1 はじめに
国際法学者をお招きして
新潟県弁護士会は、3月23日(土)、明治大学法学部兼任講師(国際法)の山田寿則さんをお招きして、憲法講演会を開催しました。
山田寿則さんは、長年核兵器廃絶の取り組みに関わってこたられた国際法学者です。
昨年11月の別冊法学セミナー『9条改正論でいま考えておくべきこと』では、「北東アジアの核情勢と紛争の平和的解決への道筋」を書いていらっしゃいます。また、昨年8月に開催された日弁連のシンポジウム「核兵器禁止条約の早期発効を求めて」にもパネリストとして登壇されるなど、国際情勢、とりわけ核情勢に造詣が深い先生です。
講演概要を下にまとめていますので、ぜひそちらをお読みいただきたいのですが、講演を聞くなかで国際法の視点から安全保障問題を考えることができ、視野が広がった様に感じました。参加された方からも同様の感想が多く聞かれました。同時に、北東アジアで平和を構築していくことの難しさも感じました。そうであるからこそ問題を単純化するべきではないし、日本としても複雑な状況に見合った理性的かつ慎重な対応をしていくことが必要であると思いました。
『わたしのねがい』
開会に先立ち、「憲法を詩おう♪コンテスト」で大賞を受賞した詩に、作曲家の谷川賢作さんが曲をつけた「わたしのねがい」のライブ映像を流しました。
小泉会長による主催者あいさつ
その後、小泉一樹新潟県弁護士会会長から、主催者あいさつがありました。
- 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定や安保法案の国会審議の際に、「安全保障環境が厳しさを増している」ということが繰り返し言われた。
- また、憲法9条の2を創設して自衛隊を明記しても「何も変わらない」ということも言われている。しかし、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず集団的自衛権を行使すれば、火の粉がふりかかってくることは間違いない。
- 県弁護士会としては、昨年5月に総会決議を行い、憲法に自衛隊を明記することの問題点をわかりやすく発信していくことを確認した。昨年11月には水島朝穂さんの講演会を開催し、憲法学者の目からこの問題をどう見るかについてお話をいただいた。今回は、国際法の視点から、国際情勢は本当に変化しているのか、またそれにどのように対応すべきなのかをお話いただくことにした。
2 山田先生の講演概要
(1)安全保障と国際法
最初に、国際法では安全保障をどの様に捉えているかという総論的なお話。
「安全保障」というのは多義的な言葉であるが、時代の推移とともに「国家の安全保障」から「人間の安全保障」へと移り変わってきている。
ア 安全保障の5つの要素
安全保障の要素として、「紛争の平和的解決」、「戦争の違法化」、「集団安全保障と自衛権」、「国際人道法」、「軍縮」の5つがある。どれか1つだけでは不十分で、それぞれの取り組みを多面的・多角的に広げていく必要がある。
イ 「戦争違法化」の歴史
中世から近代にかけては「正戦論」が支配していたが、どちらが正当かを判断する上位者が不在となったことで「無差別戦争観」が生まれた。その後、2つの大戦の悲惨な経験を経て「戦争の違法化」が進んだ。
ウ 勢力均衡と集団安全保障
安全保障について、19世紀までは「勢力均衡」という考え方が支配的だった。
ここでは2つのグループのどちらにも属さない国(G)が、グループ間の均衡が崩れないようバランサーの役割を果たすことが重要であるとされていた。
しかし、非常に不安定で、グループ同士の衝突に拡大しやすいという問題があった。
そこで、2つの「国連」は、「集団安全保障」の考え方を採用した。
これは、以下の様な特徴を持つ。
ああ・敵味方のグループに分かれるのではなく、1つの大きな集団となる。
ああ・戦争の違法化や紛争の平和的解決義務を定める。
ああ・ルール破りがあれば、みんなで制裁を加える。
エ 日本国憲法と国際法との対比
総論の最後に、「戦争の違法化」、「軍縮/自衛権」、「国際人道法」、「安全保障の仕組み」、「紛争の平和的解決義務」という5つの項目についてどのようなスタンスをとっているかが、日本国憲法と国際法の両者を対比しつつ語られた。
(2)朝鮮半島における安全保障体制
次に、朝鮮半島における安全保障体制をどう見るかというお話。
ア 朝鮮戦争と朝鮮国連軍
この問題を考えるうえでは、朝鮮戦争にまでさかのぼることが不可欠。
これに関わる国連決議は、安保理決議82~84と、国連総会決議376・498。
1950.11.30に、トルーマン米大統領が「原爆の使用についても、常に積極的な考慮が払われている」と発言した。
1953.7.27に休戦協定が署名されたが、当事者は国連軍(米)、北朝鮮、中国(義勇軍)の三者のみであり、韓国は協定当事者とはなっていない。また、朝鮮国連軍は現在も存続している。ただ、法的には戦争終結状態と見ることも可能。
イ 二国間条約に基づく北東アジアの安全保障体制
以下の2つの事情から、「集団安全保障体制」ではなく、「勢力均衡」に近い状態にある。
ああ・日米と米韓、ソ朝と中朝がそれぞれに二国間条約を結んでいる。
ああ・3つの常任理事国が関与→国連安保理は拒否権による制約を受けるため、機能しづらい。
ウ 北朝鮮から見た米国による核の威嚇
北朝鮮にとっては、上述したトルーマン米大統領の発言や、核戦争演習である米韓合同軍事演習等が、安全保障上の脅威と映っている。
このため、経済制裁の解除だけではなく、安全の保障、特に米の核の脅威を低下させることを重視しているのではないかと思われる。
エ 中国の核施策と態勢
中国が対外的に表明している核宣言政策は、自国防衛目的、核の傘は提供しない、先行使用はしないなど極めて抑制的。
他方で、核態勢は年10発程度のペースで漸増していると言われている。
(3)北東アジアにおける安全保障体制の代替案
最後に、北東アジアでどのような安全保障体制を構築していくべきか、その代替案についてのお話。
ア ICANの提案(朝鮮半島非核化ロードマップ)
まず、2017年にノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が提案している、「朝鮮半島非核化ロードマップ」について。
イ 北東アジア非核兵器地帯構想
次に、北東アジア非核兵器地帯構想について。
1つめは、北東アジア非核兵器地帯条約案とモデル議定書案。もう1つは、「北東アジアの平和と安全保障に関するパネル」による「非核化に必要な要素」に関するお話。