだよね。
それを抜きにして社会を良くする必殺技のようなものは無いんだと思うよ。

篤子

日本はまだまだ本当の意味での民主主義には、
たどり着いていないのかもしれないね。

淳哉

そうだね。
安易な多数決っていうのは,民主主義とはかけ離れたものなんだよね。

こないだのブログに書けばよかったなと思っているのが
「対話によって自分の結論が変わってもいいじゃん」ってこと。

例えば,自分の意見がAで,相手の意見がBのとき。
対話の結果,相手の意見がBからAに変わらなくてもいい。
BからB’とかB+に変われば,それだけで対話をした意味はあるでしょ。
同時に,自分の方も,AからA’やA+に変化する,
ブラッシュアップしていくことができるなら,すごく意味のある対話だと思う。

相互理解というのはそういう面も含むものであって,
話し合うことでお互いの認識が発展したり変化したりするというのが
対話の醍醐味だと思うんだよね。
別に,相手がAに変わらなかったからといって意味がないわけではなく,
相手が変わらなかったとしても自分が変わればそこに価値があるんだよね。

篤子

なるほどね~。たしかに,相手の結論自体が変わらなくても,
こちらの懸念を払拭できる形に進化してくれれば,それは意味があるよね。
安保の問題でもね。

淳哉  うん。螺旋階段を上っていくイメージっていうのかな。

篤子  お互い一歩一歩上に進んで行くっていう?

淳哉

極端な話,対話して一度は「賛成」の立場に変わってもいいと思うんだ。
また話して(螺旋階段のように)「反対」の立場に戻ってくるかもしれない。
全体として上に上がっていくことの方が大事

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篤子

裁判所の合議で,「合議は乗り降り自由」っていう言葉があるよね。
(※篤子弁護士は元裁判官。「合議」とは,
合議体(3人の裁判官でする裁判)で結論を出すためにする話し合いのこと。)。

裁判官は,自分が最初に出した結論にこだわることなく,
相手の意見をよく聞いて,それがもっともだと思えば,
結論を変えることをためらってはいけないという意味で使われる言葉だけど,
ちょっと似てるかもしれないね。

私は,この言葉のおかげで,一度出した結論でも,
「それを変える必要があるかもしれない」ということを常に念頭において,
他の裁判官と議論することができたんだよね。
あっちかな,こっちかなと色々悩んで,最終的に出した答えだから,
自信を持って判決を出すことができたしね。

淳哉

裁判官にとっては、「最良の解」を出すことが使命で,
相手の裁判官を打ち負かすことが目的で合議するわけではないからだろうね。
でも,それは民主主義における対話も同じことが言えるよね。
社会にとっての「最良の解」を出すことが目的で,議論して勝つことが目的ではないからね。

民主主義における対話はディベートとは違うよね。
議論して相手を打ち負かすテクニックではなく,
議論を通じてお互いの考えを深めるための対話術を身につけなくちゃいけないよね。

篤子

そうだね。そう考えると,対話に対する苦手意識もなくなる気がするね。
別に,相手の意見と自分の意見が違っていても,「気まずくなるかも」とか
「知識が乏しいから言い負かされちゃって悔しい思いをするかも・・・」とか,
考える必要はないもんね。

大切なのは,むしろ,その後もその人と話し合えるような関係を作ることだね。
そのときは何も言い返せなくても,悔しいと思う必要はなくて,
考えるチャンスをもらえたなと思えるよね。

淳哉  「勉強の機会ができたな」とかね。

篤子  「ありがとう。また話そうね」って会話を終わらせられる関係が大事だね。

淳哉

(相手から聞いたことについて)「おもしろいね。」
「それは全然考えたことなかったです。」ってね。
それで,「詳しい弁護士さんがいるから,その話を聞きに行こうよ」って,
憲法カフェに誘ったりしたらいいじゃん(笑)。

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篤子

(安保について)自分が知ってることを相手に伝えよう,
教えようと思うと肩に力が入っちゃうし,
難しいな,気まずくなったら嫌だなって思っちゃうけど,
相手の考えてることを教えてほしいな,
自分が知らないことを教えてほしいなって気持ちで話せば,ずいぶん楽だよね。

淳哉

人と話す前にいろいろ調べなきゃって思うと大変だけど
話した後で、分からないことを調べた方が理解が深まるかも知れないし
そのくらいの軽い気持ちで話せばいいんじゃないかな。

篤子

それなら私でもできそうな気がする(笑)。

そういうやり方なら,相手がどんなにエライ人でも対話はできるよね。
安保法制に賛成している議員さんとか専門家の人とかでも,
「こういう話を聞いたので不安なんですが,どうなんでしょうか。」って
聞けばいいんだもんね。

淳哉

あのブログに書いた「相手の話をまず聞く」っていうのはそういう趣旨なんだよね。

篤子

「言い負かすために,まずは相手に言わせる」っていうのとは違うんだね。
なんか肩の力が抜ける気がするね。

傍らで寝ている息子:「グ~,グ~,グ~」

篤子:

すっごい大きいイビキ(笑い)。
ありがとうございました。また教えて下さい。

淳哉  はい。おやすみなさい。