つれづれ語り(管理・管理・管理)


『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。

2021年7月7日付に掲載された第113回は、「管理・管理・管理」です。篤子弁護士が、民法・不動産登記法の改正問題の最終回として、財産管理制度の改正について語っています。
なお、民法・不動産登記法改正に関する記事については、ここ最近多くの方からアクセスをいただいておりますが、「カテゴリーを選択」→「民法改正」と進むと、まとめて確認することができます。

管理・管理・管理

1 充実はしたけれど・・・

連続でお伝えしている民法・不動産登記法の改正。民法改正のラストは、相続財産管理制度と不在者財産管理制度の改正です。

前回までに共有物の管理者、所有者不明土地等管理制度、管理不全土地等管理制度が新設されるとお伝えしてきたので、読者のみなさんは「また管理制度か」と混乱しているかもしれません。そうなんです。今般の法改正は、増えすぎた空き家や所有者不明土地等への対処が目的なのですが、あれもこれもと管理制度を用意したことで、かえって「どのケースでどの制度を使えばいいか」がわかりにくくなっているのは否めません。国民が気軽に利用できるようにシンプルでわかりやすい制度にするという視点が欠けていたのは残念です。

2 従来の制度

さて、相続財産管理制度と不在者財産管理制度ですが、相続人が相続放棄した場合や、相続人の所在が不明な場合など、これまでもそれなりに利用されてきた制度です。改正内容は、使い勝手を良くするためのマイナーチェンジです。

まず、相続財産管理制度ですが、従来の制度は、「管理」と名がつくものの、実際は「清算」のための制度でした。例えば、空き家が相続放棄された場合、それを売却し、負債があればその代金を返済に充て、特別縁故者がいれば財産を分与し、それらを経てもなお残った財産があれば国庫に帰属させる、というのが主な手続の流れです。この中で、相続人・債権者・特別縁故者などに名乗り出てもらうための待機期間があるため、1年以上かかるケースが多いのですが、清算さえ終われば手続は終了します。制度の名称からすると「相続人に変わって空き家や空き地を公費で管理してくれる制度かな」というイメージを抱きますが、そうではありません。

3 名称変更と統一的な制度

改正法では、この制度の名称を実態に合わせて「相続財産清算制度」に改めました(さらに上記の待機時間を省略して手続を簡略化しました)。その上で、別途、管理に特化した相続財産管理制度を整備しました。「整備」と書いた趣旨は、現行法ではあちこちに散らばっている管理に関する条項を削除して統一の条文にし、穴があった部分にも適用されるようにすることで、相続発生から遺産分割または相続放棄の後までスキームレスに対応できるように条文を整理したということです。こちらは文字どおり、管理(保存)の制度であり原則として売却等はできません。ただし、管理費用の捻出のためにどうしても必要な場合には、家庭裁判所の許可を得て一部を売却できると解釈されています。ただ、実際のところ、相続放棄されるケースというのは、預貯金などの金融資産がほとんどなく、老朽化した空き家のみが残されている場合が多く、このように管理費用もリフォーム費用も解体費用もない場合にどうやって管理をするのかという問題は引き続き残るでしょう。

4 供託すれば終わりに

不在者財産管理制度については、「管理している財産をすべて換価して供託所に供託すれば、職務を終了することができる」という任務のゴールが明確にされました(相続財産管理人についても同様です)。もっとも、管理不動産を供託のために売却することがどのような場合に認められるのかは、事案ごとに裁判所と協議しながら進める必要があるでしょう。また、空き家の共有者の1人が不在者である場合には、この制度以外にも、所在不明等共有者の持分取得・譲渡の方法、共有者の管理者制度もできましたので、どれを利用すべきかは、その都度専門家に相談して決めた方がいいでしょう。


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