『上越よみうり』のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2021年9月15日付に掲載された第118回は、「気候危機を打開するために」です。先日公表されたIPCCの評価報告書などについて書きました。今年の4月に書いた気候変動サミットに関するコラムとあわせてお読みいただけると、さらに理解が深まるかと思います。
気候危機を打開するために
頻発する気象災害
気候危機が全地球規模で顕在化している。今年6月以降だけでも、ドイツ・ベルギー・中国河南省の洪水、イタリア・カナダ・アメリカ西海岸の熱波、ギリシャ・トルコ・アルジェリアの大規模森林火災など、世界各地で多くの気象災害が発生している。国内でも、「数十年に一度」の豪雨災害が毎年のように起こっている。
気象災害の発生頻度は、気温上昇に伴ってさらに高まることが予測されている。世界の平均気温は、産業革命前に比べ既に約1.1度上昇しているが、これが1.5度に達すると「50年に一度の熱波」の発生頻度が8.6倍、「10年に一度の豪雨」の発生頻度が1.5倍になる。2度の上昇だと「熱波」が13.9倍、「豪雨」が1.7倍といった具合だ。IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が今年8月に公表した評価報告書に記載されている。
科学的根拠
IPCCの評価報告書は、1990年以降、数年ごとに作成されており、今回の報告書は第6次にあたる。
報告書は、地球温暖化の①科学的根拠、②自然環境や社会に及ぼす影響、③対策、という3つの内容からなる。今回公表されたのは、第1作業部会がとりまとめた、①に関する報告書だ。66カ国234人の専門家が1万4000本以上の科学論文を評価・検討して、作成された。②は来年2月、③が来年3月に公表され、3つをまとめた統合報告書が来年9月に公表されることになっている。
「疑う余地がない」
報告書は、人間の活動が温暖化に影響を及ぼしていることについて、「疑う余地がない」とした。温暖化については、これまで、「懐疑論」が一部に根強くあった。しかし、新たな評価法の開発や、スーパーコンピューターの性能向上により、科学的根拠がより強固になったのだという。
その1つが、「イベント・アトリビューション」という評価方法だ。温暖化によって個々の異常気象の起こりやすさがどのように変化するかを、シミュレーションを繰り返すことによって算定するのだという。茨城県つくば市にある気象研究所では、この手法を用いて、18年の西日本豪雨について、温暖化によって「発生確率が約3.3倍に増加」したと評価している。
5つのシナリオ
報告書は、今後予想される気温上昇について、温室効果ガスの排出量に応じた5つのシナリオを示す。
排出量が「非常に高い」最悪のシナリオでは、産業革命前と比べた気温上昇が、今世紀末までに4.4度に上るとされている。排出量が「非常に低い」シナリオでは、上昇幅が一時的に1.5度を超えるものの今世紀末の時点では1.4度の上昇に抑えることができるとされている。
そして、「非常に低い」シナリオを現実化させるためには、温室効果ガスの排出を、2030年までに2010年比で45%削減し、2050年までに排出を実質ゼロにする必要がある。
排出実質ゼロを実現するために必要なこと
国際エネルギー機関(IEA)が今年5月に公表した報告書によれば、2050年に排出実質ゼロを達成するためには、①新たな化石燃料の開発をやめ、②2030年までに先進国で石炭火力を全廃し、③すべての新築建物をゼロ排出仕様にし、④2035年までに内燃エンジン車の販売を禁止することなどが必要であるとされている。
日本政府は、2030年度に2013年度比で46%削減し、2050年には実質ゼロにする目標を掲げている。しかし、今年7月公表の「地球温暖化対策計画案」には具体的な施策はまったく盛り込まれていない。また、同月公表の「エネルギー基本計画案」では、石炭火力発電をベースロード電源からは外したものの、2030年度の電源比率で19%程度残すとしている。
今年10月末から、COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)が開催される。新しい総理には、日本が気候危機を打開するための国際的責務をしっかり果たせるよう、責任ある対応を期待したい。