『上越よみうり』に連載中のコラム、「田中弁護士のつれづれ語り」。
2019年10月29日付に掲載された第70回は、「患者の権利を確立することを通じて」です。上越医療問題弁護団の活動を通して感じていることを、患者の権利の観点から書きました。
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患者の権利を確立することを通じて
弁護団設立の目的
2016年4月に上越地域の弁護士有志で『上越医療問題弁護団』という団体を立ち上げ、活動している。
弁護団の目的は、規約で以下のように定められている。「医療事故の被害者の救済及び再発防止のための活動を通じて、医療における患者の権利を確立し、安全で良質な医療を実現すること」。つまり、弁護団としての最終的な目的は、①患者の権利を確立することと、②安全で良質な医療を実現することにある。
気になる風潮
法律相談等を受ける中で気になっているのは、患者側から医師や病院に対して何かを求めたり尋ねたりすること自体をためらう風潮があることだ。
例えば、医療記録の開示を請求する手続について説明すると、「そんなことしちゃって大丈夫なんでしょうか?」という反応をされる方がそれなりの割合でいる。改ざんのリスクがある様な場合には、裁判所に証拠保全を申し立てるのが適切だが、そうでない場合には、患者やその遺族が医療機関に対して直接カルテ等の開示を請求する方が簡便で、費用も低額に抑えられる。カルテ開示請求の根拠法でもある個人情報保護法の施行から既に10年以上経過しており、さすがにカルテの開示請求を拒む医療機関はほとんどなくなっている。
医療機関にとっても
わからないことや疑問に感じたことを聞くことができるというのは、患者としての当然の権利だが、そうした当たり前の関係とはかけ離れた実態がある。患者側のこうした意識も影響しているのか、医療機関側の説明が十分になされていないこともある。
そしてそのことが、医療事故が発生した際に、不信感や不満を増幅させたり、思いがけない勘違いやすれ違いを生じさせることにつながったりしている様に思われる。不幸な結果が生じてしまったものの、そこに医療従事者の過誤が介在している訳ではなく、事前や事後の説明がきちんとなされていれば患者や遺族が不信感を抱くようなことはなかったのではないかと思われるケースが存外多い。これは、医療機関側にとっても決して望ましいことではないだろう。
患者の自己決定権
かつては、患者の同意は、医療行為を適法に行うための要件として捉えられていた。医療行為は患者の身体に侵襲を加えるものであるが故に違法性を帯びており、それが適法なものとして許されるためには患者の承諾が不可欠であるとされていたのだ。判断・決定の主体は医師であり、説明は患者の同意を得るための手段であった。
しかし現在では、判断・決定の主体は、医師ではなく患者であるとされている。すなわち、患者は自らの意思と選択のもとに最善の医療を受ける権利(自己決定権)を有しており、選択を行うにあたり十分に理解できるまで医療従事者からの説明を受けることができる。医療従事者の説明義務は、患者が自己決定権を行使するために必要な情報を提供するものと位置づけられているのだ。
弁護団が果たすべき役割
私たちは、こうした患者の権利が確立されることが、安全で良質な医療の実現にもつながるのではないかと考えている。つまり、冒頭で触れた2つの目的はバラバラではなく、関連している訳だ。
そんな次第で、医療事故被害を救済することは当然として、より基本的なレベルで患者と医療関係者との間にある垣根を取り払い風通しの良い関係にしていくことも、当弁護団の大切な役割なのではないかと感じている。
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