つれづれ語り(長時間労働規制その1)


「上越よみうり」の2月15日付朝刊に、「田中弁護士のつれづれ語り」(第3回)が掲載されました。

今回は、「働き方改革」の一環としての、長時間労働に対する規制についてです。
電通の新入社員が過労自殺した事件を受けて、社会的関心が高まっています。それを意義ある制度へと結実させることができるかどうかがいま問われていると思います。

昨日の働き方改革実現会議に示された政府案では、月単位の上限規制については触れられなかったようですが、政府としては月100時間、2ヶ月平均80時間を盛り込む方向で調整する意向と報じられているので、状況は基本的に変わりません。

次回(第5回)のコラムでは、法規制の実効性を確保するためにどのような工夫が必要かという点について書く予定です。あわせてお読みいただければ幸いです。

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2つの問題を乗り越える法規制の実現を

政府は、今月1日の働き方改革実現会議で長時間労働を抑制するための議論をはじめました。

1 現行法の規制

労働基準法は、労働時間について「1日8時間、週40時間」までと定めています。たとえ残業代を支払っても、この時間以上に労働者を働かせることはできないというのが、法律で定められた大原則です。

しかし、労基法36条に基づく労使の協定(三六協定)を結べば、この制限を超えて働かせることができるため、この原則はあまり意識されなくなってしまっているのが現状です。

厚労省の告示で、残業時間は「月45時間、年360時間」までとされてはいますが、特別条項付きの三六協定を結べば、年間6ヶ月までこの制限を超えて残業させることも可能なので、結局残業時間の上限はないに等しく、青天井だと批判されてきました。

2 政府案の意義と2つの問題

今回の政府案は、労使の協定によっても乗り越えられない上限を、罰則付きで設定しようというもので、大きな意義があります。

ただ、規制内容として不十分な点が2つあります。1つは残業時間の上限が長すぎる点、もう1つはインターバル規制が盛り込まれていない点です。実はこれらとは別に「規制の実効性を担保する制度が欠けている」という問題もあるのですがこの点については次回に回し、今回は内容の点に絞って語ることとします。

3 「過労死ライン」を超える上限

まずは、残業時間の上限が長すぎるという点です。
政府案は、年間の総残業時間を720時間(月平均60時間)とし、繁忙期には月100時間(2ヶ月平均で80時間)まで残業を認めています。

これは、厚労省の脳・心疾患の労災認定基準(=過労死の認定基準)を参考にしたものではないかと思われます。同基準では、「発症前1ヶ月間に100時間又は2~6ヶ月平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性が強い」とされているからです。

しかし、残業がこの時間に達しなければ過労死しないという訳ではありません。同基準は「月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症の関連性は強まる」とも定めており、月80時間未満の残業でも過労死として労災認定されるケースは実際にあります。

こうした実態に照らせば、繁忙期に限るとはいえ、月100時間、2ヶ月平均80時間もの残業を許容する上限設定は、実質的に過労死ラインを超えるものであり、規制としては緩すぎると言えるでしょう。

4 インターバル規制も必要

また、過労死を防ぐためには、インターバル規制も必要です。

これは、終業時刻と次の始業時刻との間に一定時間のインターバルを保障するという制度です。労働者の休息時間確保を直接の目的としている点で上限規制とは異なる意義があります。

法案の具体的内容はこれから作られます。今後の議論に注目しましょう。