『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2021年6月23日付に掲載された第112回は、「慰霊の日に思う」です。戦没者の遺骨を含む土砂が米軍基地建設のために使われようとしている問題について書きました。人の心を土足で踏みにじるような、余りにひどい話だと思います。
「慰霊の日」に思う
沖縄戦の戦没者の遺骨を含む土砂が、米軍の辺野古新基地建設に使われる恐れがでている。
防衛省は、昨年4月、沖縄県に対し、辺野古の埋立海域で確認された軟弱地盤の改良工事等を行うために設計変更の承認申請を行ったが、その地盤改良工事に用いる岩石や土砂の採取予定地に沖縄本島南部の糸満市と八重瀬町が加えられたためだ。
本土防衛の「捨て石」
第二次大戦の末期、沖縄は「本土防衛のための捨て石」とされ、凄絶な地上戦により約20万人が亡くなったとされている。最後の激戦地となった沖縄本島の南部では特に多くの犠牲者が出ている。その中には「学徒隊」として動員された当時14~19歳の子ども達も含まれる。学徒隊の慰霊碑や塔が沖縄本島南部に数多く残されているのはそのためだ。
犠牲となった戦没者の遺骨の中には、いまだ収集されずに残されているものも多い。沖縄県平和祈念財団戦没者遺骨収集情報センターは、県全体でおよそ2800人分の遺骨が眠ったままであると推計している。戦没者の遺族らはNPO法人を立ち上げ、遺骨収集活動を続けている。糸満市では、一昨年4月から昨年3月までの1年間で38人分の遺骨が発見されたという。
人道上の問題
ボランティア団体「ガマフヤー」の代表として長年遺骨収集ボランティアを行ってきた具志堅隆松氏は、遺骨が残る南部の土砂で辺野古の海を埋め立てる行為は、戦没者や遺族への冒とくであり、人道上の問題だと批判する。
沖縄県議会は、今年4月、戦没者の遺骨を含む土砂を埋立てに使わないよう求める意見書を全会一致で可決した。沖縄県内の市町村議会でも、同様の決議が相次いで採択されている。辺野古の新基地建設に賛成の立場の自民党議員も、「遺骨を遺族の元に返したいというのは県民共通の思いだ」と述べる。
国の責務を放棄
戦没者遺骨収集推進法は、国に遺骨収集の責務を負わせている。つまり国は本来、自ら遺骨を収集すべき立場にある。遺族やボランティアが収集し続けているにもかかわらず、遺骨が多く残されている南部の土砂を埋め立てに使うことは、二重の意味でこの責務を放棄するものだ。
菅総理は、今年2月17日の衆院予算委員会で問われ、「南部で収集する場合は、業者に戦没者の遺骨に十分配慮するよう求めて参りたい」と答弁した。しかし、埋もれた遺骨は石灰岩と色が似ており、重機で採掘する業者が目視で判別するのは不可能だとの指摘もなされている。いずれにせよ「業者任せ」で済ませてよい話ではなく、国として責任ある対応をすべきだろう。
「唯一の選択肢」の内実
軟弱地盤が海底深くにまで広がっていることが確認されたことで、辺野古新基地建設は、費用の上でも、工期についても、当初の計画を大幅に超過することが確実な状況となっている。またこのように深い海底地盤の改良工事は前例がないことから,本当に実現可能なのかとの疑問も呈されている。一昨年2月の県民投票では埋立てに「反対」の票が72%にものぼった。しかし政府は、明確に示された民意を無視して、埋立工事を強行した。政府は「辺野古が唯一の選択肢」とのフレーズを繰り返すが、時間とお金を際限なく費やし、民意を無視し、さらに非人道的な行為までして、辺野古に新基地を作ることは、本当に選択肢たりうるのだろうか。
今日6月23日は、沖縄慰霊の日。「戦争による惨禍が再び起こることのないよう、人類普遍の願いである恒久の平和を希求するとともに、戦没者の霊を慰めるため」に定められた日だ。歴史の経緯に照らせば、沖縄戦の戦没者を慰霊すべきは沖縄県民だけではあるまい。戦没者の尊厳と沖縄県民の心を踏みにじる政府のふるまいを容認するかどうか、問われているのは私たちの方だろう。
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